【県高総体】避難して7か月 ウクライナ人高校生 相撲競技で仲間とともに優勝目指す《長崎》

長崎市の高校で、相撲部部員として練習に励むウクライナ人の少年が、県の「高校総体」出場。その姿に密着しました。

日本に避難して7か月、初の公式戦に挑みます。

▼ウクライナから避難の高校生 将来の目標は「横綱」

県立長崎鶴洋高校 相撲部。

(指導)

「エゴール。突く、突く」

身長188センチ、体重168キロ。2年生のエゴール・チュグンさんです。

(エゴール・チュグンさん)

「私、日本の相撲 1番好きです。日本の相撲は、ウクライナの相撲よりもっともっと強い。立ち合い、一番大切」

出身は、ロシアによる侵攻が続くウクライナ。去年11月、家族と離れて1人 長崎市に避難してきました。

幼い頃から相撲が大好きで、将来の目標は「横綱」。

その夢をかなえたいと、相撲部に入りました。

▼「今までやってきた相撲じゃ勝てない」と涙の日々

日本に来て7か月。

(長崎鶴洋高校相撲部 髙橋修 監督)

「来日当初は、自分が今までやってきた相撲じゃ勝てないと。毎日涙を流しながら、思うように相撲がとれないっていうもどかしさが、本人の中ではずっとあったんじゃないか」

アマチュア相撲のウクライナ代表にも選ばれたチュグンさんですが、相撲発祥の地、日本のレベルを痛感。

(長崎鶴洋高校相撲部 髙橋修 監督)

「エゴール。前、前、前」

相手を突き放す “前に出る相撲” が課題です。

そんなチュグンさんに、初の公式戦が近づいていました。

(エゴール・チュグンさん)

「このままだと負ける。負けます。まだちょっと自信ない心配。心配です」

臨むは 県の高校総体。絶対に勝ち、ウクライナにいる両親に吉報を届けたい。

試合は、11日後です。

(エゴール・チュグンさん)

「(高総体が)これ、私の初めての日本の大会です。一番大切です、今」

▼戦争で命を落とした友人も 今は日本の仲間たちとともに

ロシアによるウクライナ侵攻が始まり、生活が一変したチュグンさん。

家の近くに原子力発電所があって非常に危険な地域だといいます。

友人はこの戦争で命を落としたそうです。

母の尽力で長崎の高校に入学してからは、学校の寮で生活しています。

日本での生活もかなりなじんできたようで、強い体をつくるため、“お米”もたくさん食べるようになりました。

日本語も上達し、仲間と笑顔で会話もする毎日です。

(相撲部の同級生 西山瑛太さん)

「あしたは何の授業」

(エゴール・チュグンさん)

「英語、日本語、数学」

(相撲部の同級生 西山瑛太さん)

「あっち(ウクライナ)で食べるご飯をたまに作ってくれて、寮で一緒に食べたり時々する。最近思っていることや、相撲だけじゃなくて学校の話や寮の話をよくする」

(エゴール・チュグンさん)

「日本の生活は、おもしろくて楽しい」

大好きな仲間と共に、デビュー戦へ。気持ちは高まります。

(エゴール・チュグンさん)

「私は勝ちたい。勝ちたいです。インターハイも勝ちたい」

▼両親へ吉報を届けたい! 来日して初の公式戦「高校総体」へ挑む

6月4日、大会当日。

競技会場の 諫早農業高校に、チュグンさんの姿がありました。

(カメラマン)

「ふたりとも緊張してますか?」

(相撲部の同級生 西山瑛太さん)

「大丈夫!楽しみ」

県高総体の「相撲」競技には、チュグンさんが通う長崎鶴洋高校のほか、諫早農業高校と北松農業高校の合わせて3校が出場。

チュグンさんは「団体戦」のほかに、体重に関わらない「無差別級」と「100キロ以上級」の個人2階級にも出場します。

会場にはOBや町の人も駆けつけ、大声援を送ります。

立ち合いなどの確認をし、まずは5人で戦う団体戦に臨む選手たち。

(長崎鶴洋高校相撲部 髙橋修 監督)

「いつも通りのことをやればいいから。リラックスね、リラックス」

(長崎鶴洋高校相撲部 西山瑛太さん)

「エゴール、頑張ろう!シャッ」

チュグンさんは「先鋒」。

第1戦。対戦相手は北松農業高校。

相手のまわしををつかみ、前へ。

寄り切って、チュグンさんに軍配があがりました。

初めての公式戦で、白星スタートです。

続く第2戦、重量級の対戦相手にも見事、勝利します。

その後の 個人戦「無差別級」は、惜しくも初戦敗退。

残るは、4人によるリーグ戦で争う「100キロ以上級」です。

初戦は相手の反則で勝ち、2戦目へ。

第2戦は土俵際で粘られますが、前へ。

「寄り倒し」で2勝目。

次の試合で勝てば、優勝です。

そして、運命の第3戦。

土俵際、相手も粘りますが、監督や仲間の「前に前に」の声にチュグンさんも粘ります。

ここも「寄り倒し」で勝利。初めての優勝をつかみ取りました。

客席からは大きな拍手が。

(町の人)

「よかったね。いい相撲だ」

(町の人)

「おめでとう。よかった」

一緒に戦った西山さんとも、固い握手を交わします。

(エゴール・チュグンさん)

「うれしいです。初めての日本での優勝。きょうは、私の相撲は良くなかったけど、今度の大会でも頑張る。全国の大会で勝ちたい。優勝したい」

チュグンさんの挑戦は始まったばかり。

長崎の土俵から “夢” に向かい、前に進みます。

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