「窮屈な世の中に」 駅の“タコハイ看板”に批判殺到で撤去 地元は複雑心境…サントリーに聞いた今後

5月29日時点で京急蒲田駅に設置されていた特設看板、写真を撮影する通行客の姿も数多く見られた【写真:ENCOUNT編集部】

田中みな実が開駅式に登場するなど大々的にアピールしていた

5月18日からサントリーホールディングス株式会社(東京・港区)と大田区商店街連合会が共同で開催している「こだわり酒場のタコハイ」関連イベントに賛否両論が寄せられ、問題となっている。公共の場における酒類の広告は、どうあるべきなのか。現在の状況や今後のイベント開催について聞いた。

「こだわり酒場のタコハイ」は2023年3月7日から発売されたリキュール飲料。サントリーのホームページ(HP)によると、「柑橘(かんきつ)の口あたりと焙(ばい)煎麦焼酎の香ばしい風味」が楽しめるプレーンサワーとなっている。

問題となったのは同社が販売している「こだわり酒場のタコハイ」と、京浜急行電鉄(京急)の京急蒲田駅(同区)がコラボレーションしたイベント。5月17日には同商品のCMに出演している俳優の田中みな実が「京急蒲タコハイ駅」開駅式を行うなど大々的にアピールしていた。

しかし、開催直前の同日、アルコールなどの依存関連問題の予防に取り組むNPO法人の「ASK」が「駅名看板等の『京急蒲タコハイ駅』への変更とホームでの『京急蒲タコハイ駅酒場』開催の中止を求めます」と声明を発表。「駅は不特定多数が利用する極めて公共性が強い場です。乗客には、20歳未満、ドクターストップで禁酒・断酒中の人や飲めない体質の人もいます。また、早朝からの通勤・通学や勤務の移動時に酒類広告はなじみません。駅の呼称を期間限定で『京急蒲タコハイ駅』とし駅空間をその仕様に変更するなど、公共性を完全に無視した愚行です。絶対にやるべきではありません」とイベントの終了と広告の出稿を取りやめるよう求めた。

今回のイベントについてサントリーはENCOUNTの取材に対し、「生活者の日常に深く根差し、愛される京急電鉄様への親しみの力を借りて、『こだわり酒場のタコハイ』との印象的な接点を創出することを目指し実施」したと説明。社に寄せられた抗議や意見について、具体的な内容や件数は差し控えるとした上で、「当社お客様センターに数件頂いております」と答えた。

そして、今回の騒動を受け、駅名看板特別装飾の期間を短縮(すでに撤去済み)し、駅構内に掲出する予定だった広告を縮小して対応。一方で、6月8~9日に開催が決まっているイベント「京急蒲タコハイ駅酒場」については、予定通り実施するとしている。

また、京急は「サントリー様が主体であるため、回答できない」とした。

5月29日撤去の報道を受け、看板を写真撮影する人も

街の人はどう思っているのだろうか。5月29日に現場を訪れると、当日看板はまだ設置されたまま。同日撤去されるといった報道を受けてか、通りがかった人が写真撮影する様子が多く見られた。航空会社に勤務する27歳の男性も、友人とともに看板を撮影。撤去されることに関しては否定的で、「別に蒲田らしく良いんじゃないのか」と答えた。また、大阪在住の夫婦は「私たちはお酒飲めないんですけど、試みとしては面白いと思います」と反応。以前行われていたアニメ『ちいかわ』とのコラボイベントの際も同所を訪れたといい、この日は帰阪予定だったが、看板を見るためだけに一度京急蒲田駅に寄ったという。男性は「いろんな人がいますからしょうがないとは思うんですけど、いやな、きゅうくつな世の中になったなと思います」と撤去を残念がっていた。

飲食店の反応も気になるところ。駅近くの商店街で居酒屋を営む店長に話を聞くと、イベントの効果はそこまで感じられていないと体感を話した。「注文はあって1日1~2組ぐらいですかね。『こだわり酒場のタコハイ』専用グラスが店に6つあるのですが、それで全然まかなえる感じですね」。

看板の取り下げについては「別に良くない? と思いますけどね。(看板を)出しているからといって、雰囲気とかが乱れるわけではないですし」ときっぱり。イベントの今後についてはまだ何も知らされていないと語った。

現在では各社がコラボしたイベントが盛んに行われ、SNSで話題となるなど良い効果ももたらしているが、今回のように批判の声も集まりやすくなる問題も存在している。また、個人の価値観がより多様化していることから、企業が中立的な立場を保ちつつ、公共の場で広告を出稿することが難しくなっているという一面もある。

サントリーは今後のイベント開催について「今後の活動について、現在決まっている変更はございません」と発表。「当社は、業界自主基準等に則り、20歳未満飲酒・飲酒運転・妊娠中授乳期の方の飲酒、多量飲酒等の不適切な飲酒防止に努め、お酒を控えている方、お酒が飲めない方への配慮をした上で、酒類販促活動を実施しており、今回もその考えに基づいて実施しています。一方で今回の活動の一部においてふさわしくないといったお声をいただいたことも確かであり、真摯(しんし)に受け止め、今後の活動も検討してまいります」と回答した。

これまでに漫画『北斗の拳』や『仮面ライダー電王』などさまざまなコラボイベントを開催してきた京急は「今後も沿線活性化につながる取り組みについて実施は検討していきますが、現時点では具体的に決まっていない」とした。ENCOUNT編集部/クロスメディアチーム

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