【6月9日付編集日記】手のひらを太陽に

 漫画家のやなせたかしさんは40歳を超えた頃、これといった代表作もなく不安を感じて落ち込んでいた。ある夜、筆が進まなくなり卓上の電気スタンドで手のひらを温めると、指と指の間がきれいに赤く見えた

 ▼「本人はこんなにしょんぼりしているのに、血は元気に流れている」。何か励まされたような気がして浮かんだ言葉が、その後長く愛される唱歌「手のひらを太陽に」の歌詞となった(「唱歌・童謡ものがたり」岩波書店)

 ▼能登半島地震から5カ月余りがたった。石川県の住宅被害は8万棟を超え、今も3000人近くが避難生活を余儀なくされている。半島の沿岸部を囲むように走り、大動脈ともいわれる国道249号の本格復旧には、数年かかるという

 ▼珠洲市のある小学校の児童たちが、校庭に建てられた仮設住宅で鼓笛パレードを披露した。地域の一員として、被災した人たちを元気付けようと「手のひらを太陽に」などを奏でた。拍手や笑顔が広がり、堂々とした児童の姿に涙する人もいた

 ▼大切なふるさとも、そこに住んでいる人たちも、地震でたくさん傷ついたけれど、子どもたちなりに心を奮い立たせている。「まっかな血潮」は校庭の一角にも、しっかり届いた。

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