渡欧3年目を終えた二田理央は今、何を思うか。悔しさも、手応えもあった。「自分が本当にやりたいことも捨てちゃいけない」【インタビュー】

二田理央のザンクト・ペルテン完全移籍が、サガン鳥栖から発表されたのは昨夏のことだ。これがヨーロッパでの3シーズン目となる今季、二田は本当の意味での海外組となって、初めてのシーズンを過ごしたことになる。

二田が最初に海を渡ったのは、まだ高校3年生だった2021年夏。鳥栖からの期限付き移籍でオーストリア2部(当時)のヴァッカー・インスブルックに加入し、主にセカンドチーム(U-23)でプレーした18歳は、その舞台が3部リーグだったとはいえ、19試合出場で21ゴールを量産し、得点王を獲得した。

すると、昨季はオーストリア2部のザンクト・ペルテンへ期限付き移籍。怪我による長期離脱がありながらも、シーズン後半に戦線復帰し、14試合出場で2ゴールを記録した。

そして迎えた今季、晴れて正式にザンクト・ペルテンの一員となった二田は、自身のゴールでクラブを1部リーグ昇格(2部リーグ優勝)へと導くことを誓いながら、昨季の3位を大きく下回る9位に終わり、目標には手が届かなった。

まさかの結果に終わったシーズンにあって、二田自身も25試合に出場はしたが、先発出場は7試合にとどまり、得点数も昨季と同じ2ゴール。とても満足いく数字を残したとは言い難い。

渡欧3年目にして最も厚い壁にぶつかったようにも見える21歳は今、何を思うのだろうか。シーズンを終えた二田に話を聞いた。

――◆――◆――

――まずは今季を振り返ってください。

メンバーも新しくなって、シーズンの最初はチームに勢いがありましたし、自分も開幕戦からスタメンで出て、点も取れたんですけど、そこから主力に怪我人が出てきて。(チーム低迷の)原因はいろいろあると思うんですけど、最初の5、6試合が結構良かったので、やっぱり相手もそれに対策して引いてくるチームが多くなってきて、ボールを保持していても決められるところを決めきれないで、引き分けたり、負けちゃったりという試合が増えてきました。

それに、その前の(2022-23)シーズンは結構、若手中心(のチーム編成)でやっていたんですけど、今季はベテランの選手たちが入ったことで、どんどん前からプレスにいったり、背後を狙ったりっていう怖さが少しなくなってしまったのかなとも思います。

――1部昇格を狙っていたからこそ、実績のあるベテラン選手を補強したわけですが、シーズン序盤は首位に立ちながら、そこから大きく順位を落としました。

圧倒的にボールを保持していても、カウンター一発でやられて、雰囲気が悪くなって、変なミスをしてボールを失って、また点を取られて、みたいな。個々には良い選手がいて、最初は昇格できるんじゃないかって思っていたのに、ここまで落ちちゃうっていうのは...初めての経験でした。

――自分自身のパフォーマンスについてはどうですか?

引いてくる相手が多くなるとスペースもなくなって、自分の武器である背後への抜け出しができなくなって、落ちて受けるみたいなプレーが多くなった。そうなると、そこを得意とする選手がいるので、自分がスタメンから外れるようになってしまって。

後半から出るとなった時には、背後への抜け出しや1対1の仕掛けをどんどんやっていたので、(先発ではなくても)試合には出させてもらっていましたけど、自分が思うようにはいかず、勝てない試合も多かった。自分としても、チームとしても、厳しいシーズンだったと思います。

――渡欧以来、最も悔しいシーズンだったのではないですか?

うーん...もちろん、すごく悔しかったし、自分の中でもっと結果を残したかったっていうのはあります。でも、「どうすればいいんだ?」って、めちゃくちゃ悩みを抱えるみたいな感じではなかったです。1対1で勝てるパターンができてきたり、すごいうまくいった試合もあったので、昨季よりも明らかに自信はついたと思います。

(第24節の)グラーツァーAK戦では自分が点を決めたんですけど、それも自分が得意とする背後に抜ける形でしたし、優勝したチーム相手にもそれをやることができた。それ以外にも、「この感覚を毎試合、続けられたらいいな」って思える試合は結構ありましたから。そういう良い変化を感じられたシーズンではあったので、「次のシーズンはやってやる!」っていう気持ちになっています。

――クラブが低迷するなかでも、個人的に得たものは小さくなかった、と。

たとえば、一度真ん中に下りてボールをもらう時でも、「昨季だったら、こんなに落ち着いてプレーできていなかったな」と思うことは多かった。高校(サガン鳥栖U-18)の時もそうだったんですけど、自分の課題を見つけて練習して、それが克服できそうだなと思っても、次の試合ではまたダメだったりする。

でも、それを繰り返していくと、だんだんプレーの波が落ち着いて、本当に自分ができるようになっていくんです。そういう手応えが感じられるシーズンでした。

――苦しいシーズンとあって2度の監督交代もありましたが、それをきっかけに出番を失うこともありませんでした。

そうですね。逆に自分の場合は、どの監督にもすごく評価してもらっていたと思います。監督も自分の武器を分かってくれて、張って背後を狙うのか、足もとでもらって1対1を仕掛けるのか、そこは自由にしていいみたいな感じでしたから。

昨季は、「お前はここにいなくちゃいけないんだぞ」という感じで言われていたので、視野が結構狭くなっていたんですけど、自分の判断でプレーすることによって、試合をより広い視野で見られるようになりました。細かいところですけど、自分の中で発見もありました。

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――オーストリアで3シーズンを過ごしてみて、ヨーロッパにいることの価値をどんなところに感じますか?

今季に限らず、前から思っていたことですけど、自分のことを知り、自分のために費やす時間が多くなったところだと思います。今季は自分のコンディショニングをより意識するようになりましたし、特に食事とか、睡眠とか、疲労回復のところを意識するようになりました。気持ちの面でも、ひとりで海外にいるとストレスも感じますけど、そういう変化に気づけるようになったのは良かったと思います。

――このところ、ヨーロッパへ渡る20歳前後の選手も増えてきました。彼らの存在を意識しますか?

自分はあまり周りと比べたりしないので...別に「周りが活躍しているから、オレも頑張らないと」って思ったりもしないですし、あまり気にしていないですね。ホント、自分のことしか考えていないので(笑)。

――先ごろ、行なわれたU-23アジアカップでは日本が優勝しました。同世代の選手が国際大会で活躍していることについてはどうですか?

試合は見られなかったので、あとでハイライトなどを見ていました。もちろん、自分もそこに行きたいなっていう気持ちはありますけど、でも、今の自分の結果では無理だよなっていうのも分かっています。

だから、常にどうやったらそういうレベルに自分が行けるのかを考えつつ、まずはチームで結果を残さないといけないなと思っています。ただ、今は自分の中で、自分が日本代表でプレーすることがイメージしづらいというか...。

――というと?

正直なことを言うと、自分は1トップや2トップのフォワードとして戦いたいっていうのがあるので。今(ザンクト・ペルテンで)出ているのはサイドやトップ下なので、もっとゴールに近いところで勝負したいなって思っています。やっぱり代表でやるからにはフォワードで出るのが理想なので、今の自分は理想の自分とは違う、というのがあるんですよね。

――本当はザンクト・ペルテンでも、フォワードで試合に出たい。

そうですね。今季はフォワードで1試合も出られていないので、試合を見ながら、「オレがフォワードだったらな」みたいなことを考えることもありました(苦笑)。でも、自分にとっては、こういう時期も大事なんだろうなって思っています。

高校の時も、高2まではずっと右サイドハーフをやっていて、当時は不満もあったんですけど、今となってはその経験が生きているなって思うので。実際、今のポジションで見つける課題は自分の伸びしろだと思っていますし、ずっとフォワードだったら、その課題は見つけれなかっただろうし、できないことはできるようになるに越したことはない。

だから今、自分が置かれているポジションで課題が見つかったら、それを克服しつつ、自分が通用している部分はもっと伸ばす。それを続けていきながらも、自分が本当にやりたいことも捨てちゃいけないなとは思っています。

――そこにはフォワードをやれるという自信もあるのですか?

高3の時や、こっち(オーストリア)での最初のシーズンを経験して、やっぱり自分はフォワードだなっていう気持ちがすごくありますね。それに今は、ポストプレーで相手を抑えるフィジカルとか、当時はなかったものを持っていると思うので、そういうことも含めて、やってみたいなっていうのがあります。

――具体的にフォワードでプレーするイメージも持っているわけですね。

フィジカル面は結構、成長したなと思っていて、実際、右サイドでプレーしていても相手を背負うことがあるんですけど、そこでも負けることなく、相手を抑えてボールをつなぐことができる。それをワントップでやるとしたら、相手を抑えて反転すれば、自分のスピードならそのまま勝てるなって思うので。そのポジションこそが、自分の生きる場所なんじゃないかなって思っているんです。

――今は主にサイドアタッカーとして腕を磨きつつも、いずれはフォワードを目ざす、と。

たまに(チームが基本のワントップではなく)ツートップにすることもあったんですけど、それでも(自分はフォワードとしては)出られなかった。自分はサイドで1対1を仕掛けたり、背後を突いてクロスを上げたりする、サイドアタッカーとして評価されているんだと思います。

そこで良いプレーをすることで、見に来てくれているサポーターの人からも、「リオ、仕掛けろ!」みたいな感じで声をかけられたりもしますし。もちろん、それはそれで自分の武器ではあると思うんですけど...でも、やっぱりフォワードでやりたいなっていうのはありますね、ホントに(笑)。

取材・構成●浅田真樹(スポーツライター)

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