Game*Sparkレビュー:『Braid, Anniversary Edition』―インディー黎明期の傑作は色褪せない

Game*Sparkレビュー:『Braid, Anniversary Edition』―インディー黎明期の傑作は色褪せない

2000年代後半、Xbox Live ArcadeやPlayStation Store、Wiiショッピングチャンネルなどデジタルでゲームを購入できるプラットフォームが興りはじめ、低価格で購入できるデジタル専用のゲームというものも手に入れやすくなっていきました。「インディーゲーム」の定義は諸説あるものの、その呼称が広く知れ渡るようになったのはこのあたりからであると本記事では考えます。

『Rise of the Ronin』愛されキャラ・坂本龍馬を演じた武内駿輔さんにインタビュー!ドキドキシーンの収録や他作品との差別化など訊いてみた

そんな「インディーゲーム」の黎明期ともいえる時期に発売されたのが、『The Witness』で知られるジョナサン・ブロウがゲームデザインを務めた『Braid』です。2008年にXbox 360で発売された本作は、その完成度やインパクトのある構成などで批評家・ユーザーともに高い評価を得て、伝説的な作品のひとつになっています。

そんな作品が出たのも、もう16年も前のこと。もはや「レトロ」の域にさえ差し掛かるほどの年月が経っていますが、そんな中、現行機向けにリマスター版が発売を迎えました。

本記事では、5月14日にPC(Steam)/PS4/PS5/Xbox One/Xbox Series X|S/ニンテンドースイッチ/iOS/Android向けに発売された『Braid, Anniversary Edition』のGame*Sparkレビューをお届けします。一部ストーリーの内容やパズルの考え方などに言及するところがあるため、ご注意ください。レビューはPC版をXboxコントローラーでプレイした体験に基づいています。

巻き戻し能力を駆使するアクションパズル

本作は、2Dプラットフォーマーの仕組みをベースにしたアクションパズルゲームです。基本的なルールはいくつかに分かれたステージのパズルを攻略して右に進んでいくことで、すべてのステージをクリアすれば次のワールドが開放されます。

操作はスティックで左右移動、Aボタンでジャンプなど一部を除き非常にオーソドックスな2Dアクションの体裁を取っています。ただし、特徴的なのがXボタンを押せば時を巻き戻せるということです。

時を巻き戻せばなんでもやり直しが可能。敵にやられても直前に戻れますし、操作ミスで落ちてしまっても先程いたところまですぐに戻ることができます。巻き戻し中にLBを押せば倍速で巻き戻すこともできるため、ステージの最初の状態にまで巻き戻すことも簡単です。

しかし注意しなければならないのが、敵やステージの状態ごと巻き戻ってしまうということ。倒した敵は倒した時点まで巻き戻せば復活しますし、動かした仕掛けも初期状態に戻ってしまうため、万能ではありません。

ステージ中には個別のパズルが複数用意されており、それぞれに収集要素としてパズルのピースが報酬として割り当てられています。ピースを取得しようとするとかなり歯ごたえのあるパズルに挑むことになります。ピースは一応収集要素ではありますが、エンディングを見るためには必須条件であるため、ほぼすべてのプレイヤーがコンプリートを目的とすることになるでしょう。

本作の主人公が新たな能力を手にするのは終盤のステージのみで、ワールドごとに設けられた巻き戻しの影響を受けないオブジェクトや、右に進むと時間送り/左に進むと時間戻しといったルールをいかに時間巻き戻しと組み合わせるかという“ひらめき”が重要視されるデザインになっています。

パズルの完成度は極めて高く、2024年現在でもその魅力は一切古びていません。どう考えても取れない扉のカギは巻き戻しと仕掛けを利用すれば絶対にゲットできるようになっていますし、一見どれだけ早く進んでも間に合わないシャッターは能力で工夫すれば余裕で通れるようになっているのです。

一見「無理だよ……」と思わせておきながら、多くのパズルで極めて論理的な解法を実現しており、解いたときの快感は抜群。限られたルールと選択肢の中で脳みそをこねくりまわし、答えが見事つながったとき、パズルの作りの巧みさとプレイヤー自身の脳みその両方に「すごい」と感心させられる。この魅力こそが本作が傑作たるゆえんであるといえるでしょう。

一部ちょっとだけ意地悪なパズルもありますが、解く順番が自由なのも良いポイント。ステージをクリアするだけなら簡単なので、どうしても取れないピースがあったら後で解きにくれば良いのです。パズルピースの残数表示やステージ離脱メニューの使いやすさなどによって後回しにしたパズルへの再アクセスも簡単なので、ストレスは極力抑えられた作りになっています。

比較的ミニマルなデザインの中で納得感のあるスマートなパズルを実現しているのは原作から色褪せない大きな魅力です。「作りはスマートではあるけれど、パズル自体が非常に難解になっていく」というゲームは他にもありますが、ミニマルなデザインに収めることによって“気づき”が降りてきやすいのが筆者が本作を愛する理由のひとつです。

リマスター版では、ビジュアルとサウンドのリファインが行われています。原作の時点でも印象的な色使いやキャラクターの不気味さ、アニメーションの細かさは非常に高い完成度でしたが、どちらも刷新されています。『スーパーマリオブラザーズ』のクリボーやパックンフラワーをオマージュして何倍にも気持ち悪くした不気味な敵デザインも、本作の不思議な世界を形作る大事なパーツとしての役割を損なっていません。

右スティック押し込みでいつでもオリジナルのグラフィック/サウンドと切り替えられるため、原作からどのようにパワーアップしたかを目と耳で体感できます。もちろん原作も綺麗ではあったのですが、比較してみるとリマスターされた甲斐があったことがすぐにわかるはずです。

バイオリンなど弦楽器を用いたリラックスできるサウンドトラックはテイストを変えないまま音の数や深みが増し、アートやゲームプレイの美しさをより一層引き立てます。リマスターを経ても、原作の魅力を損なわずパワーアップさせたという点では、本作は傑作をより盤石なものにした「決定版」と評します。

※アップデート前の翻訳

『Braid』は、ワールドのステージ選択画面に配置された本で語られる物語も魅力です。それに近づくことで、テキストで大きく物語が表示されます。語り口はまるでおとぎ話のようで、非常に断片的であるためその全貌を知るには少し難解。しかしながら、アートやサウンドにマッチした幻想的な雰囲気が魅力的であり、主人公が抱えている大きな秘密とどんでん返しの展開も衝撃的でした。

※アップデート後の翻訳

リマスター版発売当初は原作の翻訳を使用していなかったため、どこか文章が堅苦しく誤訳もみられ、原作のテイストを損ねてました。しかし、6月1日に実施されたアップデートをもって、日本語訳が旧版のものに差し替えに。これで、リマスターのグラフィックやサウンドを楽しみつつ、ストーリーも雰囲気を損なわないものが楽しめるようになりました。

ただし、今回の新規部分は別です。リマスター版における最大の追加要素として、15時間にもおよぶコメンタリーが収録されています。ここでは実際にゲームを操作しながら、開発当時の秘話やパズルの作り方、プログラミングやアート・サントラ面でのバックグラウンドを語るコメンタリーを聴くことが可能です。

開発中のコンセプトアートなどがじっくり観られるなど、原作ファンにとっては垂涎もののコンテンツで、今や伝説的ゲームのひとつになった本作にとって、その裏側を見せるこのコンテンツは資料的にもとても意義があります。

しかし、このパートの日本語訳はクオリティが低いため、すんなり楽しみづらくなってしまっています。英語ボイスを断片的に聞き取ったり、誤訳と思われる箇所の原文が何だったのかを考えたりと、熱心に意味を噛み砕きながら読めば分かる程度ではありますが、字幕を読むだけでは意味のわからない部分が多々あります。

一方これは改善可能な範囲の問題であるとも考えます。旧訳に戻したストーリーと違い大きな手間がかかるとは考えられますが、ここが解決すれば本編の外に出た途端に画面に表示されている文字の理解が困難になるような体験もなく、本作のパッケージ全体として欠点のない傑作、真の決定版となるはずです。


『Braid, Anniversary Edition』は、インディーゲームの傑作パズルゲームを蘇らせたリマスター作品です。時を戻すという能力とフィールドに用意された仕掛けを組み合わせてひらめく完成度の高いパズルは2024年現在でも色褪せておらず、幻想的なアートやサウンドをより深みのあるものにしたことで価値ある作品に仕上がっています。また、現行コンソール機でプレイしやすくなったという点でも意義があります。

本編ではないにしろ追加部分が日本語訳の悪さによって楽しみづらいのはどうしても見逃せませんが、伝説的なインディーゲームの傑作を改めて知るという意味では間違いなく良い作品に仕上がっています。

「Game*Sparkレビュー」ではハードコアゲーマーなライターから読者に向けて、オリジナルレビューをお届けします。対象となるタイトルはAAAからインディーまで、ジャンルやプラットフォームを問わず「ハードコアゲーマーのアンテナが反応するゲーム」です。

このレビューでは、10段階評価をベースに「良い点」「悪い点」を挙げながら総評を下します。0点から3点は「難アリ/オススメできない」、4点から6点は「ふつう/そこそこオススメ」、7点から10点は「とても面白い/とてもオススメできる」に当ります。「プレイレポート」として公開している記事では、本企画と同様の評価を付けません。また、記事の性質上、ストーリーなどの「ネタバレ」を含む場合がありますので、閲覧の際はご留意ください。

また、「Game*Sparkレビュー」は「PR記事」と一切の関係を結ばず、すべての評価内容がライターの価値観に基づきます。特定の企業やプロモーション、ユーザーコミュニティにも影響を受けません。

なお、マルチプラットフォームで展開されている作品においては、対応している機種のうちのひとつのエディションのみをプレイし、評価します。そのため、本文内でプレイした際の使用機種についても明記しています。

© 株式会社イード