『ミッション:インポッシブル』第1作の意外な事実 トム・クルーズとデ・パルマの化学反応

不可能を可能にする凄腕スパイ組織「インポッシブル・ミッション・フォース=IMF」のメンバーが、任務中にサクっと全滅。1人だけ生き残ったイーサン・ハント(トム・クルーズ)は、逆に怪しいと裏切り者認定を受け、CIAから追い込みをかけられる。果たしてチームを全滅に追いやった本当の裏切り者とは? その裏にある巨大な陰謀とは? すべてを明らかにすべく、ハントは孤独な戦いに身を投じる……!

祝! 3週連続『ミッション:インポッシブル』(1996年~)シリーズ放送! 来たる6月7日から、『金曜ロードショー』(日本テレビ系)で同シリーズの連続放送が決まった。洋画不況が叫ばれる昨今、こんなお祭りはそうそうない。ここは一つ全力で乗っかって、これから3週連続で同シリーズの魅力を語っていこうと思う。この記事が少しでも『M:I』シリーズの魅力と特殊性を伝えるものになれば幸いだ。

今回ご紹介するのは、すべての始まりである1作目『ミッション:インポッシブル』(1996年)。主演はもちろんトム・クルーズだ。同シリーズはトムクルさんの代表作と言っていいだろう。つい去年にも『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』(2023年)が公開された。還暦近いトムクルさんが走り回り、崖からバイクで飛んでいたのを覚えている方も多いだろう。

そんなトムクルさんが高い所で登ったり落ちたりする超大作SASUKEアクションのイメージが固まっている『M:I』シリーズだが、1作目の本作は意外にもアクションが少ない。トムクルさん演じる主人公のイーサン・ハントは、確かに凄腕スパイだが、いわゆる肉体派ではなく、どちらかと言うと頭脳派キャラである。これはトムクルさんの当時の状況が影響しているだろう。というのも、この映画のプロデューサーはトムクルさん自身なのだ。そして本作は彼の初プロデュース作品でもある(ポーラ・ワグナーと共同製作)。まだ若く、しかも初めての大仕事だ。無茶はできなくて当然だろう。ゆえに本作は、あらすじからも分かるように、堅実な正統派サスペンス映画に仕上がっている。その気合の入りようは、監督に巨匠ブライアン・デ・パルマを呼んでいることからも明白だ。

デ・パルマの起用はトムクルさんの意向だったそうで、その狙い通り、本作はデ・パルマらしいサスペンス要素たっぷりの疑心暗鬼スリラーになっている。前半の見せ場となるスパイ全滅シーンの血も涙もないドライブ感、とりわけ妙に気合の入った死に方をするエレベーターの人など、さすがデ・パルマである。その後も誰がどう裏切るか、何が本当かまったく予想のつかない展開が続き、あの世界中で擦られまくった有名な宙づりシーンを経て、クライマックスの壮絶なアクションまで一気に見せ切る。脂の乗り切ったデ・パルマの手腕を存分に堪能できるはずだ。

そしてクライマックスである。いろいろあってトムクルさんは、爆走する列車のうえで追いかけっこをすることになる。もちろん、当時の技術的な問題もあり、実際に走っている列車の上でやっているのではなく、ブルーバック合成なのだが……そこはトムクルさんである。このシーンにも徹底的にこだわった。

このシーンを撮影中に、トムクルさんとスタントコーディネーターの人は、「迫力が足りない」と悩んでいた。特に爆走する列車の「風」感が出せていないと。セット内にジェットエンジンを持ち込むなど(そんなもんを持ち込めるのが、さすがハリウッドである)、いろいろ試行錯誤をしたが、なかなか「風」感が出ない。悩むトムクルさんだったが、過去に使ったスカイダイビングの訓練用の機械を思い出した。それは飛行機から飛び下りたときの風を体験できる機械で、もちろん強力なエンジンがついている。これは使えると思ったトムクルさんたちは、その強力なエンジンをさらに改造。時速224kmの風が出るようにした。こうして完成した特殊な機械によって、クライマックスシーンは撮影された。

ただでさえ強力なエンジンをさらに改造したせいで、俳優たちは風に飛ばされまくったそうだ。当時のトムクルさんも来日時に、こんなふうにコメントしている。「突風で飛んできたゴミが目に入ったら失明してしまうから、食事ができるくらい、床をピカピカに磨いて撮影したんだ」(※)。高速で飛ぶがゆえに、ただのゴミすら弾丸に変わるのだ。バトル漫画でよく見る理論である。そんな危険すぎる改造エンジン作戦だったが、結果は大成功。列車の上を這いずり回るトムクルさんたちの顔は、演技と言うよりマジであり、迫力満点のシーンになっている。やはり還暦前後に崖からバイクで飛ぶ男は、若い頃から違うものだ。

サスペンスの名手であるブライアン・デ・パルマの手腕と、若きトムクルさんのフレッシュな魅力、そして現在のトムクルさんにも繋がるリアルなアクションへのこだわり……本作は様々な魅力が詰まった不朽の名作である。この機会に是非、観賞をオススメする。そして欲を言えば……続編の『M:I-2』(2000年)で、映画全体が凄い狂い方をするのを目撃してビックリしてほしい。いやね、『1』も凄いんですが、『2』は『2』で別の方向性で凄くて、映画って自由だなと思えるはずで……この辺の話は、また次回にさせてください。そのようなわけで、引き続き何卒よろしくお願いします。

参照
※『キネマ旬報』1996年 8月上旬号より

(文=加藤よしき)

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