介護や支援が必要になった高齢者が「有償のボランティア」 本人の”やりたい”を実現する岡山市の新事業「ハタラク」

認知症とその予備軍の数は、2030年にはお年寄りのほぼ3人に1人の1100万人を超えると言われています。
そうした認知症の人も含めて、介護や支援が必要になった人が働いて、少しですが謝礼も得て活躍できる地域社会づくりが岡山市で進んでいます。

カタカナで「ハタラク」と名付けられた取り組みを取材しました。

(担当者)
「こっから向こうに掃いて行ってもらえる?丁寧にやってもらえれば」

81歳の認知症の女性が、営業中のスーパーマーケットの店内の掃除に取り組んでいます。

(認知症の女性)
「初めてです。難しいですよ、やっぱり。普段しないことだから。家とは違うし」

介護保険では、介護や支援が必要と認定された人たちに「通所介護」いわゆる「デイサービス」を提供します。

岡山市が3年前から始めた岡山市の高齢者活躍推進事業「ハタラク」は、要介護となっても、誰もが住み慣れた地域の一員として自分の役割を持って暮らしていける地域社会作りを目指しています。

地域の企業や団体が介護事業所に掃除や内職などを依頼し、希望する高齢者がその人の意欲と能力に応じて有償のボランティアをして小額の謝礼を受け取ります。

健康な高齢者にはシルバー人材センターなどがありますが、介護や支援が必要となった高齢者にはこれまで社会参加できる場がほとんどなかったのです。

このデイサービスでは、利用者のおよそ半数が認知症です。脈拍や血圧などの健康チェックを済ませると、認知症の男性利用者2人がすぐ隣にあるフィットネスクラブに歩いて移動します。

(付き添いの看護師)
「今日はお世話になります。よろしくお願いします」

デイサービスの利用者のうち、希望する人が月に4回、フィットネスクラブの体育館やスタジオで、窓や鏡、床などの掃除をします。1時間ほど掃除をして謝礼は1人300円です。

(秋山英男さん)
「じっとしているよりは身体を動かすほうが」

ー何に一番やりがいを感じますか?

「みんなのためになることですかねえ」

(元住宅メーカー営業マン 75歳の松本荘さん)
「少しでも元気なうちにもしお役に立てるのであれば、何か恩返しさせていただけたらと思いまして」

ースタッフの負担はないですか?

(看護士 藤原眞樹子さん)
「人数的にはやはり余裕があるわけではない時もあるが、スタッフはみんな『ハタラク』に協力的ですし、みんなで折り合いながらやってますので、今スムーズにいっていると思っています」

掃除が終わってデイサービスに戻ると、スタッフから謝礼が手渡されました。

「やった」
「また来月もよろしくお願いします」
「有難うございます」

報酬や感謝の言葉をきっかけに「自信を取り戻すというのが一番いいケア」

(春川正明キャスター)
「こちらのデイサービスでは認知症の予防に力を入れていて、利用者の方は皆さん女性です。中には作業をされている方もいらっしゃいます」

認知症の予防の為に内職をしているのは、82歳の女性です。返品されてきた商品の数をチェックして商品タグを外す作業です。謝礼は1セット1円です。

ーちょっとでもお金もらえるのは嬉しいですか?

(藤原京子さん)
「嬉しいよ。しれとるけど。ひと月、一生懸命しても2000円あるかないか。ここに来ていたら元気になるよ。家で誰も話し相手が居なくてぼーっとしているのでな」

このデイサービスの利用者のほとんどが認知症ですが、利用者もスタッフもニコニコしていてとても穏やかな空気が流れています。

ー胸に「コープ」って書いてますけど?

(81歳の認知症女性)
「本当じゃなあ、これは私のものじゃないんです」

ーエプロン付けて今からどこ行くんですか?
「どこ行くの?知らんのよ私も。何も知らないの。」

ー知らないの?
「うん、ぼーっと生きとるから。何をどうするのか、さっぱり分かりません」

スタッフが付き添って、車で5分ほどのスーパーマーケットに向かいます。

認知症の人も含めて、介護や支援が必要になった人が働いて謝礼も貰って活躍できる地域社会づくり「ハタラク」が岡山市で進んでいます。

このスーパーマーケットでは、店舗の外回りで草取りをするのですが、この日は雨が降っていたため初めて店舗内の掃除をすることになりました。
ここでの作業は月に2回。1回30分ほどで謝礼は200円です。

(店長)
「こちらが今日の報酬になります」

「ありがとうございます。いやあ、もう私はお金を貰うなんてことはなんか考えたことないからな。嬉しいです。(封筒の中身を見て)何が入ってるの?なんか200万円ほど入ってる」

ー何を買いますか?

「何が買えますかね?200円で(買うて帰ろ)はい、有難うございました」

(どんぐりハウス 早見満暁さん)
「認知症になると、やっぱり自分に自信がなくなりますよね。自信を取り戻すというのが一番いいケアになると思います。自信には何が一番大事かというと、人からありがとうと言ってもらったり、極端に言えばその対価として賃金を貰うということが、その人を取り戻すということの重要な要素になるんじゃないかなというふうに思っています」

(コープ西大寺店長)
「実際に来られた方も非常に楽しくされていますし、その後の買い物とかも笑顔でされているの見ると、まだまだ我々も一緒にやっていけたらなと思っています」

高齢者の生きがいを模索する

「ハタラク」には現在岡山市内の7つの介護事業所と15の企業や団体が参加しています。

先週、岡山市によるセミナーが開かれ、参加に興味を示す岡山市内の11の介護事業所が参加しました。

全国では介護事業所が個別に同じような取り組みをやっている事例もありますが、岡山市のように行政が主導して実施している例は珍しいということです。

(セミナー参加者)
「やはり高齢者の方々の生きがいを一緒に探して行きたい。ただ普通一般にあるデイサービスとはまた違ったデイサービスを作り上げたいな」

「今までいろんな仕事をしてきて、いろんな人の役に立ってきたのに、病気で出来なくなってしまって以来機会がない。今からいっぱいまだ出来ることがあるのに働かせてもらえないんだという男性がおられて、その方のためにも、うちの事業所でそういった取り組みやっていけたらなと思っています」

(岡山市の担当者)
「色々と広まっていないこともありますし、この事業に関してご理解をいただく。もっと活躍の場ができるように取り組んでいきたい」

介護や支援が必要になっても、たとえ認知症になってもまだまだ“出来ること”がたくさんあります。掃除や内職に取り組む高齢者が生き生きとしていて笑顔で取り組んでいることがとても印象的でした。

(掃除を終えた女性)
「綺麗になることはいいことだけどね。私らみたいな者でも使ってくれるのだったら有難いです」

ー今後も続けていこうと思いますか?

「それはまた考えます(笑)」

<スタジオ>
「ハタラク」では、本人の“やりたい”を実現できます。“要介護の人は働けない”という固定概念の見直しになります。

介護保険を使っていても働いてお金を貰ってもいいのというのがありますが、いろいろ条件もありますけど、もらっていいということで厚生労働省から通達みたいなものが出てるんですね。

やはり、幾つになっても人は“必要とされている”ことが重要なのだと改めて感じました。素晴らしい取り組みがぜひ岡山から全国にもっと広がって欲しいです。

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