「ゴミと思ったら虫!?」黒い落花生の皮のような虫の名は「マダラマルハヒロズコガ」アリのおこぼれを狙って生きている

「テラスにゴミが落ちていると思ったら…虫でした!」と、SNSに投稿されたこの動画。
画面中央には、黒い落花生の皮がつぶれたようなものがあり、しばらくするとゆっくりと移動を始めます。

よく見ると、幼虫のようなものがちらりと見え、尺取り虫のような動きで前進しています。

害虫駆除などを手掛ける岡山市の東洋産業、大野竜徳さんにこの謎の虫について聞きました。

(東洋産業 大野竜徳さん)
「マダラマルハヒロズコガです。チョウやガの仲間は植物が好きなものが多いですが、マダラマルハくんはどうやら虫の死骸などを食べています。アリの巣の周りでよく見つかるのですが、どうやらアリのおこぼれを狙っています」

(東洋産業 大野さん)
「アリは巣の周りに巣で出た虫の死骸、運び込み切れなかったエサをポイポイ捨てます。それを待ってましたとばかりに食べます。

ただし、裸一貫突撃すると自分が餌になってしまうので、丈夫な2枚貝のような巣をこしらえて身を守っています。アリに襲われてもこの巣をぴっちり閉じて身を守ります」

ー黒い落花生の皮のようなものは「巣」なのですね。

(東洋産業 大野さん)
「この巣が変わっていて、鼓蓑虫とも呼ばれます。なんでこんな形にするのかわかりませんが、周りの土やおがくずを集めて糸などでつづります。

この巣はずっと引きずって歩きますが、意地悪して没収しても同じように巣を作りますし、だんだん鼓の外側から増築していきます。【画像④】のように外はザラザラですが中はつるつるしています」

アリのおこぼれ狙いの生き物は他にも…

(東洋産業 大野さん)
「アリの巣の周りにはこういうおこぼれ狙いの生き物や何なら巣の中に入っていく、あるいは同居する剛の者もいます。

チョウの仲間だと小さいどこでもよく見るシジミチョウの仲間はアリの巣に入り込んでしまうやつらですね。うまくアリの巣に溶け込んで、アリと共生しています。中にはアリの意識をだまして幼虫を襲ってしまうシジミチョウもいます」

「マダラマルハヒロズコガの動画を撮った人はぎょっとしたかもしれませんが、たぶん迷子になってやってきてしまったのでしょう。きっと近くにアリの巣があったんだと思います。

人に危害は与えませんので、『変な生き物をみた』と話題にしていただければいいのかと思います」

ー変わった名前ですが、何か意味があるのでしょうか。

(東洋産業 大野さん)
「斑(マダラ)・丸羽(マルハ)・広頭(ヒロズ)・小(コ)・蛾(ガ)とわかれます。まだら模様の、丸っこい翅をもつ、ヒロズコガ(ガですね)の仲間です。

ヒロズコガは頭に毛がもしゃっと生えていて、目の一部を覆うように見えるので、頭が広く見えることから『ヒロズ』コガです」

ー成虫の姿は見かけたことがある気がします。

(東洋産業 大野さん)
「ヒロズコガ科の中にはイガという仲間がいて、それが最も人の生活には悪いことをするでしょうか。ウールやカシミア、毛織物が大好きで、乾燥した動物性たんぱく質を食べ回ります。このガの幼虫もミノをつくります。

周りに落ちている毛や糸を縫い合わせて筒のような巣を作り、体をしまって、頭だけ出して移動します。マダラマルハヒロズコガも似たような特徴を持っています」

害虫の専門家からみれば、同時に映り込んだ別の虫のほうが問題!

大野さんは、このガの幼虫よりも、画面右から左に通り抜ける2匹の虫のほうが問題だといいます。

(東洋産業 大野さん)
「マダラマルハヒロズコガよりも、動画の中を動いているアリのような2匹はヤマトシロアリの新婚さんで新居を探している奴らですね。こっちのほうが家には害がありそうです。ちょうど雨も降って湿度もいい感じでシロアリが近くで結婚飛行をしたのでしょうね」

「結婚飛行は、シロアリの巣から新しい女王と王を大量に飛ばし、集団お見合い・結婚式をしているものです。うまくペアになることができたら新しい巣を作るために二匹で新居を探します。この時、いらない翅は落として、歩き回るアリのようになります。

動画で見えるのが、この姿です。ちょうど内見に向かっているみたいですね。メスがオスを引っ張るように進んでいる感じがしますよね。これはメスが前に立ち、フェロモンを出していて、オスはそれを一生懸命追いかけているからです。

これをタンデムといいます。このままうまく気に入った新居にたどり着いて子育てが始められるかどうかの瀬戸際ですね」

ーシロアリという名前ですが、このアリは黒いですね。

(東洋産業 大野さん)
「シロアリはお日様に当たらず、暗いところで一生を過ごすので、働きアリたちは色白で、これはまさにザ・シロアリです」

「ですが、このヤマトシロアリの女王や王は日中に飛ぶので、白い体だと紫外線でやけてしまいます。なので、紫外線でダメージを受けないように黒い体をしています」

ー見かけたらどうしましょう?

(東洋産業 大野さん)
「この姿のものがいるからといっても巣があるわけではありません。ほとんど巣作りは失敗します。それでも気持ち悪ければかわいそうですが殺してしまうか、最悪巣作りはどちらもがいないと成功しないので、強制的に離婚させてもよいです。

シングルさんは子育てできません。このタンデムがあちこちで見られるなら、リスクが高まるので、家の周りに殺虫剤をまいておくのも予防になります」

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