政治家の核使用言及を危惧 長崎市が平和宣言原案 露とイスラエルを名指し

平和宣言の文案について意見を交わす起草委員ら=長崎市平野町、長崎原爆資料館

 長崎市は8日、鈴木史朗市長が長崎原爆の日(8月9日)の平和祈念式典で読み上げる平和宣言文の原案を、起草委員会に示した。核保有国ロシアと事実上保有するイスラエルを名指しし、「戦闘」を進める中で政治家が核兵器使用を示唆し続けていることを強く危惧する内容。複数の委員から、日本を含む世界的な軍拡競争への反対を盛り込むよう求める声もあった。
 前回の初会合では、イスラエルがイスラム組織ハマスとの戦闘で続けるパレスチナ自治区ガザへの攻撃が「非人道的」だとして、宣言文で言及するよう求める意見が相次いでいた。
 市の原案は冒頭で、被爆者が戦後の苦悩をつづった詩を引用し、生涯続く核被害のむごさを伝える。イスラエルや、ウクライナ侵攻を続けるロシアに加え、中国と北朝鮮の国名も挙げて核戦力の増強や核・ミサイル開発への懸念を表明。日本政府には核兵器禁止条約への参加や「被爆体験者」の早期救済を求め、若い世代が取り組む平和活動への期待も盛り込んだ。
 長崎原爆被災者協議会会長の田中重光委員ら複数の委員は、日本政府に対して憲法の平和理念の堅持と共に「軍事費や軍備の拡大」を止めるよう求める必要があると指摘。長崎大核兵器廃絶研究センター長の吉田文彦委員は、ロシアとイスラエルへの言及について「核兵器が使われなければいいのではなく、この戦闘そのものが残虐というニュアンスを加えた方がいい」と語った。
 被爆者の詩を引用することには多くの委員が賛同。このうち同センター准教授の中村桂子委員は「被爆の苦しみは8月9日だけでなく生涯続くが、世界の多くの人は知らない。病苦や貧困、社会的差別など多層的な苦しみがさらに表現されるべき」と提案した。
 終了後、鈴木市長は報道陣の取材に応じ、イスラエルを具体的に挙げた理由について「イスラエルの閣僚が核兵器の使用に言及し、危機感を持っている」ためと説明。一方、米国の連邦議員らがガザ情勢を巡り、日本への原爆投下を正当化する発言を繰り返したことについて、原案では触れていない。鈴木市長は「いかなる理由でも核兵器使用は許されず、正当化発言は断じて容認できない」としつつ、こうした批判を宣言に盛り込むかどうかは「全体のバランスを総合的に考える」と述べた。
 委員は被爆者や有識者ら15人。今回の意見を踏まえて7月6日の最終会合で修正案を示し、7月末にも骨子を公表する。

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