【社説】出生率過去最低 社会変える議論深めねば

 少子化のスピードが格段に速くなり、危機を感じる。

 2023年の人口動態統計で「合計特殊出生率」が1・20となった。女性1人が生涯に産む子どもの推定人数で、過去最低を更新した。生まれた数も72万7277人と「底割れ」し、政府推計より11年早い減少を突き付けられた。

 人口のボリュームゾーンである団塊ジュニア世代の出産適齢期に手を打てず、そもそも若年層の人口が細った。加えて、とりわけ若者の雇用と経済状況の不安定さが増し、旧態依然の働き方や慣習が残る中で、仕事と子育ての両立は難しいままだ。それらを背景に未婚や晩婚が増えた。

 少子化にはさまざまな要因が絡み合い、特効薬は見当たらない。息長く、多角的なアプローチが欠かせない。

 岸田政権が「異次元の少子化対策」を打ち出し、今国会で成立させた少子化対策関連法は、児童手当の拡充を柱とする。子育て世帯への現金給付を増やすのが特徴だ。

 1990年代から保育所の整備や、教育無償化など対策を進めてきたが、家庭の経済的負担の軽減が必要と指摘されてきた。他の先進国に比べて子ども・子育て支援への公的支出は少ない。少子化対策の加速化プランとして年3・6兆円のまとまった投資は、一定に評価できる。

 ただ、現状を反転させる効果のある施策なのか、注意深く見極める必要があろう。

 気がかりなのは、経済的な不安から結婚や子育てを諦める層への対策が手薄な点である。結婚して配偶者がいる男性の割合をみると、非正規雇用者は正社員の半分にも満たない。未婚者のうち、結婚したら子どもを持つべきだと考える人の割合が近年、急減している。少子化をもたらす格差社会への打開策が要る。

 仕事と子育ての両立を阻む要因であり続ける、長時間労働の改善も急務だ。男性の育児休業は制度があっても取得率は2割に満たず、そのあおりで家事や育児の負担が女性に著しく偏っている。若い世代にジェンダー平等の意識が広がっているのに、社会構造や意識は遅れたままだ。

 結婚して子どもが欲しい、もう1人産みたいという若い世代が、将来に明るい希望を持てる社会に変えていく必要がある。何よりまず、雇用や所得の底上げだろう。また、性別役割分担にとらわれた昭和流の働き方、働かせ方では好転はとても望めない。

 人口の一極集中も少子化に拍車をかける。東京都は出生率が0・99と1を割り込み、都道府県で最も低かった。地方から若い女性が流入し続けているが、生活コストや未婚率の高さなどを背景に出生率が伸びない構図だ。地方で女性や若者が働きやすい環境をつくる努力が欠かせない。

 関連法の国会審議で、政府は財源として公的医療保険料に上乗せして徴収する「こども・子育て支援金」を巡り、「実質負担ゼロ」と説明をごまかしたのは看過できない。

 必要な財源はもちろん、効果のある対策や、社会を変える議論を真正面から深めるべき時だ。覚悟を求める。

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