ラツィオよ、鎌田のクオリティを見たか。クラブを“追われた”MFが2点を演出。日本代表にもたらしたアジア杯からの変化【担当記者コラム】

いない時に大きく不在を感じる選手ではないかもしれない。でも、いると確かに違う。鎌田大地はそんなプレーヤーだ。

日本代表は6月6日に敵地ヤンゴンで開催された北中米ワールドカップ・アジア2次予選で、ミャンマーと対戦。5-0で圧勝を飾った。

この試合で、約7か月ぶりに代表キャップを刻んだのが鎌田だった。

昨年11月、ホームでのミャンマー戦で鮮烈なミドルシュートを叩き込んだMFは、その試合で軽傷を負って、続く敵地でのシリア戦を前に代表を離脱。ラツィオで満足な出場機会を得られないなか、アジアカップに続いて3月シリーズでも招集外となった。

だが、3月にラツィオの監督がマウリツィオ・サッリからイゴール・トゥドールへと代わると主力に抜擢。本来の輝きを取り戻し、その活躍が認められて、代表復帰を果たしたのだった。

このミャンマー戦で、3-4-2-1のダブルボランチの一角で先発した27歳は17分、広い視野を活かした、局面を一気に変えるスペースへのパスで、中村敬斗が決めた先制点をお膳立てする。

【動画】鎌田大地の見事なパスから中村敬斗が鮮烈弾
さらに34分には、ボックス内でパスを受けて右足を一閃。シュートは惜しくもポストに直撃したものの、堂安律が決めた追加点に関与する。

ゴールに絡んだだけではない。開始早々にワンタッチパスで旗手怜央のシュートを演出すれば、51分にもダイレクトの落としで、鈴木唯人のミドルシュートを引き出す。攻撃の流れをよくする、いわば潤滑油のような働きを見せた。

引いて守る相手には、こうしたワンタッチや素早いパスは有効で、総じて球離れが遅く、時に単調だったアジアカップの時と比べて変化が感じられた。

森保ジャパンに合流前、序列を高めていたにもかかわらず、鎌田がラツィオを退団するという驚きのニュースが飛び込んできた。クラブとの契約延長交渉がまとまらなかったのだ。

3日の代表練習後の取材では、「元々は残る予定だった」と心中を語っていた。

「ラツィオは(クラウディオ・ロティ―ト)会長がね、イタリアの中でも有名なんですけど、大変なんで。本当に残るつもりだったし、監督とも残るという話をしていた。自分が求めたのは単年契約だけでお金とかは十分もらってるし、何も要求はしなかった。代理人がどういうふうに喋っているのかわからないですけど」

そのロティ―ト会長やアンジェロ・ファビアーニSDはその単年契約とそれに伴う契約金の要求を「脅迫」という言葉を使って非難した。前者に至っては、「傭兵は追い出す」とまで言い放っている。

だが、来シーズンのプロジェクトの中心に据えようとしていた鎌田をあっさり手放し、補強を巡っても意見の相違があったクラブとの関係がこじれたトゥドール監督が辞任までした経緯からも分かるように、鎌田を失ったラツィオの損失は小さくないだろう。ミャンマー戦のプレーを見て、改めてそう感じた。

もちろん、相手は格下だった。それでもあえて、言いたい。ラツィオよ、鎌田のクオリティを見たか、と。

文●江國森(サッカーダイジェストWeb編集部)

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