【6月1日付編集日記】切れ切れ

 現代の社会は孤立した人間の集合体に過ぎなかった。大地は自然に続いているけれども、その上に家を建てたら、忽(たちま)ち切れ切れになってしまった―。夏目漱石は小説「それから」のなかで、主人公にこんな述懐をさせている

 ▼長く付き合ってきた友との間に修復しがたい亀裂ができたことに、主人公は孤立感を深め世を嘆く。小説が新聞に連載されたのは、日露戦争後間もない明治末期。極東の島国で漱石が見通した社会の実相は、いまに通じ、家を国に置き換えてもいい

 ▼イスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が続いている。「天井のない監獄」と呼ばれる人口密集地で、避難民の多くが集中している最南部ラファへの侵攻は苛烈を極める。国際社会の強い非難にも、指導者は聞く耳を持たぬようにみえる

 ▼国を滅ぼされ土地を追われたユダヤ人と、イスラエルの建国で土地を失ったアラブ人との相克は根深い。「世界史上、最大の難問」と言われるように、和平への道のりが険しいのも分かる

 ▼大地に幾多の国家が生まれた時点で、相いれない断絶は生まれよう。ならばせめて、武力によらず歩み寄るすべを探れないものか。長引く戦火は、憎しみと悲しみしかもたらさない。

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