95歳「今が一番よろしいわ」 木村セツさんの新聞ちぎり絵展、富山で7日開幕

新聞ちぎり絵との出合いを語る木村セツさん=奈良県の自宅

はがき大に遊び心満載/娘と孫が活動応援

 「長生きして好きなことして元気に過ごせる今が一番よろしいわ」。木村セツさん(奈良県)は90歳から新聞ちぎり絵を始め、95歳になった今も制作意欲が衰えない。富山市民プラザで7日に開幕する「95歳セツの新聞ちぎり絵原画展」を前に自宅を訪ねると、優しい人柄がにじむような関西弁で、新聞ちぎり絵との出合いや魅力、家族への感謝の気持ちを語ってくれた。

 新聞紙の素材を集めた箱の中には、色とりどりの新聞広告や風景写真などが敷き詰められている。セツさんは箱を膝の上に置き、1枚ずつ目を通してお目当ての色を探す。この色選びが一番のこだわりで、数日かけることもある。「これは貴重な色で、なかなか出てきまへん」

 作品は主にはがきサイズ。新聞紙から色や写真、文字の部分を選んで細かくちぎり、貼り合わせて作る。セツさんの手にかかれば、新聞紙がみずみずしい野菜や、おいしそうなハンバーガーへと変わる。

食べること好き

 セツさんは長女の幸子さんと暮らし、自分のできることは自分でこなしている。

 これまで銀行員や養鶏、農業などの仕事に従事し、これといった趣味も持たずに懸命に働いてきた。2018年、夫の弘さんを亡くしたことで気を落とし、何も手に付かなくなってしまったという。

 「これやったらお母さんもできるんと違う?」。見かねた幸子さんが勧めたのが新聞ちぎり絵だった。弘さんの入院先にちぎり絵が飾ってあったことを思い出し、新聞ちぎり絵の教材を見つけてきた。

 あっという間に教材にあるお題を全て完成させ、すぐにのめり込んでいった。気分が良い日は1日に5~6時間制作することもあり、食事を忘れるほど熱中する。

 毎日、朝刊と夕刊を広げ、気に入った写真や新聞広告を見つけると、はさみで切って収集する。「主人は新聞をよく読んでいたけど私は苦手。目に入るのは絵や色ばっかりですわ」と笑う。

 食べることが好きで、作品の題材も食べ物が多い。記事の文字をアクセントに使うことがあり、ゲソの天ぷらの中に「減塩」、鉄板ステーキの中には「価格9350円(税込)」を入れるなど、くすっと笑える遊び心がある。グラフィックデザイナーの幸子さんは「色や文字の選び方がいい。ここまでのめり込むなんて思わなかった」と驚く。

SNSで話題

 幸子さんは褒めることを大切にしている。作品がうまくできた時は「こんなんできたら何でもできるで。頑張りや」などと声をかけている。めきめきと腕を上げていく姿を見て「集中力がすごい。また元気な姿を見ることができて良かった」と言う。

 作品が全国に広まったのは、孫でイラストレーター、漫画家のいこさんのSNS(交流サイト)での発信がきっかけ。19年にブロッコリーの作品を載せたところ、たちまち話題になった。その後は、いこさんと幸子さんが作品を紹介する専用のSNSアカウントを作って管理するなど、家族で活動を応援している。セツさんは「『自分の体だけ守りや』って言ってくれるので、安心して好きなことをやっていられる」と感謝する。

 SNSには「元気になりました」「私もちぎり絵をやってみたい」といったコメントが数多く寄せられる。セツさんは「たくさんの人から感想をもらうと、私の方が元気になり、やる気が出てくる」。

新作も公開

 20年に作品集を出版後、全国各地で作品展を開く。7日からの富山展は、大規模な個展としては2回目。これまで手がけた約160点の作品を、温かみのある関西弁のコメントと合わせて紹介する。

 富山らしい新作も公開する。セツさんは「広い所でやらせてもらえて、ありがたいですわ。大勢の方に見ていただいて、感想もいただけたら力になります」と謙虚に話す。

 「いくつになっても勉強しなあかんで」。セツさんは、弘さんからかけられたこの言葉が心に残っている。「ちぎり絵は生きがいです。何歳まで作らしてもらえるか分かりませんけど、まだまだ一生懸命やりたいです」

95歳セツの新聞ちぎり絵原画展

【会場】
 富山市民プラザ2階アートギャラリー(富山市大手町)
【会期】
 6月7日(金)~7月7日(日)
 会期中無休
【開場時間】
 平日午前11時~午後4時
 土、日曜午前10時~午後5時
 初日は午前10時~午後5時
【チケット】
 中学生以上500円、小学生以下無料
 事前販売は北日本新聞社本社・西部本社・各支社と北日本新聞各販売店で扱う。当日券は会場でのみ販売する。
【問い合わせ】
 北日本新聞社事業局 電話076(445)3355

「ゲソの天ぷら」
「ブロッコリー」
幸子さん(左)が見守る中、箱の中にある新聞紙の素材を探すセツさん

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