「僕にも娘がいるから、この役はしんどかった」大泉洋さん、自身の家族と重ね合わせた大役

シリアスからコメディまで巧みに演じ分け、数多くの作品で主演を務めてきた大泉洋さんが新たに挑んだのは、愛する家族の未来を変えるために立ち上がるひとりの父親役。作品への想い、自身の家族への想い、そして50代を迎えた今の想いをたっぷり伺いました。

PROFILE
大泉洋さん・俳優

おおいずみ・よう●1973年、北海道生まれ。
大学在学中に演劇ユニット「TEAM NACS」を結成する。北海道テレビ制作のバラエティ番組「水曜どうでしょう」で人気を博し、知名度が全国区に。以降は映画、ドラマ、舞台、バラエティ番組などでマルチに活躍中。
近作に映画『月の満ち欠け』『こんにちは、母さん』、ドラマ「元彼の遺言状」「ラストマン–全盲の捜査官–」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」など。

子どものために突き進む父親の姿に自分を重ねて

映画やドラマに出演すれば幅広い演技で観る者を魅了。バラエティ番組では持ち前のトーク力で笑いを巻き起こす。他にも声優や歌手など、多彩な顔をもつ大泉洋さんは希代のエンターテイナーだ。

北海道江別市の出身。大学時代に演劇研究会の仲間と「TEAM NACS(チーム・ナックス)」を結成し、芸能活動をスタートした。北海道テレビ制作のバラエティ番組「水曜どうでしょう」で北海道のスターに。今や“国民的スター”といわれるほど、抜群の存在感を放っている。

そんな大泉さんが主演する映画『ディア・ファミリー』が、6月14日に公開となる。生まれつき心臓疾患を抱え、幼い頃に「余命10年」と宣告されてしまった坪井家の二女・佳美。小さな町工場を経営する父・宣政は、娘の命を救うために「じゃあ俺が人工心臓を作ってやる」と立ち上がる。その宣政を演じるのが大泉さん。

ありがちなお涙頂戴の作品ではない。なぜなら、この物語は実話に基づいているのだ。

「自分の娘に先天的な病気があって……というストーリーですが、それだけでは終わらない物語。脚本が素晴らしかったので出演を引き受けました。そして本作にはモデルとなるご家族がいらっしゃいます。撮影前、僕が演じた宣政のモデルとなった筒井さん(劇中では『坪井』とアレンジされている)にお会いしたのですが、もう80歳を越えているのに本当にパワフルで、昔のこともたくさんお話をしてくださって。実際にお話を伺ったことで、一気に宣政という役のイメージが湧きました」

舞台となるのは1970年代。心臓疾患は致命的な病と考えられていた。医療の世界とは無縁だった男が、娘の命を救いたいという一心で人工心臓の勉強に励み、自己資金と時間を費やして挑んだ10年ーーー。

「筒井さんは『人工心臓は絶対にできると信じていた』とおっしゃっていました。絶対に諦めない、弱音を吐かない。純粋に子どもを助けたいと思って突き進んでいく父親。僕も撮影中は常にその信念を胸にしまって演じていたような気がします」

とはいえ、素人の医療器具開発にはさまざまな障壁が立ちはだかる。その間にも大切な娘の命のリミットは刻一刻と迫り……。

「僕にも娘がいますから、この役はしんどかったですね。自分が同じ立場だったら、果たして宣政さんのように前向きに強くあれるかどうか……。ただ、子どものために全力を尽くす、やれることは何でもやるというところは同じだろうなと感じます。『人工心臓を作ってやる!』という発想まではできないかもしれないけれど、子どものためなら迷わず私財をなげうつと思います」

ジャケット 7万3700円、パンツ4万8400円、シャツ4万1800円br/以上suzuki takayuki(☎03-6821-6701)

撮影現場は雰囲気もよく、本当の家族のようでした

不可能に挑む宣政を支えるのは妻と娘たち。どんなときも明るく、ときに頼もしく夫をサポートする妻・陽子を菅野美穂さんが演じる。

「菅野さんは現場でムードメーカー的な存在でした。とにかく明るいんですよ。笑い声で『あ、菅野さん来たな』とわかる。姿が見えなくても現場に入ったことがわかるのは柳沢慎吾さん以来です(笑)。娘役の福本莉子さん、川栄李奈さん、新井美羽さんもみんな仲よく、とってもいい雰囲気。本当の家族のような温かみのある、楽しい現場でした」

大泉さんにとっても家族はかけがえのない存在。自身を「家族との結びつきが強い人間」と話す。

「仲のいい友だちももちろんいるけれど、ついつい飲みに行くというよりは家族といるほうがラク。だから僕はどちらかというとつき合いが悪いほうです(笑)。友だちと出かければ出かけたで楽しいんですけどね。でも家族といるのが好きなんでしょうね。月に何回かしかない休みを友だちと遊びたいか、家族と過ごしたいかと聞かれたら、100%家族といたい。僕はそういう人です」

50代になって不安や焦りも感じています

50歳を迎えた昨年は、俳優業に加えて音楽活動にも精力的に挑戦。50歳を記念したリサイタルツアーの開催、初のベストアルバムのリリース、そして年末には「NHK紅白歌合戦」に歌手として出場を果たした。

「バカバカしい歌も含めて、ずっと歌を作ってきまして。せっかく作ったんだから、ファン以外の皆さんにも聴いてもらいたいなと思うようになったんです。何か新しいことをやってみようかという気持ちもあったので、『50歳になった』を言い訳に、今まで恥ずかしくてできなかった音楽活動をやってみました」

歌手として立ったステージには、芝居とはまた違う楽しさがあった。

「最初は『1回限りでいいや』と思っていたんだけど、すごく上手なバンドメンバーと私の子猫ちゃん(大泉さんのファンネーム)たちと一緒につくり上げる空間、時間、エンターテインメントがすごく楽しかったんです。音楽って、そういう幸せな関係にあふれているんだなと思うと同時に、『また面白い扉を開けちゃったな』という気がしています」

人気は高まる一方で、さまざまな作品のオファーが引きも切らない。順風満帆な50代のスタート!かと思いきや……。

「50代になった途端に体にいろいろな不調が出てきて、神様から『このままだと、今までどおりには仕事ができなくなるよ』と言われている感じです。現にケガしたりして。今、ようやく少しよくなってきたところです。40代まではそんなに体をいたわらなくても仕事ができていたんだけど、50代からはそれではやっていけないような気がします」

体だけでなく心境にも変化が。

「50歳まではいただいた仕事をどんどんこなしていけた。けれど、ケガのこともあって、『このペースではきつい、もう少しゆっくりにしましょう』ということにしたんです。でも、ペースをゆっくりにするということは、自分ができる仕事量が減るわけですよ。60歳という大台まで10年を切ったなかで、『自分はあとどれだけ仕事ができるだろう』と考えると、少し不安になります。それに、50歳なら40代の役もできるけれど、さすがに60歳になったらもう40代の役はできないでしょう。そうなると、今できているお父さん役もタイムリミットが近づいてきているのかなって。今はそんな焦りのようなものを感じています」

素顔の大泉さんが垣間見られた瞬間。しかし、すぐに表情を緩めて「こういうの、あんまり雑誌で話すことじゃないよね。これじゃあ読者の皆さんも希望がもてないもん(笑)」。このやさしさとサービス精神が多くの人に愛される理由なのだろう。

さて、50代からの人生をどのように自分らしく過ごすかは、私たちにとっても大きな課題。不安や焦りを抱えながら、大泉さんはこれからの人生をどう思い描くのか。

「僕はワーカホリックというわけじゃない。仕事してなきゃ落ち着かないなんてことはないし、しっかり休みは欲しいんだけど……ただ、一番の趣味もやっぱり仕事なんですよね。人間は誰しも自分の存在意義みたいなものを求めて生きていると思うけれど、自分のやりがいという意味では、僕には『人を楽しませたい』ということ以外にやりたいことがない。バラエティ番組で人を笑わせたいとか、映画で人を感動させたいとか、それしか興味がないんです。だから自分がやりたいことに正直に生きる、たぶんこれからもね」

INFORMATION

映画『ディア・ファミリー』

世界で17万人の命を救ってきたバルーンカテーテル誕生に隠された、家族の愛の実話。心臓に先天的な疾患を抱え、「余命10年」を宣告された娘・佳美(福本莉子)のために、自分が人工心臓を作ると立ち上がった父・宣政(大泉洋)。限りなく不可能に近い挑戦だったが、後に大きな奇跡を生むーーー。

原作:清武英利『アトムの心臓「ディア・ファミリー」23年間の記録』(文春文庫)
監督:月川 翔
脚本:林 民夫
出演:大泉 洋、菅野美穂、福本莉子、川栄李奈、有村架純、松村北斗、光石 研 他
●6月14日(金)より東宝系にて全国公開
©2024「ディア・ファミリー」製作委員会
映画『ディア・ファミリー』公式サイト

※この記事は「ゆうゆう」2024年7月号(主婦の友社)の内容をWEB掲載のために再編集しています。

撮影/中村彰男 ヘア&メイク/白石義人(ima.) スタイリング/勝見宜人(Koa Hole inc.) 取材・文/本木頼子


© 株式会社主婦の友社