『虎に翼』伊藤沙莉の「はて?」復活! 花岡との再会が思い出させた“自分らしさ”

寅子(伊藤沙莉)に声をかけたのはなつかしい人物だった。『虎に翼』(NHK総合)第49話で、寅子は自分らしさを取り戻すきっかけをつかむ。

花岡(岩田剛典)と最後に会ったのは、法曹会館でばったり出くわした時だから昭和16年で、現在は昭和22年である。6年ぶりに再会した花岡は少しやつれていた。裁判官になった花岡は、専任判事として食糧管理法違反の事件を担当していた。戦後も配給制は残ったが、遅配や欠配が続き、人々が闇市で食料を買い求めた時代背景がある。

判事として非合法な商売を裁く立場にある花岡の弁当は、麦飯のおにぎり一個とたくあん一枚で、成人男性が食べる量としては絶対的に不足している。闇市で買った米の弁当を隠そうとする寅子に、花岡は「生きるために必要なこと」と理解を示した。

花岡は「変わらないね。君は」と寅子に言うが、その言葉は半分当たっていた。周囲から「変わった」「謙虚になった」と言われるが、寅子自身は変わったつもりはない。しかし、正直言って今の寅子は精彩を欠いている。理不尽な現状に異議申し立てする“らしさ”は、すっかり息を潜めていた。花岡は続けて「でも、前も今も全部君だよ。どうなりたいかは自分で選ぶしかない。本当の自分を忘れないうちに」と話した。

花岡の言葉は、迷いの渦中にいる寅子を肯定する響きがあった。法律を諦めた寅子は、法曹の世界に戻ってきた。けれどもどこかしっくりこないのは、自分を取り戻せていないと感じているからかもしれない。人にアドバイスする時、当の本人も問題を抱えていることはよくある。6年前、寅子を袖にした花岡は「何も間違わず正しい道を進む」と誓った。きまじめな花岡は、愚直に自らの信じる正義を貫いてきたのだろう。

劇中では民法改正のまっただ中である。意見書を取りまとめる立花(伊勢志摩)と女性たちに寅子は鼓舞されただろう。第49話では男たちの考えが露見した。法律を遵守する花岡。ホーナー(ブレイク・クロフォード)の祖父母はユダヤ人で、猪爪家の子どもたちにチョコレートを持ってくるホーナーは戦争の犠牲者でもあった。政府の審議会では、神保(木場勝己)と穂高(小林薫)が火花を散らした。

家制度の存続を訴える神保に対して、穂高は男性中心の家制度は平等に反すると反論し、両者の主張は真っ向から対立する。「婦人びいき」と神保に揶揄される穂高だったが、穂高自身も旧来の価値観を脱却していないことが判明した。

教え子の寅子を穂高は気にかけていたのだろう。家族を戦争で亡くし、司法省で働く寅子が望まない仕事をして苦しんでいると、穂高は勝手に思い込んでいた。寅子が弁護士を辞めたとき、寅子にことわりなく穂高は上司の雲野(塚地武雅)に妊娠の事実を伝えた。本人不在で話を進めるのは今回も同じだった。ついさっき女性が審議会に加わっていないのはおかしいと指摘したばかりなのに、身近な人に同じことをしてしまう矛盾……。

穂高に悪気はないと思うが、パターナリズムを無意識に発現させる穂高に思わず寅子の「はて?」が飛び出す。法律という翼を与え、奪った恩人に、寅子はどんな言葉を返すだろうか。
(文=石河コウヘイ)

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