『響け!ユーフォニアム3』で感じる“部長”黄前久美子の成長。一方、垣間見える少しの危うさは

2015年から放映されている『響け!ユーフォニアム』シリーズ。2024年の4月より最終章である3期『響け!ユーフォニアム3』の放送が開始され、三年生となった主人公・黄前久美子が最後の大会に向けて奮闘する姿が描かれています。

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これまでも吹奏楽部のリアルを描いて話題を集めてきた今作。主人公の久美子も初登場時は部活アニメの主人公らしからぬ冷めっぷりで、部活動にも人間関係にもどこか線を引いていました。しかし三年生となった今では、部員の人望を集め北宇治高校吹奏楽部の部長を務めるまでに成長しています。

あの”ドライで良い子”だった久美子が部長として、なぜ部員の精神的支柱たりえているのか? 彼女の部長としての振る舞いとそこに垣間見える成長を振り返ります。

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■『響け!ユーフォニアム』黄前久美子が主人公である理由。“良い子”から脱却するまでの軌跡:https://numan.tokyo/feature/sttqczmj/

空回り気味でも、部長としての姿勢を模索し続けたアンコン

久美子が初めて部長として取り組んだイベントは、久美子が二年生だった年の後半に行われたアンサンブルコンテスト。部長として部をまとめ、大会の規定に沿って部員を3〜8人のチームに分けるという仕事を任されました。

基本的には部員同士で自由に組む方針にしたのですが、自由なままにしておくとどこのチームからも外れてしまった部員も少なからず出ることになります。あぶれた部員が相談にきた際にも久美子らしく調和を大切にし、親身になって解決しようと試みます。

しかし、そんな姿勢について部員から「優しいですね!」と感激される度に、前々部長の小笠原晴香が自身の優しさに押しつぶされて苦しむ姿を思い出してしまい、ちくりと痛みを覚える久美子。

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強引なカリスマ性を持つ前部長の吉川優子のようにはできないし、自身の優しさで苦しんでいた前々部長の晴香のことも少々引っかかる。アンコンの時期における久美子は、二人の部長像の間を行き来しながら自分なりの部長像を模索してトライして、少々空回りしているようにも見えました。

そんな久美子がアンコンの中で辿り着いた結論は「部長としての不安は抱えたままだけど、部員のちょっとした前向きな変化がとても嬉しい」。

これまで様々な問題に巻き込まれながらも、他人を知ることで解決へ導いてきた久美子らしい結論といえます。まだまだ模索している最中のようですが、これが久美子の部長としての原点になったのではないでしょうか。

トラブルを防げるように。その姿勢には少しの危うさも…

三年生になった久美子は、常に部内でトラブルが起きていないか気を配っています。まるで小さなトラブルを一つずつ拾い集めて、大きなトラブルになるのを未然に防いでいるかのようです。

これまでは「自分には関係ないから」とトラブルが大きくなり巻き込まれるまでは静観していた久美子でしたが、部長となった今は「黄前相談所」の究極系のような形で積極的に介入するようになっています。これは久美子自身が部長として何ができるか、何が自分に求められているか、を考えた結果なのではないでしょうか。

しかし、その姿勢には少し危うさも覚えます。現状では、久美子だけが各部員の個人的な問題を全て抱えている状態です。本来一年生のフォローをするはずの一年生係の剣崎梨々花や加藤葉月を差し置いて、部長だけが対応してしまっています。

このまま久美子が色々な問題を解決していったとしても、そういったことが明るみに出て少しでもバランスが崩れた際には、信頼を失う事態が発生する可能性もあるのでは、と危惧していました。

実際に、第三回「みずいろプレリュード」では一年生の釜屋すずめに手玉に取られているような描写もあり、どこか一筋縄では行かない不穏な雰囲気は常に漂っていました。

この全てがスッキリと解決したわけではない状態が積もった末に、あの関西大会オーディション事件は起きてしまったのかもしれません。

新たな問題を乗り越えたとき、また違う一面が見えるはず

黄前久美子には裏表がある。と言うと少々乱暴ですが、実際久美子には激しく裏表があります。それも久美子の処世術の一つではありますが、同時にトラブルに巻き込まれやすい体質でもありました。

一方ユーフォニアムパートの新入部員として入ってきた、同じく三年生で転校生の黒江真由は柔和だけど率直で、良くも悪くも裏表がない人物だと筆者は感じています。

これまで多くのトラブルを解決に導いてきた久美子は、”人との距離を一定に置く”ではなく”その人に合わせた距離から接する”ということができるようになっています。

引っ込み気味で本音を言い出すのが苦手な義井沙里や、気難しい月永求に対して、必要な言葉を適切なタイミングと距離感で投げかけ、彼女らの抱える問題を前向きに昇華できたことからも、そのことが伺えます。

しかし、久美子は真由とだけは距離を測ることができていないように見受けられます。久美子と真由の間には、踏み込むことも近づくこともできない”一定の距離”だけが存在する状態なのではないでしょうか。

事実、久美子は真由に対して「中学の時の自分と似ていて、苦手意識がある」と考えているようです。真由としてはずっと久美子や奏に対して言っているように、大抵のことは本当にどちらでも構わない、それが本音で裏も表もないのです。

久美子の言うように、二人は正反対に見えて本当のところはとてもよく似ているように思えます。ただ二人の間にある大きな違いは「全国常連の部活を経験してきたかどうか」。

その決定的な違いが久美子と、ひいては部員のほとんどの人間と真由の部活に対する精神性の噛み合わなさを生んでしまい、現状のように互いに疎となる関係を生んでしまっているのかもしれません。

例えその違いがあったとしても、これまでと同様に一定の距離だけ置いてなんとなくやり過ごせば問題ないのに、あの久美子がその距離感に居心地の悪さを感じ、オーディションの結果に怒りにも似た気持ちを抱くなんて、それだけでも彼女が一年生の頃からどれだけ成長したかが伺えます。

そして久美子と真由の問題が解消されたとき、久美子はまたこれまでとは違った一面を見せるのかもしれません。

久美子はどう導いていくのか?

関西大会のオーディションを機にとうとう問題が爆発してしまった新・北宇治高校吹奏楽部。

なんとなく日常は平穏に流れているが、水面下で何かが発生しているような気がする。そんなモヤモヤ感を抱かせる『響け!ユーフォニアム』シリーズ。毎回の視聴でも何も起こりませんようにと祈っていたため、現状を見ると心が痛みます。

今後部長として久美子がどのように北宇治高校吹奏楽部を導いていくのか? そして久美子自身が抱える進路や部活への悩みに、どういった結論を出していくのか?

最後の大会を迎える久美子たちが、どのような音楽でラストを彩るのか。祈るような気持ちで見届けたいと思います。

(執筆:宮本デン)

『響け!ユーフォニアム3』作品概要

2024年4月7日より毎週(日)午後5時 NHK Eテレにて放送開始

【CAST】
黄前久美子:黒沢ともよ
加藤葉月:朝井彩加
川島緑輝:豊田萌絵
高坂麗奈:安済知佳
黒江真由:戸松 遥
塚本秀一:石谷春貴
釜屋つばめ:大橋彩香
久石 奏:雨宮 天
鈴木美玲:七瀬彩夏
鈴木さつき:久野美咲
月永 求:土屋神葉
剣崎梨々花:杉浦しおり

【STAFF】
原作:武田綾乃(宝島社文庫『響け!ユーフォニアム 北宇治高校吹奏楽部、決意の最終楽章』)
監督:石原立也
副監督:小川太一
シリーズ構成:花田十輝
キャラクターデザイン:池田晶子、池田和美
総作画監督:池田和美
楽器設定:髙橋博行
楽器作画監督:太田 稔
美術監督:篠原睦雄
3D美術:鵜ノ口穣二
色彩設計:竹田明代
撮影監督:髙尾一也
3D監督:冨板紀宏
音響監督:鶴岡陽太
音楽:松田彬人
音楽制作:ランティス、ハートカンパニー
音楽協力:洗足学園音楽大学
演奏協力:プログレッシブ!ウインド・オーケストラ
吹奏楽監修:大和田雅洋
アニメーション制作:京都アニメーション
製作:『響け!』製作委員会2024

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Ⓒ武田綾乃・宝島社/『響け!』製作委員会2024

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