「若い世代に、自分と同じ葛藤をしてほしくない」AAAの與真司郎さんが、ゲイで良かったと思えるまで【プライド月間】

與真司郎さん

2023年7月、東京都内で開催したファンミーティングで、ゲイであることをカミングアウトした、ダンス・ボーカルグループ『AAA(トリプル・エー)』の與真司郎(あたえ・しんじろう)さん。

手を震わせながら「ありのままの自分で生きていくことで、大好きなエンターテインメントの活動を、諦めたくなかったんです」と等身大の思いを吐露し、たくさんの共感を集めました。

日本では今も法律上同性同士のカップルの結婚が認められず、政治家らによる差別発言も後を絶ちません。日本に住むのを諦めて海外移住したり、他国で難民認定されたりするLGBTQ当事者もいます。

6月は、性的マイノリティの人々の権利を啓発するイベントが世界中で行われる「プライド月間」です。

現在、アメリカ・ロサンゼルスに在住する與さん。海外移住して見えた日本の課題、より多くの人が生きやすい社会にするため必要だと思うことについて、話を聞きました。

與さんのカミングアウト全文はこちらから>>『AAA』與真司郎さん、ゲイとカミングアウト「本来の自分を分かってもらい、みんなと距離が縮まることを願ってます」

◆海外で感じた生きやすさ。日本でもそうなってほしい

――與さんは、昨年7月のステージ上で、「ゲイであることで大好きなエンターテインメントの仕事を諦めないといけないと思った」と話していました。そう感じてきたのはなぜでしょうか。

前提として、「僕は同級生や友達と違うかも、なんでだろう」と気づき始めたのは、小中学生ぐらいの時ぐらいでした。ただ、すぐに(ゲイだと)認めることはできませんでした。

小さい時にテレビでバラエティーを見ていたら、当たり前に「男同士は気持ち悪い」という言葉が出てきて。そしてLGBTQ当事者の人たちは笑いものにされていました。その時の音や映像が、ずっと頭の中にあって、正直今も消えきってはいない部分もあります。

だから自分が芸能活動をするとなった時、もしバレてしまったら、周囲とは違う見られ方をされて、ファンが減ってしまうんじゃないか、嫌われてしまうんじゃないかと、悪い方に考えていました。

芸能活動の中で、具体的に、こういう経験があったからバレたらまずいと思ったわけではないんですよ。大前提として、変な目で見られる社会があるという認識があった。だから自分を守るために、常に隠すのが当たり前で、それが僕の人生の一部になっていました。

インタビューで、異性愛前提で質問されることがほとんどでしたが、隠すのが体に染みつきすぎていて。逆に言うと、隠していることについて、悩むことはなかったともいえます。

ただ芸能活動をしている人が、自分のセクシュアリティを公にしても、これまでと同じキャリアを歩めるように変わってほしいと思うようになったんです。それがファンにとっても、芸能活動をする人にとってもベストだと今は思っています。

――「隠すのが当たり前」だった中で、自分自身がゲイだと認められるようになったのはなぜでしょうか。

アメリカのロサンゼルスに留学をして、日本とは異なるカルチャーに触れたこと、そして現地でできた友達の存在がとても大きかったと思います。

日本にいた時は、自分が間違っているとか、ゲイであることが恥ずかしいと考えたことがたくさんありました。

でもロサンゼルスは自由な空気感が強くて。日本にいるときに無意識に感じていた、ゲイだから偏見の目で見るみたいな空気感がまったくなかったんですよね。だから、自分は悪くない、このままで良いと思えたんです。

普通にゲイを受け入れてくれている…いや、その言葉がいらないくらい、フラットで、日々を一緒に楽しく過ごせる人たちが、こんなにたくさんいるんだなって。日本では見たことがない光景が広がっていました。

そんな空気にインスパイヤーされて、友達やみんなに手伝ってもらって、まずはコロナ禍のなかばに、家族らにカミングアウトしました。友人やスタッフにも伝えて、嫌な思いをしたことはゼロではなかったけれど、支えてくれる人がたくさんできた。最近は、ゲイでよかったとまで思えるようになりました。

――海外移住を決めた與さん。法律上の同性カップルが結婚できず、政治家らの差別発言も少なくない日本に住むのを諦めて、海外に移り住むLGBTQ当事者も少なくありません。

日本での生活を振り返ると、居場所が欲しくて、「新宿2丁目」といったコミュニティに行ってみたいと思うことはありました。でもそこで噂が回って、週刊誌などの報道といった形で、ファンの皆さんにゲイであることが広まったらどうしようと、特に恐れていました。

だから、当たり前に同性同士が街中で手を繋いでいるといった、日本では見たことがない光景がある、自分を当たり前に大切にできるアメリカの生活は自分に合っていました。

でも僕はこの選択ができたけれど、家族や仕事など、さまざまな事情で海外に行けない人も少なくないと思います。

ただもし可能だったら、とにかく数日でも、1週間でもいいから、1回は海外など、LGBTQフレンドリーな場所に行ってみてほしいと思っています。自分って間違ってないんだとか、悪いことをしていないんだって思える経験をすることは、己が自分を受け入れられる、そしてその後の人生を変えるきっかけになるかもしれません。

ただ、海外が合わない人はもちろんいて、「海外移住=希望」と言い切ることはできないと思います。僕自身、日本の良いところが改めて見えてくる面もありました。

正直なところ、今は「LGBTQ当事者であることで、海外に行かないと幸せに生きていけない」と感じている人もいると思うんです。でも海外に行かなくても、日本が本当に自分らしく生きられる環境になってほしいと、心から思っています。

◆「若い世代に、自分と同じ葛藤をしてほしくない」

與真司郎さん

――「日本が本当に自分らしく生きられる環境になってほしい」。その思いは、カミングアウトの背景にもあるのでしょうか。

もちろんです。僕は小さい時から、セクシュアリティのことで、多くの葛藤をしていました。だからこそ若い子たちには、自分と似たような経験をしてほしくない。そしてこの国が少しでも生きやすくなるように変わってほしいと思っています。

そのために何が必要か考えたときに、まずはLGBTQ当事者や多様な性について、知ってもらうことが大切だと思いました。

とても勇気がいることだけれど、僕がゲイだとカミングアウトすることで、LGBTQってどんな人なんだろうと、知ろうとしてくれる人がいるかもしれません。そういった人たちが増えることで、若い世代が学校や職場とかで、傷つかずに、自分らしく生きられるきっかけになるかもしれないと思っています。

それに加えて、正しい知識も大切だと感じていて。だからこそ、公式サイトに、東京レインボープライド(TRP)さんの「LGBTQ+とは?」というページのリンクを貼っています。去年のカミングアウトで、LGBTQの自殺率について触れたのも、こんだけシリアスな現状なんだって知ってほしかったから。

それに、自分が小さい時に、こういう場所があったらいいなって思ったので、公式サイトではLGBTQ当事者に向けた相談窓口にもリンクを貼りました。

自分が若い時に葛藤していた頃って、どこを頼れば良いのかも、 何をしたら良いのかも分からなかった。だから、そんなときに、相談に乗ってくれるところがあるということ自体が、少しでも、心の安心材料になるかもしれないと信じています。

――今は多くのLGBTQ当事者が好きな人と結婚したり、やりたい仕事に従事したりなど、さまざまなことを諦めている現状があります。日本が「諦めなくて良い社会」になるために必要だと思うことを教えてください。

個人的な考えですが、年齢や性別など関係なく、話して意見を反映し合える環境があると良いなと感じています。

日本は特に、上下関係というか、年齢が高い人だけで決めてしまう空気があると思っていて。でも、若い子にもすごい考えを持っている人もたくさんいるし、みんなが年齢や性別関係なく話せる環境がもっとあったら良いなと思っています。

変な言い方ですが、若い子たちに、大人に負けてほしくないんです。もっと若い子たちも意見が言える環境になれば、みんなが生きやすい社会になるんじゃないかなと。

――日本では今、法律上同性カップルの結婚の平等(いわゆる同性婚)が、認められていません。当事者の6割超が「人権が守られているとは思わない」と回答する世論調査の結果もあります。こういった現状をどう思われますか。

報道機関の世論調査では、各社で少し差があるものの、おおむね6〜7割が賛成していると知って、改めて、早く結婚の平等を認めてほしいと思っています。

今の日本では本当に、選べる選択肢が少ない。若い人たちを中心に、どんどん生きづらい社会になってきているのかなとは思います。

まだ差別や偏見が根強い世の中だから、LGBTQ当事者に対するマイナスな意見などを見て、自分がおかしいかもと思う人もいると思います。ですが絶対にそんなことはないし、1人じゃない。

そしてほんの少しずつかも知れないけれど、理解は深まっていると思います。絶対にいつか、いいことが起きるから、一緒に諦めずに、なんとか前に進んでいってほしい。僕も自分にできることをしていきたいと思っています。

<取材・文=佐藤雄(@takeruc10)/ハフポスト日本版>

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