病気で足が不自由になった50歳愛妻家の会社員、受け取れたはずの「500万円」を貰い損ねた事実に愕然…「年金の時効」という落とし穴【FPが解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

不慮の事故によるケガや病気などによって障害状態になったときに支給される「障害年金」。実はこの制度、自分が申請しない限り受給することができません。本記事では、病気で足が不自由な生活を14年間続けていたものの、障害年金を受給できることを知らなかった55歳男性の話を例に、〈もしも〉のときに活用できる障害年金について南真理FPが解説します。

38歳のときに左足の膝に人工関節を入れ、不自由な生活に

会社員のAさん(50歳)は36歳のときに結婚しましたが、その後すぐに深刻な足の病気が発覚しました。約1年の闘病生活を経て職場復帰することができましたが、左足の膝に人工関節を入れたため、膝を曲げることができず足を引きずる生活を余儀なくされました。

当時、Aさんは手術やその後の治療・リハビリなどで数週間会社を休んだり遅刻・早退することになり、健保から傷病手当金は受け取ったものの、一時的に収入が減りました。手術や治療・リハビリは保険適用になる部分も多かったものの、Aさんは30代前半まで趣味にお金を費やしていたため貯金が多いとはいえず、費用の負担は決して小さなものではなかったといいます。

そんな辛い状況を乗り越えることができたのは、結婚当初から苦労を共にしてくれた2歳年下で最愛の妻Bさんがいてくれたからです。当時、精神的な支えになったのはもちろん、当時共働きだったBさんの収入と節約の努力が助けとなり、Aさんは心が折れることなく病気を克服することができたのでした。

そして手術から14年がたった今年、いよいよ50代に突入したタイミングで、Aさん夫婦は今後のライフプランをFP(ファイナンシャル・プランナー)に相談することにしました。Aさんの足の病気は再発の可能性があること、人工関節の定期的な入れ替え手術が必要であること、妻Bさんが最近専業主婦になったこともあり、老後への不安があったからです。

FPはAさんの足の状態を見るなり、「障害年金は受給されていますよね?」と聞きました。しかしAさんは、「障害年金ってなんですか…?」と戸惑いながら聞き返しました。

FPはAさん夫妻に、障害年金について説明しはじめました。

障害年金は現役世代も対象だが、自分が申請しないともらえない

障害年金は、ケガや病気によって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代も受け取れる公的年金の一つです。障害年金の対象は、手足の障害などの外部障害だけでなく、がんや糖尿病・心疾患・呼吸器疾患などの内部障害、統合失調症やうつ病などの精神障害も対象となります。

障害年金には「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。また、障害年金受給のポイントとなるのが「初診日」です。

初診日とは、障害の原因となったケガや病気について、初めて医師等の診療を受けた日をいいます。初診日に国民年金に加入していた方や生まれつきの障害がある方、20歳前だった方は「障害基礎年金」の対象となります。

一方、初診日に会社員や公務員などで厚生年金に加入していた方は「障害厚生年金」の対象となります。障害厚生年金のほうが障害基礎年金よりも保障が手厚くなっています。

障害年金の受給には、年金納付要件を満たしていること、初診日から1年6ヵ月を過ぎた日に定められた障害の程度(等級)に該当することが必要です。受給要件の詳細を理解し、要件を満たしているかどうかを自分自身で判断することは難しいでしょう。

とはいえ、障害年金という制度があることを知らなければ、請求手続きをすることもできません。まずは制度自体を知っていることが重要なのです。

手続きで障害年金の受給は決定したが、思わぬ落とし穴が

FPから話を聞いたAさんは、すぐに通っている病院や最寄りの年金事務所で詳細を確認し、障害年金の請求手続きを行いました。そして、審査の結果、障害厚生年金3級の受給が決まったのです。

障害年金は、障害の程度に応じて受給額が定められています。Aさんが認定された障害厚生年金3級は、日常生活にはほとんど支障はないが、労働については制限がある状態とされています。

そして、Aさんの受給額は、障害厚生年金3級の最低保障額である年額61万2,000円(月額5万1,000円)となりました。これは障害年金のことを知らずに請求手続きをしないままでは受け取れなかったお金です。また、この先も状態が変わらなければ、更新の手続きをすることで受け取り続けることができます。

一方で、Aさんが足の病気を患ったのは14年前です。本当であればこの14年間で800万円以上を受け取れていた計算です。ところが、受け取れたのは過去5年分の約300万円のみ。年金事務所の担当者はこう言ったのです。「5年を経過した分は時効があるので受給できません」と……。

時効がある年金はその存在を知ることから

障害年金の受給額決定後、改めてAさん夫婦はFPの元を訪れ、こう話しました。

「今回教えていただいたおかげで、障害年金を受け取れることになりました。知らなければもらえなかったお金なので、ありがたいです。でも年金って時効があるんですね。『年金は自分で請求しなければもらえない』と年金事務所の人にも言われたけれど、金額が金額だけに正直ショックが大きくて、しばらく引きずりそうです」と、率直な気持ちを聞かせてくれました。

制度の存在を知らなかったことで、本来受け取れるはずだった500万円以上を受け取ることができなかったのですから、Aさんの複雑な気持ちもうなずけます。手術をした当時から障害年金を受け取れていたら、お金の不安がなくなり、精神的にもっと楽だったことでしょう。

「通っている病院でこの制度のことを教えてくれていたら」とも思うかもしれません。親切に病院側から教えてくれるケースもあるかもしれませんが、基本的に自分から医師に障害年金受給の意思を伝え、手続きをしなくてはならないのが現状です。

その後、FPはAさん夫妻の将来への不安を解消すべく、手にした300万円の活用方法を提案しました。相談を終えたあと、Aさんはこう言いました。

「足は不自由になったし、障害年金のことを知らずに損した分についても、モヤモヤはあります。でも、病気から回復して生きていること、働くことができていること、そして、何よりいつもそばで支えてくれる妻がいること。本当に感謝しています。これからは、国の制度にもっと関心を持って、大切な家族との暮らしを守っていきます」。妻Bさんと微笑み合う姿はとても幸せそうでした。

社会保険制度は、私たちの暮らしを守ってくれるありがたい存在ではあるものの、なかにはあまり周知されていない制度もあります。障害年金もそのひとつでしょう。

制度を知らないことには活用することもできません。まずは、国の制度を知ることが、ご自身や家族を守ることに繋がります。〈もしも〉のときには、利用できる制度をしっかりと活用できるように、公的機関や専門家に相談するといった行動に移されることを願います。

南 真理
ファイナンシャル・プランナー

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