ソノス初ヘッドホンSonos Ace実機音質レビュー。最高クラスのノイキャン、ホームシアター体験は優秀 (本田雅一)

ソノス初ヘッドホンSonos Ace実機音質レビュー。最高クラスのノイキャン、ホームシアター体験は優秀 (本田雅一)

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ソノス初のベッドフォンSonos Aceについて、実機を用いて評価した音質レビューをお届けしたい。

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基本的なプロフィールや機能についてはレポート記事を参照して欲しい。ここでは実機のインプレッションに特化しつつ、手元で普段から利用しているワイヤレスヘッドフォンとの印象の違いについてお伝えする。

■アクティブノイズキャンセル機能は業界最高クラス

まず良いところから見ていこう。

薄く収められたイヤーカップの設計だが、耳全体を覆うサイズは大きめで、耳たぶに当たって痛みを感じることはなかった。パッドは柔軟性が極めて高く、ヘッドバンドのサイズ調整も無段階。

装着感は重さのスペック以上に軽快で、側圧が少なめにも関わらず隙間が生まれることもなく、密閉性がとても高い。ソノスらしくエシカルな雰囲気をまとう

デザインとともに使用感はとても気に入った。

曲の再生コントロールなどを行うスライドによる音量調整機能も併せ持つボタンは、メッキの質感は今ひとつだが、操作での迷いをもたらさない点は褒めるべきところだろう。

密閉性の高さに加え、アクティブノイズキャンセル(ANC)機能も素晴らしい。厳密にはライバルと得意なノイズキャンセル周波数が少しことなるものの、高域から低域まで幅広くノイズを低減してくれる。

BOSE QuietComfort UltraやソニーWH-1000XM5と並んで、業界最高クラスのノイズキャンセリング能力という謳い文句に嘘はない。周辺の音を拾ってくれるヒアスルー機能も自然で、風のある屋外での利用時にもウィンドノイズは許容範囲だった。

ただし、他社が取り組んでいる適応型ANC、つまり周囲の状況や行動予測に応じてANCの効き具合を調整する機能は搭載していない。

■ 広帯域でウェルバランスの音域バランス

基本的な音質傾向は他のソノス製品と共通で、無難でバランスの良い仕上がり。ソノスは小型スピーカーからさまざまなグレードのサウンドバーまで、どの製品でもハードウェアの制約内で納得感の高い音楽再生を行える伝統がある。

ヘッドフォンという、再生帯域が広く繊細な音の表現をしやすいプラットフォームでどうなるか?と注目したが、ヘッドフォンらしく広帯域の再生。ローエンドも自然に伸びているため、クラシックを含めジャンルを問わず自然に音楽を楽しめ、また映画音声でも低域の効果音(LFE)を含めて効果的に感情を揺るがす音場を作り出す。

ウェルバランスでクセがないことは、ソノス製サウンドバーと接続した場合のドルビーATMOS再生(現在はArcのみ対応、将来はすべての現行製品に対応予定、Apple Music、Amazon Musicの空間オーディオ再生でも利用可能)でのバイノーラルレンダリング(ヘッドフォンでの立体音響再現技術)にも良い影響を与えている。

耳たぶ形状などに合わせて調整するパーソナライズ機能は備えないものの、綺麗に球体の音場が広く展開する。今後、パーソナライズにも対応して欲しいものだが、ひとまず現状でも合格点だ。

なお、iOSなどにあるApple MusicのドルビーATMOS強制オンも試してみた。こちらも模範的な特性を反映して違和感がなく、歪な音場やバランスの悪化などは感じられない。厳密な立体音響の演出を感じ取れるほどではないが、強制オンで十分に空間オーディオを楽しめた。

音域の整い方はドルベースで450ドルをつけるライバルとも甲乙つけ難い。設計が古いAirPods Maxと比較すると音楽そのものの佇まいの演出では大きく上回ると思う。

しかし、直近に発売されているライバルと比べると、率直に言えば音質面で選ぶ理由が少ない。個性がないことは悪いことではないが、あえてこの製品を選ぶ魅力において物足りない。

■高音質ヘッドフォンへの期待とAceの音作り

背景には円安で価格が7万円を超えてしまったこともある。バランスがよく音楽の演出意図を再現性高く聴かせるものの、楽器音やヴォーカルの周囲にほんのりとまとわりつくような細かな情報が聴こえにくい。

よく言えばクリアで整った優しくスッキリした音だが、一方で7万円を超えるヘッドフォンともなればより高い質を求めたい。

たとえばソニーのWH−1000XM5は、シンプルな編成の楽曲でも音場全体に各音源から広がり、音場全体を埋める情報量の多さがある。

高域や低域はフラットで強調感はなく、伸びやかでスッキリ抜けの良い音作りはAceと共通しているが、ニュアンスはより細かなところまで描かれる。

現在は13万9900円に値上げとなったが、筆者は普段、ベリリウム振動板を用いたMaster&DynamicのMW-75(値上げ前は8万9650円)を使っている。

ANC能力は比べられない。圧倒的にAceの方が上だが、音質面では歪感が少なく伸びやかで潤いある高域の繊細な表現と、その高域の伸びに比例するように量感、スピードのある低域がバランスしてより濃密な音場空間を描く。

ソノスは製品評価用にApple Musicで「Explore with Sonos」 と言うプレイリストを公開しているので、このプレイリストの中からいくつかピックアップしながら、より深いインプレッションに研究したい。

このプレイリストで取り上げられている曲の多くは、Sonosが製品開発において意見を聞いている音楽プロデューサーやエンジニアが制作に関わったものだ。

ジョルジャ・スミスの「GO GO GO」は冒頭のボーカル&ギターからだんだんと音を重ねていき、リスナーを取り囲む音源が増加しながら包囲感を増していく演出が楽しい。そのバランスはとてもよく、途中から入るキックドラムの質感、スネアやタムに囲まれる感覚などの再現性はさすがだ。

聴きやすくクセはないが、ギターカッティングでは生々しさがなく、ヴォーカルの艶っぽさも控え目、キックドラムはやや帯域が狭く、スネアの抜け感があまりない。嫌なノイズも乗らないが、本来あるべき情報を省略、整理しているように感じられる。

マイルス・デイビスのJoshuaもこのリストの中にある一曲だが、冒頭の指を弾くところにあるはずの残響が瞬間に収束して静かすぎ、ウッドベースで弦を滑らせる指のノイズが聞こえない。肝心のマイルスのトランペットは、金管楽器特有の破裂音のようなアタックが柔らかくなっていた。

もちろん、細かく音質を解析的に聞きすぎると言う批判はあるかもしれないが、やはり価格帯を考えるならば、こうした音質要素はしっかりと描ききってくれることをが期待されると思う。

■ロスレス対応とAceの音質

さて、この製品はロスレス伝送にも対応しているのではないかと思う読者もいるはずだ。

Aceのロスレス伝送は二つの方法で実現されている。

ひとつはUSBタイプCケーブルを使う手法で、ワイヤードで接続することによりロスレスの音声伝送を実現する。音楽配信サービスなどでロスレスを選択できるのであれば、高音質に再生できると考える人も多いと思う。

もうひとつは、ワイヤレスでのロスレス伝送でapt-x Losslessを用いた伝送になる。アップルの製品は対応していないため、 基本的にはアンドロイドスマートフォンとの接続、あるいはデジタルオーディオプレーヤ(DAP)と接続する場合に利用できるのみと考えた方が良い。

しかし残念ながらUSBタイプCケーブルで直接接続したときに、ロスレスオーディオを再生させてみても、AAC接続時と基本的な音質傾向に違いはなかった。

確かにロスレス(PCM)ではあるが16bit/48kHzのスペックはデジタルのオーディオインターフェスとしては少々物足りない。仮に量子化ビット数が24ビットであれば少しは違ったのかもしれない。

一方、apt-x Losslessでの 音質には変化が明らかにある。ただし、この変化が音質向上なのかと言うと疑問があるところだ。もともとこのオーディオコーデックでは、明るめの元気の良い音声にはなるものの、情報量が増えると言うわけではない。

シャープな音像となりスピード感に溢れるアタックになるため、音質的には”やさしめ”のAceの音質にエンタメ性が加わるものの品位を向上させているわけではない。

■ ホームシアター体験には優れる

さて、少し冒頭に戻るとしよう。

ソノスのサウンドバーと組み合わせたときの体験の質は、彼ら自身が訴求しているように、優れたものだとは評価したい。ボタンを押すだけでサウンドバーで再生しているサラウンド音声をそのまま耳元に届けることができる。

この際のサラウンドの処理とバイノーラルレンダリングはサウンドバーの中で行うことになるが、こうした連動ができるのも同じメーカーの間での連携があるからに他ならない。

ホームシアターの中でシームレスに、スピーカーでのサウンド体験とヘッドフォンの間を行き来しようとする考えは、実に細かなメカ設計の部分にも反映されている。

自宅の外で使うことが多いヘッドフォンの場合、頭から外して折りたたむ位置までイヤーカップを回転させ平たい形状にした時、手前側にドライバー側がくる設計になっていることが多い。こうすると、そのままクビにかけてたときに、イヤーカップの外側が前面に来るからだ。

しかし、Aceはその逆の方向にイヤーカップの向きが来る。首にかける場合、ドライバー側が外に露出してしまい、出先で首にかけた場合などに少しばかり格好が悪い。ではこの仕様は間違いなのかと言えば、首から外してそのままテーブルに置くとイヤーカップの外側が上になって、ドライバー側が塞がれる。

つまり、この製品は出先でヘッドフォンを外したときに首にかけることを想定しているのではなく、使わないときには外してテーブルに置くことを想定しているのだ。

このように考える時、細かった音楽表現のニュアンス、空気感などを追求するよりも、シアター体験の延長線にある製品として、バイノーラルレンダリングの優秀性や低い帯域までフラットに伸び、広い音場を目指した音づくり、それにサウンドバーとの連携、長時間使用しての装着感などホームシアター体験を重視したヘッドホンなのだと思う。

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