焦点:米で人気の中国発ニュースアプリ、AI生成で誤報と「創作」連発

James Pearson

[ロンドン 5日 ロイター] - 米国でダウンロード数が最多の中国発ニュースアプリ「ニューズブレイク」は昨年のクリスマスイブに、ニュージャージー州の小さな町ブリッジトンの銃乱射事件について報じた。見出しは「クリスマスの悲劇。小都市で銃による暴力が急増」だった。

しかし実際にはそのような事件は起きていなかった。地元警察は12月27日に記事は人工知能(AI)技術を使って作られた「完全な虚報」だとする声明をフェイスブックで発表した。

カリフォルニア州マウンテンビューに本社を置き、北京と上海にオフィスを構えるニューズブレイクによると、この記事は掲載から4日後の28日に削除された。誤報を掲載したのは元の情報が不正確だったためであり、情報の正確性に問題があったり社内基準への違反が確認されたりした場合には迅速に対応し、当該のコンテンツを削除するとした。

情報源とされたウェブサイトの運営者はロイターのコメント要請に応じなかった。警察も発表以上のコメントを控えた。

近年、米国で地方メディアの撤退が相次ぐ中で、その穴を埋めてきたのがニューズブレイクだ。「地元のニュースなら何でも揃う頼りになる存在」が売り文句で、月間ユーザー数は5000万人を超えるという。ロイター、フォックス、AP、CNNなど大手メディアから提供を受けたコンテンツに加え、地域ニュースや報道機関向け発表をインターネット上でかき集め、AIの助けを借りて書き換えて掲載している。米国内でのみ利用できる。

ロイターが裁判書類、電子メール、社内メモなどを調査したところ、2021年以降、ニューズブレイクがAIツールの使用を通じて、誤った記事を掲載したり、地元のニュースサイトに基づいて架空の筆者による署名記事10本を作成したり、競合他社のコンテンツを盗用したりするなどし、コミュニティーに影響が生じたケースが少なくとも40件あることが分かった。

ロイターはニューズブレイクの元従業員7人に話を聞いたが、うち5人が同社アプリのアルゴリズムを支えるエンジニアリング作業のほとんどは中国のオフィスで行われていると証言した。

恵まれない人々を支援する2つの地域プログラムが、AIが作成したニューズブレイクの誤った記事で影響を受けたことも分かった。

コロラド州を拠点とするフードバンク「フード・トゥ・パワー」によると、ニューズブレイクが1月、2月、3月の3回にわたり食料配布の時間を誤って記載したため食糧配布に支障が発生。ニューズブレイクに苦情を申し立てたが何の返答もなかったという。

ペンシルベニア州エリーにある慈善団体「ハーベスト912」は、ホームレスのための24時間フットケアクリニックを開催しているとする2つの不正確な記事を巡り、ニューズブレイクに掲載停止を求めた。

ニューズブレイクはロイターの取材に、慈善活動に関する記事5つが誤りであり、慈善活動に関するウェブ上の誤った情報に基づいていることが分かったため、全ての記事を削除したと述べた。

ニューズブレイクは3月上旬、ホームページに掲載コンテンツが「必ずしも誤りがないとは限らない」とする免責事項を掲載した。

ロイターが取材した7人の元従業員と21年の同社資料によると、ニューズブレイクは主に45歳以上の非大卒女性で、米国の郊外や地方に住むユーザーへの広告表示で収入を得ている。

ニューズブレイクは2015年に中国のニュースアグリゲーション(さまざまなニュースコンテンツを集約して提供する方式)アプリYidian(一点)の子会社として米国でのサービスを開始。ニューズブレイクと一点の創設者はニューズブレイクの最高経営責任者(CEO)、ジェフ・ジェン氏だ。両社は、2015年に米国で登録された、ユーザーの興味や所在地に基づいてニュースコンテンツを提示するアルゴリズムに関する特許を共有している。

<社内メモ>

2022年5月にニューズブレイクのコンサルタントを務めていたノーム・パールスティン氏がジェン氏に対して、ニューズブレイクがAIを使って地域ニュースサイトの記事から作った架空の筆者による署名記事5つを掲載していることに懸念を示していたことが、ニューズブレイクの社内メモから分かった。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙とロサンゼルス・タイムズ紙の編集部門で幹部を務めた経験を持つパールスティン氏はメモで、こうした記事の掲載は「ニューズブレイクのブランドを最も早く破壊する方法だ」と指摘していた。

パールスティン氏はこのメモが本物であることを認め、原因はニューズブレイクのスタッフがジャーナリストとしての経験を欠いていたためだと述べた。ニューズブレイクは、パールスティン氏のメモにある記事は一部地域を対象に実施した限定的な実験的なものであり、既にこの取り組みは中止したと説明した。

ロイターが確認した裁判関連の書類によると、全米各州でデジタル地域ニュース配信手掛けるパッチ・メディアは、ニューズブレイクがパッチのニュース記事を許可もクレジットもなく転載したとして、著作権侵害でニューズブレイクを相手取って訴訟を起こし、ニューズブレイクが175万ドル(約2億7300万円)を支払うことで和解した。

ニューズブレイクは他にも著作権侵害を巡る訴訟で和解しているほか、別の裁判も進行中だ。

<中国発>

ニューズブレイクは株式非公開の新興企業で、サンフランシスコを拠点とするプライベートエクイティー企業フランシスコ・パートナーズと、北京を拠点とするIDGキャピタルが主な後ろ盾となっている。IDGキャピタルは2月、米国防総省がまとめる中国の軍部と協力関係にある中国企業リストに掲載された。

一点は2017年、政府のプロパガンダを効率的に発信しているとして、中国共産党幹部から称賛を受けた。ロイターは、ニューズブレイクが中国政府に有利なニュースを制作するなどしていることを確認していない。

ニューズブレイクによると、従業員200人のうち約半数は中国を拠点に研究開発に従事しているという。

ジェン氏はロイターに対し、ニューズブレイクは米国のデータとプライバシーに関する法律に従っており、米国を拠点とするアマゾンウェブサービス(AWS)のサーバーで管理されていると説明。「中国のスタッフは、米国のAWSサーバーに保存された匿名データにしかアクセスできない」と述べた。アマゾン・ドット・コムはコメント要請に応じなかった。

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