教育社会学者・内田良氏 教員のタダ働きに甘える“学校依存社会”に警鐘

教育社会学者、名古屋大学大学院の内田良教授(C)日刊ゲンダイ

公立学校の教員に対し、残業代を支給しない代わりに月給の4%を上乗せして支給する「給特法(教職員給与特別措置法)」は、長時間労働を容認し、“定額働かせ放題”の温床になっていると問題視されている。そして、社会が学校に過度に依存していることも、教員の労働環境を悪化させる要因だという。【全2回の後編】

■部活動という休日出勤に誰も疑問を抱かない

「先生は土日を含め、終日子供の面倒を見てくれるものだと、教員に対する社会全体の期待が物凄く大きい。私はこれを、“学校依存社会”と呼んでいます」

──“依存”の内容は多岐に及ぶ。

「例えば、子供が夜に出歩いていたとか、道端でうるさくしていたといった地域住民のクレームが学校に届くわけです。しかし、そういったことへの対応は本来、教員の職務の管轄外であり、家庭の問題であるはずです。他にも、土日にも部活動の顧問をしていることや、学校で起きたトラブルなどについて保護者の帰宅を待って電話するなど、教員の勤務時間外や管轄外の労働に、社会が疑問を抱かなくなってしまっている。教員も一人の私人であり、労働者です。にもかかわらず、勤務時間外にも子供の面倒を見ることを求め、教員に大きな負担をかけてしまっている。社会全体で改めて考えていかねばなりません」

──国もまた献身的に働く現場の教員に依存している。

「教員の待遇改善のため、労働時間に見合った給料を支給する制度に予算を配分するなど、財務省はもっと教育分野にお金を割くべきです。しかし、教員は自らを犠牲にし献身的に働いているので、現状の予算でも対応は可能だと考えているのでしょう。財務省は、文科省に予算をまわすことに消極的で、結局は教員の善意によるタダ働きに完全に甘えてしまっている。まさに“学校依存社会”を如実に表しているのです」

財務省は教育分野にしかるべき予算を

──そもそも予算が厳しい状況で、文科省は教員の働き方改革に抜本的な手を打つことができないでいる。NHKが教員の現状について「“定額働かせ放題”とも言われる」と報道したところ、文科省が「一面的な報道」だと抗議し、物議を醸した。

「文科省は、教員のなり手不足に最も頭を悩ませている。打つ手がない中で、少しでもネガティブなイメージが広がらないように、苦肉の策として今回のような行動に出たのだと考えられます」

──教育現場はすでに崩壊していると、内田教授は警鐘を鳴らす。

「現場では人手が全く足りておらず、教員は本分である授業の準備に時間を割けないでいます。校長先生などは、教員の補充のため『どこかに来てくれる教員はいないか』と、片っ端から電話をかけている状況。採用試験の倍率はあらゆる地域で急低下しており、教員免許を取得する要件が緩和されるなど、今やなりふり構わず教員を採用せざるを得なくなっている。そのため、すでに教育の質は担保できなくなってきています。いま一度、国に問いかけたいのは、学校がこんな状態でいいのかということです。未来を担う人材を育てるという重要な役割を持つ教育分野に、しかるべき予算を回すべきです」=おわり

(聞き手=橋本悠太/日刊ゲンダイ)

▽内田良(うちだ・りょう)1976年、福井県生まれ。名古屋大学大学院教授。専門は教育社会学。学校リスク(事故や長時間労働など)の調査・研究、啓発活動を行っている。

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