年収1000万円のキリンビール部長が役者に転身して4年「ワンステージ数千円。でも今のほうがぜんぜん幸せ」目標は大河ドラマで台詞を

山田直祈さんは「今日はこれから、『学園探偵 薔薇戦士』というコメディの舞台稽古なんです」と楽しそう

「会社なんか辞めて、生き甲斐を追ってみたい」「自分には天職があるはず」――そんな衝動に従うべきなのか。年収1000万円や安定した将来を捨てた男たちに、「いま、本当に幸せか」を聞いてみた!

「僕は、55歳で早期退職する予定を1年前倒しし、54歳で会社を辞めました。我ながら、思い切った決断だったと思います(笑)」

こう話すのは、大手酒造メーカー・キリンビールの営業部長から、俳優を目指して芸能事務所に入所した山田直祈(なおき)さん(58)だ。

「きっかけは、営業部長から副理事になるための昇進試験に落ちてしまったことです。役職がなくなり、約1000万円あった年収が、半分以下に下がることになりました。一からのやり直しになるわけです。それで上乗せ退職金をもらって辞めることに。今もまったく後悔してないですけど、もし昇進試験に受かっていたら、きっとしがみついちゃったんだろうな」と笑う。

退職後、山田さんは子供のころの夢を思い出し、俳優を目指すことにした。しかし、年齢的に受けられるオーディションは少なく、劇団にも入れなかった。それでも、「勉強をさせてもらえるし仕事もいただける」と、今の事務所の研修生になった。それから4年。今は、台詞のある役を少しずつもらえるようになってきたという。

「収入的には、3カ月で十数万円です。舞台だと、稽古からずっと拘束されて。稽古場では交通費も弁当代も自分で持ち出しです。しかも、チケットバックやノルマもあるので、全部売っても収入にはほとんどなりません。最悪でしょう(笑)」

このままだと、「あと5年で貯金が底をつく」と言う山田さんだが、その顔は明るい。

「スキマ時間にアプリで探してバイトをしているんですが、最近はそれがおもしろくなってきちゃって。いろんな仕事が経験できるんですよ。でも、僕みたいな新人役者は、仕事があるかは直前にならないとわかりません。だから、バイトもままならないんです」

現在は、パートで働く妻のヒモ状態だと苦笑する。

「キリンでピリピリしていた時代も楽しかったですが、自分には合っていなかったと思います。そういう意味では、会社にしがみつくのも才能なんでしょうね。役者を目指す生活は楽しいことばかりじゃないし、お金もない。でも今のほうが、ぜんぜん幸せだって言えます」

今は友人や親戚たちがチケットを買って舞台を観に来てくれるが、結果を出して恩返しをしたいという。

「エキストラでいいや、とはなりたくないんです。大河ドラマで台詞のある役を絶対に目指します! 言っておけば実現するかもしれないですからね。今日はこれから、舞台の稽古なんです。70歳の執事の役で出演するので、ヒゲは役づくり。シニアモデルになるには、若すぎるって言われるんですけどね(笑)」

稽古着姿で屈託なく笑う山田さんは、晴れ晴れとした表情で稽古場へ戻っていった。

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