父を見送った年金20万円の88歳母、一人暮らしでは火を消し忘れ、トイレに間に合わない状態に…住宅ローンを抱えた60歳長男絶句。なにかの間違いであってほしい「戦慄の老人ホーム請求額」【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの人に訪れる老いと死……。老後の後半戦では多くの人に訪れるこの問題、自分事として考えられずに、お金の問題に悩まされる人があとを絶ちません。本記事では山本さん(仮名)の事例とともに、介護で経済的な問題に直面しないための事前準備について、FP相談ねっとファイナンシャルプランナーである小川洋平氏が詳しく解説します。

一人暮らしになった母を引き取った長男

山本純一さん(仮名/60歳)と妻の恵子さん(仮名/60歳)は、母マツさん(仮名/88歳)を自宅に迎え入れ暮らしていました。

父の長い介護生活の末に亡くなって以後、独り暮らしになったマツさんを心配して一緒に暮らすことにしたのです。しかし、それまで父の介護を献身的に行っていた母も急激に身体が弱り、トイレが間に合わなくなったり、食事の支度をする際もコンロの火をつけっぱなしにして忘れることが増えたりと、日に日に衰えが目立つようにになりました。誰かがついていないと不安な状態になのです。

当初はデイサービスに通い、パート勤務の恵子さんが送迎の対応をしていましたが、仕事を続けながらの介護はやはり負担が大きく、段々とストレスが溜まっていきました。また、山本さんも自分で母を迎え入れておきながら恵子さんに任せきりにしてしまっていたため、ストレスは山本さんにぶつけられるようになってきました。

当初は母親を施設に入れることに抵抗を感じていた山本さんでしたが、妻の恵子さんの負担を考慮し、マツさんを施設に入れることにしたのでした。

想定外な高額な支出

施設に入れることを決意した山本さんは、マツさんのケアマネージャーに相談しました。

しかし、 ケアマネージャーからはマツさんの状態では少ない負担で入居できる特別養護老人ホームへの入居はできず、軽度な状態でも入居できるグループホームへの入居を勧められたのでした。

特別養護老人ホームは、所得等により負担が少ない費用で入居できる施設ですが、原則として要介護3以上が条件となっており、介護度が進んだ人でないと入居することが難しいのです。

そして、マツさんでも入居できるグループホームの費用を聞いて絶句しました。山本さんが住む地域では月額で20万円にもなるとのことです。

マツさんの年金は月額12万円程度ですので毎月8万円のマイナスになってしまい、自身の住宅ローンを払いながら老後に向けて貯蓄もできていない山本さんにとっては大きな負担です。「なにかの間違いであってほしい……」山本さんは嘆きます。

母の老人ホーム入居を決断

山本さんはなんとかデイサービスを活用した自宅での介護を続け、面倒を見てくれないかと恵子さんにも相談しました。

しかし、恵子さんにとっては自分の母親の介護を頼りきろうとする山本さんの態度が許せません。当然、お金の負担が自分たち夫婦の今後の家計にを圧迫していくことは理解していますが、現状のような壮絶な介護が今後も続くことを考えるとゾッとするといいます。恵子さんが同意することはありませんでした。

結局、仕方なく山本さんは母のグループホームへの入居を決め、いつまでも続くかわからない費用を支払い続けることになったのでした。

介護貧乏を避けるには?

今回の山本さんが経験したように、介護は精神的にも経済的にも大きな負担となることがあります。どこか他人事に思えてしまい、自分が介護が必要になる状態などあまりイメージできず、介護状態への備えを特に考えていないという方も多いものです。

しかし、実際には親の介護費用が子供にとって大きな負担になることもあり、また介護がきっかけで家族の関係性が悪くなってしまうこともあります。

要介護度が進むことで負担が少ない特別養護老人ホームに移ることもできますが、見通しが立つものではないでしょう。それまでのグループホームの費用などは準備しておくことが望ましいといえます。

高齢の親、定年前後の子…子世代も自らの介護の準備を

老後の資産形成を行う際には、自分が介護が必要になった場合も想定して準備しておくことが重要です。

介護状態への対策は生命保険の活用も有効です。いまある資産を運用しながら所定の介護状態になった場合に保険金として受取ることができる商品もありますので、そういった保険商品の検討もまだ元気なうちに検討しておいたほうがよいといえます。

また、山本さんのように妻に自分の親の介護を任せきりにしてしまうのも問題です。介護休暇や有給を活用したり、自分の親の介護にもっと主体的に関わる姿勢を見せれば恵子さんのストレスも軽減され、デイサービスで対応することもできたかもしれません。

85歳以上で日常生活に部分的な支援が必要な人の割合

今回は母親の介護が大きな負担となってしまった山本さんの事例をご紹介しました。厚生労働省「介護給付費等実態統計月報」/2023年9月審査分、総務省「人口推計月報」によりますと、80歳~84歳の人の26%が要介護、要支援状態となり、85歳以上の人については59.5%が要支援以上の状態になっているというデータがあります。

つまり、老後の後半戦では多くの人が誰かの助けを必要とする状態になるため、そういった場合を想定し準備が必要ということです。

経済的な準備はもちろんのこと、自分が誰かの助けを必要とする状態になったらどうするか、家族に面倒をみてもらうつもりならばその家族に対しては経済的にも精神的にも相応のものを与える必要があるといえるでしょう。

自分の老後の資金計画を考えることは当然必要ですが、このように自分の身体の自由が 利かないときに誰に面倒をみてもらうか、そしてその場合にどの程度のお金が必要かを試算し、自分のことが自分でできなくなった場合の対策を事前に講じておく必要があります。

小川 洋平

FP相談ねっと

ファイナンシャルプランナー

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