【イギリス総選挙2024】7政党の代表らがテレビ討論、防衛や税金めぐり議論が白熱

イギリスで7日、7月4日の総選挙に向けたテレビ討論会が行われ、7政党の代表が議論を交わした。

BBC主催の討論では、防衛や税金、移民などが争点となった。

参加者は、与党・保守党のペニー・モーダント下院院内総務兼枢密院議長、労働党のアンジェラ・レイナー副党首、自由民主党のデイジー・クーパー副党首、リフォームUKのナイジェル・ファラージ党首、イングランドおよびウェールズ緑の党のカーラ・デニア共同党首、スコットランド国民党(SNP)のスティーヴン・フリン・ウェストミンスター議会代表、ウェールズ党のリーン・アプ・ヨーワース党首。

イギリスでは3日、二大政党の党首がテレビ討論を行ったばかり。今回の討論会では、少数政党が注目を浴びるチャンスとなった。

スーナク氏の「Dデイ」式典早退に批判集中

リシ・スーナク首相は前日6日、フランスで行われた第2次世界大戦のフランス・ノルマンディー上陸作戦80周年を記念する式典を早退。現時点における今回の選挙戦最大の失策と批判を浴びている。

テレビ討論会では、この件について保守党のモーダント氏に批判が寄せられた。

海軍予備役でもあるモーダント氏は、スーナク氏の早退は「完全に間違いだった」と述べた。一方で、スーナク氏が退役軍人と市民に謝罪をしたことは正しい対応で、この件を政争の具にするべきではないと話した。

ただしモーダント氏は、他の保守党議員のように、この件を題材にしてスーナク氏の退役軍人政策や防衛策を称えたりはしなかった。

リフォームUKのファラージ党首は。首相の行動は「愛国的でない首相による」「本当にみっともない」ものだと批判。自由民主党のクーパー副党首は、スーナク氏の行動は「政治的な恥」だと述べた。

この討論会の立ち位置はくじで決められたが、その結果、保守党のモーダント氏と労働党代表のレイナー副党首が並ぶことになった。

モーダント氏は、労働党の防衛政策を批判。隣にいる労働党のレイナー副党首が過去に、核弾頭を搭載した潜水艦発射弾頭ミサイル(SLBM)「トライデント」の更新に反対票を投じたことを指摘した。

核戦略への反対は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領のような敵対勢力が、労働党の核兵器使用の意思を疑う要因になると、モーダント氏は指摘。 「信頼性がなければ、我々は標的になる」と付け加えた。

レイナー氏は、党首のサー・キア・スターマーが打ち出したように、労働党はイギリスが核抑止力を維持すると明確にしていると反論。保守党の、経済が許す限り国防支出を国内総生産(GDP)の2.5%まで引き上げるという計画と同じだと述べた。

また、保守党が軍隊を縮小させたことを批判し、同党がイギリスを「国際的な笑いもの」にしていると述べた。

防衛については、野党・自由民主党のクーパー副党首も、核抑止力の維持を決意しており、陸軍部隊での人員削減を撤回すると述べた。

一方、緑の党とウェールズ党、SNPはトライデントの更新に反対すると表明。予算を別の防衛手段に振り向けるべきだと主張した。

税金めぐる保守党の主張に疑義

この討論会で最も紛糾(ふんきゅう)したのは、労働党の計画がが「わが国のすべての勤労者世帯に2000ポンド(約40万円)の増税」を意味するというスーナク首相の主張を、モーダント氏が繰り返した時だった。

レイナー氏は、「それはうそだ」と述べ、保守党政府は「記録的な」増税を行っていると付け加えた。

また、「強い経済が必要だと言ったばかりなのに、リズ・トラス(前首相)を支持し、経済を破綻させた」と批判した。

保守党が主張する「2000ポンド」という数字については、イギリスの統計局も「誤解を招く」危険性があると批判している。

BBCヴェリファイ(検証チーム)の分析によると、保守党は、労働党の支出公約にかかる費用を合計し、これを少なくとも1人が働いている世帯の数で割り、この数字を出した。

しかし、この試算は疑わしい仮定に基づくもので、労働党は反論している。

労働党は、保守党と同様に、所得税や国民保険、付加価値税(VAT)の税率は上げないとしている。

このほか、自由民主党のクーパー氏は、自分たちがかつて保守党と連立政権を組んだ2010年に、学費を値上げしないという公約を破ったことは、同党にとって「確かに痛い問題」だと認めた。

一方で、この連立政権の間、緊縮財政の影響を軽減するために、自分たちは「毎日、保守党と戦った」のだと主張した。

SNPのフリン代表は、労働党と保守党が、国民所得に占める借金の割合を下げるという自らに課したルールのために「緊縮政策」を続けるだろうと主張し、たびたび拍手を浴びた。

フリン氏はまた、移民に関する議論の論調を変えるべきだと主張。「ナイジェル・ファラージのような人々の偏見を中心に、議論が組み立てられていることが、あまりに多い」と批判した。

ファラージ氏はさらに、移民受け入れに対する姿勢をめぐって、SNPとウェールズ党、緑の党から攻撃を受けた。

ファラージ氏は、「人口爆発」が住宅価格を引き上げており、これは移民を「正味ゼロ」まで削減すれば解決すると主張した。

また、公的医療の国民保健サービス(NHS)についても、少なくとも一般税を財源にする現在の形は廃止されるべきだと発言。フランス式の保険制度の方が「同じ金で」良い結果を得られると主張した。

一方、選挙キャンペーンは「退屈」であり、「労働党の場合は非常に退屈」だというコメントは、観覧席から好評だった。ナイフ犯罪を取り締まるために「職務質問」を強化するという呼びかけも、拍手を浴びた。

緑の党のデニア共同党首は、労働党がグリーン投資計画に年間280億ポンドを費やすという政策を撤回したことを批判した。

「気候変動に取り組むことは、経済的にも環境的にも非常に良いことだ」と、デニア氏は主張した。

ウェールズ党のアプ・ヨーワース党首は、この30年間で政治に対する信頼がますます失われてきていると述べ、政治家は税金について誠実になり、公平な制度への改善が必要だと主張した。

また、スーナク首相のような人物が、労働者の「過酷な労働」よりも少ない税負担で投資を行うことを阻止するため、より公平な税制を作るよう求めた。

(英語記事 Heated clash on tax and defence in BBC election debate

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