「しらふ」世代をどう引きつけるのか アサヒHD勝木社長インタビュー

大井真理子、ビジネス記者

何千年もの間、酒は社会の潤滑油の役割を果たしてきた。私が育った日本では「飲ミュニケーション」という言葉もある。

ビジネスシーンでも役立ってきた。重要な課題を会議室ではなく居酒屋で話し合う会社もある。

例えば、日本航空を破産から救った故稲盛和夫氏は、2012年のインタビューで、残業中の社員のところにビールを持参して心を開いてもらったと教えてくれた。

しかし今、酒を飲まない若者が世界的に増えている。日本では2022年、国税庁が若年層に日本産の酒類をアピールしようと、ビジネスプランのコンテスト「サケビバ!」を開催したほどだ。

しらふ世代は、日本政府の税収だけでなく、アルコールメーカーの利益にも大きな影響を与える。

「若者のアルコール離れはある程度認識しています」と言うのは、アサヒグループホールディングス(HD)の勝木敦志社長。同社にとっては将来的なリスクだが、「オポチュニティー(好機)になる」とも言う。

「私どもはユニークな会社でして、売り上げの多くはビールを中心とした酒類ですが、一方で清涼飲料、ソフトドリンクのケイパビリティー(強み)を持っています」

それが同社の競争力を高めていると言う。

アサヒは「2030年までに主要な酒類商品に占める低アルコール・ノンアルコール飲料の販売量構成比20%以上」にすることを目標に掲げている。

日本では飲酒運転の防止という点から、ノンアルコールビールの人気は高い。アサヒでは国内における飲料の売り上げの10%を占めているという。

しかし、少子高齢化が進んでおり、「人口の減少にあらがうことはできない」と勝木社長。「日本市場の大きなボリューム成長は見込めない中で、M&A(合併・買収)の戦場は海外であろうかなと思っています」と話す。

この15年間、アサヒは海外でM&Aを繰り返し、売り上げの半分以上はすでに国外市場が占めるようになっている。

ただ、アメリカには本格進出を果たしておらず、多くの人からアサヒの「ミッシング・ピース」(欠落した部分)だと指摘されると言う。だが、果たして北米で、低アル・ノンアル飲料は、日本でのような人気を得るのだろうか?

米フロリダ州で暮らすヴィンセント・ボールさん、サマンサ・ベナイティスさんは、ともに20代のカップルだ。アメリカは州によって酒類に関する法律が異なるが、購入できる年齢は全国的に21歳以上とされている。

このカップルの家族の40歳以上の人たちは酒が大好きだが、Z世代の二人は一杯たしなむ程度でしかないという。

「適度に飲むのはいいと思う」とヴィンセントさん。仕事後に一杯くらいはビールを飲むが、パーティーでは酒を飲まないと言う。

「酒以外のことの方が楽しいし、特にパーティーで酒を飲む必要性を感じない」

一方、サマンサさんは、酔っ払った人たちの姿から教訓を得たと言う。

「周りの人が酔いすぎて、その日だけじゃなく、人生に影響するような過ちを犯すのを見て、影響を受けた」

酒の代わりに水を飲んでいると友達にからかわれることもあるので、パーティーでは昆布茶を飲むと、サマンサさんは話す。

ノンアルコールビールを飲むか聞いてみたが、答えは二人とも「ノー」だった。

勝木社長に、このカップルのような酒を飲まない消費者について聞いてみた。

すると、日本以外でも低アル・ノンアル飲料の需要が増えると考えていると話す一方で、「我々の視点が飲む人の視点になっているというのが、大変な反省です」との答えが返ってきた。

アサヒは現在、東京・渋谷に設けた「スマドリバー」という店で、飲まない人、飲めない人がどのような飲料を好むのかのデータを集めている。

Z世代を取り込もうとする飲料メーカーの闘いの厳しさを示すように、ヴィンセントさんの妹ジョージー・ボールさん(18)は、酔った人の印象を次のように話した。

「飲み過ぎる人の気持ちも分かる。でも私自身、酒をたくさん飲むようになるかと聞かれたら、ならないと思いたい。飲み過ぎた人はばかなことをしがちだから」

※アルコールが絡む問題に関しては、厚生労働省のサイトが説明や相談機関の情報を提供しています。

(英語記事 How Japan's biggest brewer aims to attract sober Gen Z

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