6月にも“祝日”を…山形県の町が推す「空気の日」 議員ら“深呼吸”でアピール、国へ要望書提出も

“深呼吸”で空気への感謝の気持ちを表す朝日町町議ら(提供:朝日町役場)

なぜ6月には祝日がないのか――。

梅雨も近づき気がめいりがちな今、悲嘆に暮れている人も少なくないかもしれない。

そんな6月に祝日を作ろうという動きが、全国各地にある。国民の祝日を管轄する内閣府によれば、「6月に限らず、『祝日』に関する意見書等は一定数いただいております」という。

6月に祝日がないワケ

そもそもなぜ、6月に祝日がないのだろうか。“真相”を内閣府に尋ねると、以下の見解が示された。

「国民の祝日は『国民がこぞってお祝いをし、感謝をし、そしてまた記念をする日』です。

祝日は広く国民の皆さんの理解を得て、初めて決められるものであり、そのため、祝日法は国会の場において基本的に議員立法により制定・改正されています。

その結果として、現在の祝日法では6月に祝日が定められていないということになると思います」

国民の祝日は1948年に成立・施行された「祝日法(国民の祝日に関する法律)」に規定されている。当初は世論調査と国会審議によって選ばれた9つの日が祝日だったが、その後、主に議員立法によって祝日が追加制定されてきた。現在、祝日は16日ある(今年は振替休日を含めると21日)。

山形県の町が推す「空気の日」とは

6月の祝日創設を目指す動きのひとつが、山形県朝日町(あさひまち)議会が推す「空気の日」(6月5日)だ。同町は日本2位の広さを誇る磐梯朝日国立公園の主峰・大朝日岳(標高1870m)の山麓に位置し、約73%が原生林野という自然豊かな町土に6000人ほどが暮らしている。町の条例では、世界環境デーである同日を「空気の日」と制定。祝日化を求める意見書が2015年と2020年に国へ提出された。

同意見書には、「空気の日」の祝日化を要望する理由として「日本の美しい環境を次世代に引き継ぐため、空気に感謝するという気持ちを国民のすべてが銘記することは、上記の法律(※)と契合するものと考えられます」と記載されている。

※ 編注:祝日法第1条「自由と平和を求めてやまない日本国民は、美しい風習を育てつつ、よりよき社会、より豊かな生活を築きあげるために、ここに国民こぞつて祝い、感謝し、又は記念する日を定め、これを『国民の祝日』と名づける」

「空気の日」に対する町の人たちの思いをもっとも感じられる場所が、空気をご神体とした「空気神社」だ。町役場総合産業課の岡崎国宏さんが、建立のきっかけを語る。

「1973年、森林組合に勤めていた白川千代雄さんというひとりの町民によって、空気を祭る神社の建立が提唱されました。白川さんは山で仕事をする中で日々、きれいな空気とそれを生み出す自然の恩恵を実感していたそうです。

当時は高度経済成長期という時代背景もあり、実現にはいたらなかったものの、時を経て改めて『町内に広がる豊かな原生林野を守らなければならない』という意識が高まった結果、町民有志による空気神社建立奉賛会が立ち上げられ、町内外からの奉賛(寄付)を募り、1990年に空気神社が建立されました」

空気まつりではモニュメントの上で巫女(みこ)の舞が奉納される。ステンレス保護のため、通常は乗ったり物を置いたりすることは厳禁(提供:朝日町役場)

空気神社の中核をなすのは、5m四方のステンレス版モニュメント。建立にあたり実施されたコンペに集まった51作品から、谷津憲司さん(東北工業大学建築学科助教授 ※当時)の作品が選ばれた。

「無味無臭の空気をいかに表現するかが課題でしたが、四季折々のブナ原生林を映し出し、空気を光で感じることができる谷津さんの作品は、まさにコンセプトにぴったりでした。

モニュメントの地下3mには神殿があり、1年を表す素焼きのかめ12個が置かれています。神殿が公開されるのは『空気まつり』の開催期間のみですが、普段、地上で打った柏手(かしわで)がモニュメントのすき間から伝わってかめに反響し、『ポン』という独特の音が返ってくるのも聞きどころです」(同前)

空気神社がきっかけで、“空気”を扱う企業との交流も始まった。空調機器メーカー・ダイキン工業は2006年頃から、新商品のヒット祈願などで同神社を訪れている。また毎年「空気の日」と前後の土日には「空気まつり」を実施。今年は6月1・2・5日(5日は本殿御開帳のみ)に開催され、ダイキン工業のほか、空調機器メーカーのパナソニック 空質空調社、気泡緩衝材(いわゆるプチプチ)の業界シェア約6割を占める川上産業もワークショップを出展した。

町議会「祝日化の要望は継続的に行っていきたい」

「空気まつり」のほか、町議会では毎年「空気の日」前後に「空気に感謝する議会」を実施している。

「『空気に感謝する議会』では、開会前に12人の議員全員が空気神社の参拝方法にのっとって、①二拝 ②四拍手 ③両手のひらを内側に向けて腕を上げ、天を仰ぎ深呼吸(冒頭写真参照) ④一拝し、空気への感謝の気持ちを表します。

町議会としては、今後も国に対する『空気の日』祝日化の要望は、継続的に行っていきたいと考えているようです」(朝日町役場・岡崎さん)

空気まつりの実施などによって、町民のあいだでも「空気の日」は親しまれているといい、祝日化について「実現に向けて頑張って」といった声も寄せられているそうだ。

6月の祝日創設を目指す動きは、6月10日「時の記念日」などほかにもある。いつか、新しい祝日が6月に制定される日がくるかもしれない。

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