低迷する国内男子ツアーどう再建?「世界の青木功」からバトンを受けたJGTO新会長に聞く

日本ゴルフツアー機構会長の諸星裕氏(C)日刊ゲンダイ

【注目の人 直撃インタビュー】

諸星裕(日本ゴルフツアー機構会長)

「人気低迷」が叫ばれて久しい国内の男子ゴルフツアーを統括するのが、一般社団法人の日本ゴルフツアー機構(JGTO)だ。1980年から90年代初頭には40以上あった試合数も2015年には25試合まで激減。危機感を募らせたプロをはじめとする関係者は、国内外のツアーで実績十分の青木功氏を口説いて16年に会長に据えたが、「レジェンド」が全国行脚しても試合数は増えず、今季の試合数も史上最低の24のままだ。今年3月、青木会長からバトンを受けた新会長にツアー再建策について聞いた。

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──試合数がここまで減ったのはなぜですか。

ゴルフは他のスポーツに比べて経済状況への依存度が高い。日本は23年の名目国内総生産(GDP)でドイツに抜かれて世界4位に落ちました。残念ながら日本の経済力が落ちていることを反映している。

──女子は昨年より1試合減っても37試合あります。

それは30年前から変わらないのですが、1試合にかかるコストが男子の方がかなり高い。女子はここ数年で4日間大会が増えましたが、それでも男子の6~7割程度でしょう。男子は1試合の賞金が高額だったことや、お借りしていたコースのグレードといいますか、有名コースでしたので使用料も女子の大会とは違っていました。

──女子の試合が減らないのはプロアマ戦の人気が高いからではないですか。主催者が関係者を招待するコンペは女子プロの方が受けがいいと言われています。

その通りです。私は11年前まで、JGTOの副会長を14年間やっていましたからよく知っています。男子プロにサービス精神が欠如していたことは否めません。一生懸命、教育しましたが、なかなか効果が出なかった。しかし、この点に関してはいくつか理由があります。やっぱりホスピタリティーの精神は女性の方が上です。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)前会長の樋口(久子)さんがプロアマの重要性や参加者に対する態度や礼儀などを熱心に教育されていたことが大きいでしょう。男子も同じことをやればいいじゃないかと言われそうですが、ツアープロの194人はJGTOと雇用関係はない。選手個々が個人事業主です。こちらが笛を吹いてもみんな踊ってくれるわけではない。それとコース構造の問題もあります。

──コース構造の問題とは。

プロアマのとき、プロはティーイングエリアの一番後方のバックティーから打ちますが、アマチュアの方は前方の白マーク。離れてしまって会話ができない。飛距離も違うのでフェアウエーでも同じです。これはコース上の問題ではありませんが、グリーンはプロにとって賞金が埋まっているところですからどうしても念入りにチェックする。アマチュアの方が「ラインを読んでくれ」といっても、しっかり対応しない者もいる。コミュニケーションが成立しないケースが多いのです。

世界人口の半分近く占める巨大マーケット

──話を試合数に戻しますが、これ以上減らさない、または増やすための具体的なプランはありますか。

JGTOの大前提として、試合を増やすことは優先順位のトップか、その次です。しかし、日本の経済状況がこうですから、最大限の努力はしますが、そんなに増えるとは考えていません。そもそもレジェンドの青木(功)さんがいろいろな所に出向いても試合は減ったわけです。私のような者が(企業へ)行ってもそんなに増えないでしょう。もちろん現状でいいとは思いませんが、GDPで日本を抜いたドイツは年間2試合です。24試合もあるのは立派という見方もできます。

──ツアーメンバーたちは新会長の手腕に期待しています。どんな方法で試合を増やしてくれるのか、と。

私は世界で生きてきた人間ですから、国内だけでやっていけばダメになることはわかりきっている。例えば、世界で行われているツアーの賞金総額は約1400億円です。USPGAは約800億円、莫大な移籍金は別にしてもLIVゴルフは約500億円、JGTOは約32億円ですから勝負になりません。マスコミやファンの皆さんが試合数や賞金額を比較するのは勘弁してほしいです(笑)。

──会長は就任会見で他国のツアーとの連携について触れていました。これはJGTOの定款にも明記されています。改めてお聞きしますが、具体的にどんなプランをお持ちですか。

私も知らなかったのですが、現在世界には28のツアーがあります。4月にマスターズに行き、現地に3日間滞在して、その間は朝から会議ばかりでした。そのひとつが世界ランキングポイントの会議です。あるツアーが、その世界ランキングの対象に加えて欲しいという申請でした。選手が約80人で年間6~8試合しかないスコットランドのツアーです。そのような小さなツアーを含めて、世界に28あるツアーにはそれぞれ強みがある。交渉によって互いの特徴を利用し、PGAツアーに協力を仰ぐのです。

──PGAに助けてもらうのですか。

資金が潤沢なPGAツアーは他のツアーに対し、「助ける」という言葉を使います。助けてもらうことは恥ずかしいことではありません。こういう構想もあります。副会長時代に国際関係を担当していました。その時、豪州を含めてアジア圏で大きなツアーをつくろうという話がありました。当時、豪州は十数試合、国内が25試合ぐらいでした。ツアー日程を見ると1年の間にピタッと収まる。豪州と日本とでは冬と夏が逆ですから、豪州の関係者たちも「これはおもしろい。ジョイントツアーをやりましょう」と乗り気でしたが、95年から開催されていたアジアンツアーがまだ成熟しておらず、それ以上話が進まなかった。その時のプランを実現させれば、米国、欧州に次ぐ、第三極に必ずなれると思います。何しろ、インド、中国、そしてアジア諸国で世界の人口(約81億人)の半分近くを占める。この巨大マーケットは企業にとって魅力でしょう。マスターズに行ったとき、米国の関係者たちとそういう話をしました。先にこちらの構想を話しておかないと、向こうの連中に先に実行されてしまいますから。仮に米国のツアー関係者がこのプランを実現させるために動きだせば、JGTOはそれに乗ります。そのぐらいしたたかでないと。

■G・ノーマンからの電話に「めでたくないよ」

──連携といえば、サウジアラビアの政府系ファンドがバックアップするLIVゴルフについてはどうですか。

LIVは有名選手を集めるための移籍金の他に、自分のツアーだけで500億円ぐらいの賞金を出している団体です。私が放っておくわけがないじゃないですか(笑)。LIVについては、日本と欧米ツアーとの間に紳士協定みたいなものがあって、JGTOの方から連絡することは控えていますが、向こうから電話がくれば話をします。実際、3月に会長になった直後、(LIVゴルフCEOの)G・ノーマンから電話がありました。彼とは二十数年前に5年間ぐらい付き合いがあり、「会長就任おめでとう」と言うから、「おめでたくもなんともないよ」と。その後、いろいろな話をしました。LIVにとってもゴルフが盛んな日本は大きなマーケットですからね。

(聞き手=塙雄一/日刊ゲンダイ)

▽諸星裕(もろほし・ゆたか)1946年、神奈川県生まれ。国際基督教大教養学部卒、米ブリガム・ヤング大大学院修士課程、ユタ大学大学院博士課程修了。カナダ・オンタリオ州矯正省、ミネソタ州立セント・クラウド大教授、桜美林大副学長などを歴任し、2024年3月に一般社団法人日本ゴルフツアー機構会長就任。桜美林大名誉教授。

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