海外で苦戦の『フュリオサ』も日本では踏み止まる ワーナーがハリウッド最後の砦に

6月第1週の動員ランキングは、ジョージ・ミラー監督『マッドマックス:フュリオサ』が初登場1位。オープニング3日間の動員は19万9000人、興収は3億1900万円。2019年6月に日本公開された前作『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のオープニング2日間(当時はまだ外国映画も土曜日公開だった)の興収は2億6500万円だったので、初動の勢いとしては微減といったところか。それでもこのオープニング成績は、2024年に入ってからの外国映画では『オッペンハイマー』の3億7900万円に次ぐ記録。また、その『オッペンハイマー』は結局1週も1位を獲れなかったので、外国映画が動員ランキングのトップに立つのは昨年12月第3週の『ウィッシュ』以来、約半年ぶりということになる。

『マッドマックス:フュリオサ』の興行に関しては、日本では健闘している一方、国外では前作からかなり見劣りするものとなっている(現在は多くの国で映画興行は苦境に喘いでいるので、順位はあまり当てにならない)。特に主要マーケットの北米は落ち込みが激しく、オープニング成績は前作の4542万ドルから2633万ドルと約58%になってしまった。作品の評価の高さが十分に広まっていたはずの2週目以降も、回復の兆しはない。この期待外れの結果に関しては様々な分析がされているが、直接的な原因としては昨年の長期ストライキの影響で新作の公開が少ないことが挙げられている(そこは国内の映画産業がそれなりに盛んな日本との大きな違いだ)。公開される新作が少なければ、その数少ない新作の集客にとっては有利だと思う人もいるかもしれないが、新作が少ないことで「映画館に映画を観に行く」という習慣が人々の行動ルーティンから外れてしまったというのだ。約2年間続いたパンデミックが明け、配信で新作を観ることにすっかり慣れてしまった人々を映画館に連れ戻すには、怒涛の新作ラッシュが必要だった。そのタイミングで起こったのが、昨年のストライキだったというわけだ。

もう一つ挙げられているのが、先ほども『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のオープニング成績に触れた際に「当時はまだ外国映画も土曜日公開だった」と注釈を入れたように、この9年のインターバルが作品の足を引っ張ったのではないかということ。自分のような50代にしてみれば「9年前」なんて昨日のことのように思えるのだが(笑)、よく考えたら現在20歳の観客にしてみれば当時まだ小学生。日本においても海外においてもパンデミック以降の映画興行を引っぱってきたのは若年層の観客だったが、その層にとって『マッドマックス』というフランチャイズそのものが、本国ワーナーが想定していたほど神通力のあるものではなかったということなのだろう。

とはいえ、今やワーナーはハリウッドにとって最後の砦とも言えるメジャースタジオ。2020年に傘下のHBO Max(当時)が劇場公開と同時に新作の配信を決定した際には、クリストファー・ノーランやドゥニ・ヴィルヌーヴをはじめとする多くの監督から強い反発を受けたが、資本がディスカバリー傘下となったタイミングでその「世紀の愚策」も撤回。昨年はグレタ・ガーウィグ『バービー』が世界興収ナンバーワン作品となり、それに続いてドゥニ・ヴィルヌーヴの『デューン 砂の惑星PART2』も現時点で今年最大の世界興収を記録、この秋にはそれ以上のヒットが確実視されているトッド・フィリップス新作『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』の公開も控えている(その前のリー・アイザック・チョン新作『ツイスターズ』にも期待してますが)。なんだか日本では今一つ当たらなかった作品ばかりのような気もしますがーー。というわけで皆さん、本日公開のルカ・グァダニーノ『チャレンジャーズ』を観に行きましょう!

(文=宇野維正)

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