冷え切った“仮面夫婦”の老後のリアル #4「50代からの“ある変化”」

互いに関心も愛情も向けない「仮面夫婦」。それでも何とか生活してきたけれど、子どもたちが独立して自分も年を取り、その間もずっと他人のような存在感だった夫/妻とはふたりきりの老後を迎えます。

関係に愛着のない配偶者と過ごす老後とはどんなものなのか、仮面夫婦のままやってきた人たちのリアルを実録で紹介します。

「長年仮面夫婦だった夫とは、何がきっかけで仲が冷えたのかも思い出せません。

そもそも入籍したのが周囲の勧めがあったからで、夫からは特にプロポーズのような言葉もなくなあなあでやってきたことが、悪かったのだと自分では思っています。

スキンシップがなかったため子どもができることもなく、それを若い頃は悩んだこともありましたが、仕事が楽しくてそちらに逃げていました。

正直に告白すれば不倫も経験していて、それでも離婚しなかったのは他人のような夫との暮らしに大きなストレスがなく、既婚の立場を捨てたくなかったのも本音です。

お互いにしっかりした収入があるせいか割と自由に生活ができていて、老後についても『このまま何となくでやっていくのだろうな』と思っていました。

50代になってからは離婚などいっさい考えなくなり、気が向いたら一緒に食卓を囲むような機会が生まれたのは、私のほうから夫に声をかけるようになったから。

周りの友人たちがお子さんが独立して寂しがるのを見ていたら、私もふと夫との仲をどうにかしてみようと思いました。

愛情はないし同居人のような感じだけど、朝の挨拶くらいはまともに交わしていた夫とは、会話が増えればそれなりに楽しく過ごせることを実感しました。

やっぱり長年一つ屋根の下に暮らしていれば完全に他人とは思えず、夫も同じように感じているのがわかり、少しずつリビングで過ごす時間が増えていくのが新鮮でしたね。

愛情が復活するような甘い時間はないけれど、それでも、一緒に買い物に行けばおそろいのスウェットを買うよう夫が言い出すこともあって、そうこうしているうちに定年を迎えました。

退職金について夫はどうするだろうと思っていたら『これから介護が必要になるときが来る』と言って貯金を提案し、ふたりでいることが当たり前なのだと思いうれしかったです。

昔は不倫をして夫を裏切ることもあったし、今も恋愛感情のようなものはないけれど、こんな形でも夫婦として生きていけるのならそれで満足だと思っています」(女性/63歳/専業主婦)

子どもがいなかったことで「かえって気楽に仮面夫婦でいられた」と言い切るこちらの女性は、ご自身が恋愛に淡白であまり人に執着することがなかったのも、大きなトラブルを経験することなく夫婦生活を続けられた要員の一つだったのかもしれません。

不倫も「軽い気持ちだった」と話してくれましたが、人とのつながりに重きを置かない人にとっては、健全とはいえない仮面夫婦状態も「あり」。

男女の愛はなくても、ともに暮らすことに不満がないのであれば、老後も安定した関係でいられる可能性は高いといえますね。

(ハピママ*/ 弘田 香)

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