『ぼっち・ざ・ろっく!』劇場総集編に感じた“青春の疾走感” 結束バンドのライブは必聴

リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は人生で一度はバンドを組んでみたい間瀬が『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』をプッシュします。

■『劇場総集編ぼっち・ざ・ろっく! Re:』

『ぼっち・ざ・ろっく!』は2022年10月期に放送されるやいなや、アニメファンのみならず一般層、とりわけ音楽シーンに関心のある人たちに刺さり、大反響を起こしたアニメだ。いまのアニメシーンでは毎クール大量にアニメが制作され、覇権を取るアニメもあれば埋もれてしまうアニメも珍しくない。その中で、ぼっちでコミュ障の主人公・後藤ひとりが「結束バンド」を組み、自分の音をかき鳴らしていくさまに共感し、励まされた人が続出。現在放送中のNHK連続テレビ小説『虎に翼』の脚本を手がける吉田恵里香がシリーズ構成・脚本を担当していたことで再度話題にもなった、カルチャーシーンを代表する作品の一つである。

もし『ぼっち・ざ・ろっく!』を未見の人がいるならば、今からでも観る価値はあると伝えたい。そして自分のことを「コミュ障」だと感じていて人と話すのが苦手ならば、本作は“かわいい高校生”という糖衣で覆われた“治療薬”のようなものと思って服用してほしい。

そこでどうやって観るかだが、配信サービスでイッキ観ももちろんいいけれど、ここでは6月7日より公開された「劇場総集編」をお勧めしたい。正直、“総集編”をスルーするアニメファンは多いだろうし、筆者も積極的には観てこなかったが、本作は総集編で観ることによって新しい発見があり、意味があると思えた稀有な作品だ。

本作、つまり劇場総集編の「前編」で描かれるのは、TVアニメで言うところの第8話まで。これをギュッと凝縮するために物語は駆け足で進み、情報の取捨選択がされることで後藤ひとりの成長にスポットライトが強く当たる。アニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』のそもそもの大きな魅力はそこにあるのだから必然とも言えるが、“青春の疾走感”すら感じられる作品に変容していたのは驚きだった。それはまるで、美術未経験の高校生が東京藝大合格まで突っ走る『ブルーピリオド』をも思わせるほどに。

日常のほっこりする描写がいくらかカットされる代わりに、ひとりの身に起きている成長のスピード感がわかる。彼女がロックスターであり真の“ギターヒーロー”になる道筋は、夢を持つすべての観客を鼓舞するのである。

特筆すべきは映画館の音響で聴ける結束バンドの演奏の音圧だ。これこそが映画館で観る1番の喜びであり、ライブを楽しむような感覚も味わえる。さらに一人一人が奏でる音を正確に耳で感じられるからこそ、演奏を使った演出もよりグッとくる。ひとりたち結束バンドがかき鳴らす“自分たちの音”ーーTVシリーズで味わったあの感動を、さらに洗練された形で堪能できること、劇場総集編を観にいく理由としてはそれだけで十分だ。

そして『ぼっち・ざ・ろっく!』と言えば、舞台である下北沢の実在するアレコレがしっかりと描かれることも特徴である。今回総集編になることの副作用として、92分の間ずーっと下北沢の景色を観ていることになり、下北沢のPR映像かと思うほどに土地勘が掴めてしまう。「結束バンド」が最後に打ち上げするお店、筆者は大好きでよく行っていたのだが、この週末また飲みに行こうかな、なんて思った。大人の私たちはビールで乾杯しながら映画の感想を語り合いましょう。
(文=間瀬佑一)

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