「日本の資産運用は遅れている」という〈勘違い〉…インフレ時代に儲けられる「投資術」

(※写真はイメージです/PIXTA)

富裕層に関するお金の問題解決にあたってきた江幡吉昭氏の新著『インフレ時代の投資術』(出版社名)より、著者の承諾を得て、いくつか内容を抜粋しご紹介していきます。本記事は第二段です。

「お金持ち専用の特別な投資がある」という間違った常識

○お金持ちだから特別な投資があるわけではない

これもある意味間違った常識だと思うのが、お金持ち専用の特別な投資があるわけでもないし、実際お金持ちでも大きな投資損をしている人はたくさんいるものだ。某有名旅行会社の創業者も投資詐欺で億単位の損をしたという話も報道されているように、この手のお金持ち専用投資話に詐欺も多い。質が悪いのは投資話を持ち掛けている人自体も心底詐欺とは思わず信じ切っている場合もある。

一方でごく僅かだが、超富裕層など多額にお金がある人に、いい投資話が来ることもある。例えば不動産。不動産の売り情報は一番最初に不動産屋に入ってくるものである。その売り情報の中でも本当に掘り出し物のような不動産であれば、その売り情報を最初に獲得した不動産屋自身が、自分たちの自己資金で買ってしまう。

しかしそれが数億、数十億、数百億などの物件であれば、自社で買えないので、お金持ちや大会社にそういった物件情報を回すようになる。よって、購買力のある超富裕層や大手法人に話が集まるというものである。

不動産投資だけではなく、企業投資いわゆるM&Aでも同じ理屈である。であるので超富裕層に有利だというのは間違いないものの、それは極々一部の話である。

前述の野村総研のリサーチだと世帯純金融資産5億円以上の超富裕層は9万世帯と推測されている。その超富裕層世帯のさらに超がつくような超超富裕層はトップ10%程度と思われるのでせいぜい3000人程度の話である。

たとえば未上場株投資といって所謂「プライベートエクイティ」という投資がある。海外のプライベートバンクは5億円以上預金できるようなお金持ちに対して上場前の会社に投資するプライベートエクイティファンドを用意しているが、今は一部のネット証券でもそういったものは購入できる。今後も規制緩和が進み一般の投資家でも買える時代がすぐそこまで来ている。

ヘッジファンドも同様。様々なヘッジファンドも20年前は一部のお金持ちに限定されていたが、今では通常の投資信託として日本の一般の証券会社で買えてしまう。もちろんコストの部分に関しては多少割高ではあるものの、特別なものではなくなったと考えていい。証券投資の分野に関しては手数料も含めかなり海外との商品力との差は無くなっている。

一部のプライベートバンクは高級感のあるオフィスと応接をそろえ「富裕層だけの特別な提案、オーダーメードの特別な債券」という立て付けで、今までデリバティブを内包する仕組債※を富裕層に積極販売していた。

※オプションやスワップなどのデリバティブを組み込むことで、通常の債券とは異なる期間や利回りを実現する債券。1980年代半ばから普及し始めており歴史は意外と古く最低投資金額が千万円単位であり富裕層が高利回りにつられて購入することが多い。

しかし、クレディショック(※2023年クレディスイスがUBSに救済合併されたことでその仕組債がデフォルト扱いとなり、投資額がゼロになってしまった事件)で仕組債のボロが出てしまった。結局のところお金持ちも、一般の方も投資商品に関して差はないと考えている。むしろお金持ちにはいろいろな人間がすり寄ってくるのでだまされるリスクも必然的に高くなる。

しかし後ほど申し上げるが、富裕層はやり直しがきくので失敗を糧に日々のインカムから再度投資に臨むことができる。そこが一般の人と違うところと言えるだろう。

欧米信仰は間違い…日本にいれば「世界中の投資ができる」

○日本は選択肢が多い

前述の海外のプライベートバンクもそうだが、日本にいるとなんとなく海外へのあこがれのようなものがある。資産運用はじめ日本は遅れているというような気持ちや感覚もあると思う。しかし日本は資産運用でも選択肢の多い国だと考えている。

日本にいれば世界中の美味しい料理が食べられるように、日本で世界中の投資ができる、手数料が一部の金融商品はやや高いという面はあるが、先ほどのPE(プライベートエクイティ)投資もできるし、世界の個別銘柄に投資もできる。

オプション※にもインターネット証券で投資できるし日本だけでなく、海外の不動産投資もできる。また、国際電話することなくLINE電話で海外の生の情報も収集できる。この20年で海外の情報にアクセスする方法も非常に多岐にわたるようになった。

※選択権取引ともいう金融派生商品のデリバティブの一種。ある原資産について、あらかじめ決められた将来の一定の日または期間において、事前に定めた権利行使価格で取引できる権利のこと。

そして、何より日本は治安もいいし国民は人種差別もしない良い国民だ。しかし、残念ながら税金が高い。20年前と比べれば法人税は安くなったものの、資産税と言われる相続税は実質的に上がり、海外に移住する富裕層を塞ぐ「出国税」も導入され、そのような点で富裕層には税金面で日本は不利というのは否定できない事実である。

よって、仕事が海外でも出来る状態であれば富裕層の一定数は海外を目指すのは当然の話でもある。また、元社長などの退職者なども海外に移り住むことが多い。

しかし、意外と住みづらいので、数年で海外から日本に戻ってくる方も多い。日本人を狙った日本人詐欺師も海外にいるし、トータルの海外移住のメリットとトータルのデメリットを差し引くと、有名人でなければ日本に居住し続けるということの方がメリットが大きいと考える。(教育や何世代も後のことを考えると別であるが)

節税に関してはある程度ルールがあるものなので、対策は取れる。実際IPO系の超富裕層(一代でとんとん拍子に東証グロースに上場してプライムまで駆け上がったような企業)が必ずと言っていいほど利用する財団スキームはその好例と言えるだろう。

とにかく、海外はいいな、欧米はいいなという欧米信仰は間違いで、日本人自体が日本のよさに気づいていない、過小評価しているというのは投資に限らず、非常に感じるのである。(このあたりの再評価が日本株にも引き続き注目されるはずだ)

高齢者は「投機をやめておくべき」ワケ

○高齢になって投機は危険。若いうちは投機もOK

一般的によく知られている投機は危険という言葉(例えばFXは危険とか)だが、自分の裁量で何とかなる投機に関しては「ハサミと同じで使いよう」だと考えている。高齢になってハサミを使ってケガすることもあるだろうが、きちんとその効能や危険性を理解した上で、やればいい。

投機は、高齢者にとっては危険だし失敗したときにやり直しがきかない年齢ではやめた方がいい。

例えばこんな具体的な事例がある。ある名古屋のフランチャイズで店舗を経営していた60代の男性が、自分の体力の衰えを感じ、商売自体は儲かっているものの、親会社にフランチャイズの店舗を売却した。その売却金額がおおよそ1億円弱。

その男性は2010年にその売ったお金の大半で東京電力の株を購入。当時の電力株は公益株と言われ、値動きも優しく配当が相対的に高かったので、高齢者や退職金の運用先として人気の株であった。

ところが、2011年に東日本大震災が発生。株価は2000円台だったが、一時200円割れまでになる。当然そのお金も10分の1以下になったわけだ。一つの銘柄を全力買いする。これは若い時にはできるし、うまくいったときの儲けは計り知れない。しかし、逆に損をした時のダメージも大変なことになる。

要は投資自体は若いうちは投機も含めてリスクを取っていいのだが、挽回できない高齢になった場合は、リスクを抑えて運用すべきという教訓が残る。前述のクレディスイスの債券も同様である。退職金の大半をつぎ込んでゼロになるというのは、もう挽回できない。かといって過度にリスクを恐れて何もしないのは勿体ない話であり、インフレの時代、自信の資産と年齢と相談しながら、適切なリスクを取るべきである。

若い人は、たとえ20歳代、30歳代で資産運用に失敗したり、投機に失敗したりして資産が10分の1になったとしても、再度頑張って働き、投資に関する知識と経験を積むことでいくらでも挽回できる。よって、リスクを恐れずチャレンジしてほしい。

逆に言うと若いうちに経験しておかないと歳を取った時、いざというときに投資に乗り出しても未経験であればよほど運と時代が良くなければ踏み出せない。投資も人生も同じということになろう。若い時の失敗はお金を出しても買えといったところであろうか。

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本記事では、9箇条のうち4〜6つ目をご紹介しました。次回の記事では残りのパートについてご紹介いたします。

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