樋口陸斗さんら無料ライブ 音楽の力でいわき繁華街を復興支援

ライブ会場で寄付を呼びかける樋口さん(左)=7日午後、いわき市平大工町

 いわき市のJRいわき駅前の繁華街で多くの建物が焼損した火災の発生を受け、地元のヒップホップアーティストが復興支援に乗り出した。樋口陸斗さん(25)は7日、「復旧に少しでも役立ちたい」と同市で無料ライブイベントを開き、募金箱を設置して協力を呼びかけた。9日で火災発生から2週間となる中、趣旨に賛同した大勢の住民が駆け付け、支援の輪が広がった。

 売り上げ全額募金

 ライブには樋口さんも含めて8組が出演。繁華街の暗い雰囲気を吹き飛ばすような活気にあふれた。樋口さんは出演前に会場の入り口で募金箱を持ち、寄付を呼びかけた。会場では事前に募集していた市内の飲食店も出店し、売り上げを全額募金に充てた。

 同市で生まれ育った樋口さんは、仲間の音楽を聴いたことがきっかけでヒップホップの道に進んだ。Frank(フランク)という名前で音楽活動を行う中、2年前から自身でライブを主催し、同市のクラブソニックいわきで仲間を集めてライブを行ってきた。

 「地元に根強いのがヒップホップの文化」と地元愛が強い樋口さん。同市を中心に2019年の東日本台風や昨年9月の記録的豪雨で被害に遭った仲間たちの自宅の片付けなど、ボランティア活動にも力を入れてきた。

 ヒップホップ「地元のため」

 そのような中、5月26日午前、同市平字田町で火災が発生した。いまだに現場に焦げた建物のがれきが残り、営業の見通しが立たない店も多い。「生まれ育った地元のために、困っている人に手を差し伸べたい」。樋口さんはすぐに「田町建物火災復興プロジェクト」と題したライブイベントを企画した。

 ライブ会場は熱気に包まれ、来場した同市の会社員高津海輝(かいき)さん(21)は「田町にはよく行っていたので、一日でも早い復興を願って募金した」と語った。同市の飲食店オーナー橋本照美さんは「同じ飲食店として早く復興してほしいという思いで賛同した。支援のきっかけになったと思う」と開催を喜んだ。

 樋口さんはライブの1週間ほど前、市内で飲食店などを経営する友人の協力を得て、飲食店を中心に市内約40店舗に募金箱を設置。全国から寄付を募れるよう同市のNPO法人を通じて募金先の口座も用意した。募金は8月まで受け付け、全額を同市のNPO法人を通じて復興のために役立てる。

 樋口さんは「今、自分たちができる形で誰もが支援できる環境をつくることができた。ここから多くの人が地元いわきに目を向け、さらに支援の輪が広がってくれたらうれしい」と期待している。(副島湧人)

 発生2週間、焼損13棟

 いわき市消防本部によると、焼損棟数は13棟で、37テナントに被害があった。被害の内訳は全焼5棟、半焼2棟、部分焼などが6棟だった。市は4日に復旧に向けた対策チームを設置。被害のあった建物周辺の道路にがれきがたまっていることから、安全確保のため来週以降、現場にバリケードや目隠しとなるシートを設置する。また被害があった建物は民間所有のため、公費でがれきを撤去できないことから、建物所有者の合意形成に向けた対応についても協議を進めている。

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