岩田剛典、『虎に翼』“法に生きた男”を演じ終えて 「武骨さも含めて、花岡は“武士”だった」

戦争が終わり、新章へと突入したNHK連続テレビ小説『虎に翼』。主人公・寅子(伊藤沙莉)が大切な人との別れを経験する中、また一人、寅子の運命を変えた人物・花岡悟がこの世を旅立った。花岡を演じたのは岩田剛典。“一握りの男”として、“法に生きる男”として、花岡の人生をどう演じきったのか。

「最終的に餓死で亡くなるんだ」ということを念頭に置きながら

――第50話で、花岡が衝撃の最期を迎えました。

岩田剛典(以下、岩田):多くは語らず、思いを馳せながら身を引く。花岡は武士だったんだなと思いました。婚約者を連れて再登場したときには、「あれだけ寅子に恋心を抱いているように見せておきながら、切り替えが早いな」ってみなさん思ったと思うんです。でも僕は、「花岡は相談せず勝手に決めるタイプなんだな」と思う一方で、「すごく男らしいな」と思うところもあって。決断した後には「人に何を言われようと男に二言はねぇ」みたいな武骨さも含めて、花岡は武士だったんだと思いました。

――花岡の最期については、オファーの段階でご存知だったのでしょうか?

岩田:花岡は食糧管理法に携わった裁判官の方がモチーフになっているので、オファーをいただいたときから決まっていました。法律を守って、配給された食事しか食べないという自分の信念を貫いて、餓死してしまう。今現在だと餓死なんて日本にはないですから、最初はなかなかリアリティに欠けるような印象を受けましたが、「最終的に餓死で亡くなるんだ」ということを念頭に置きながら、(初登場時の)「ごきげんよう」から始めていました。

――あらためて、花岡をどんな人物だと捉えて演じていましたか?

岩田:基本的には男尊女卑の時代で、花岡自身にも当時の時代背景を背負ったバックグラウンドがありました。母親が亡くなってしまったという生い立ちもあって、そういったところから女性に優しさを見せる一面もあるし、女性が夢を追いかける姿を純粋に応援したいという本心もある。ただ、学校内でのヒエラルキーの中では、カースト上位の生徒だったと思うんですよね。その中で自分の男としてのプライド、見栄を守りながら女性陣と付き合っていかなければならないので、女性陣からは「花岡は本心でそれを語っているのか」「実際にはどんな人なんだろう」と、ちょっとミステリアスに捉えられたいな、という思いで役と向き合っていました。

――ご自身との共通点は?

岩田:僕は大学が法学部だったんですよ。政治学科だったので法律を専門で学ぶ分野ではなかったんですが、こうして法を扱うドラマに出演できること、しかも朝ドラ初出演ということに、すごくご縁を感じました。

――同じ法学部ということで、懐かしさや馴染みを感じることもありましたか?

岩田:教室はセットですが、階段教室になっていて。大学の教室もあんな感じでしたから、懐かしいなっていう感覚はありました。その反面、やっぱり男尊女卑というバックグラウンドは現在とあまりにもかけ離れているので、そこは現代とのギャップを感じました。

――女性に人気な点も共通していると思いますが……。

岩田:なるほど(笑)。花岡は恋文をもらったりするような描写が多いですけど、僕は恋文をもらうなんてことはなかったんです。男子校だったし、そこに共感はなくて、どちらかというと「うらやましいヤツだな」と思いながら演じていました(笑)。

――どこか鼻につくところもあった花岡ですが、第19話で梅子(平岩紙)に本心を明かすシーンを経て、視聴者の花岡に対する見方が変わったように思います。

岩田:そうですね。もう「ここにこの役の全部が集約されているかな」と思うくらい、キャラクターを作るシーンだなと思いました。ある意味、そこまでのすべてのシーンが“ここへの前振り”と言ってもいいくらい。花岡が本当の思いを吐露するシーンだったので、すごく丁寧に向き合って演じました。花岡にとっても、僕にとっても、すごく重要な場面だなと思っていましたね。

――それまでの花岡とは違う面を見せるシーンでしたが、スッと気持ちを乗せられましたか?

岩田:バックグラウンドとして家庭の事情を語るようなセリフが出てきていたので、そこを自分の中で膨らませながら感情を入れていきました。実は本番で、梅子さんと話しながら、ト書きにないのに涙が出てしまって……。当時、男性が女性の前で涙を見せるというのは、学生とはいえ、ありえないことかもしれない。そうであれば、もう一度やりますと監督に相談に行ったんですが、その本番1回でOKとなりました。

――いち視聴者としては、戸塚純貴さん演じる轟との友情関係も素敵だなと感じました。

岩田:お互いに、思想は一緒だと思うんですよね。表情だったり、声色だったり、いろいろと表現の仕方は違うけど、基本的には女性が夢を追う姿に対して肯定的な2人だったと思います。花岡にとって轟は同志というか、同級生の中でもより近い存在ではありました。

――戸塚さんとはどんなお話を?

岩田:彼は最近、ゴルフを始めたらしくて。僕は万年、“ゴルフやるやる詐欺”をしてるんですけど(笑)、できるようになったら一緒に回りたいね、と話していました。ただ、この現場は毎回毎回、新しい現場に入る感覚になるくらいブツ切りで撮影していたんですよ。ずっと密に毎日毎日一緒にいて……という連ドラの感じではなかったので、共演者のみなさんともう少しコミュニケーションが取れたら、より楽しかったかもしれないですね。

座長・伊藤沙莉は作品を「包み込んでくれている」
――念願の朝ドラ出演とのことですが、実際に現場に参加してみていかがでしたか?

岩田:撮影前に毎週リハーサルがある、というのは他の局にないことなので、そこは大きな違いだなと思いました。あとは、セットで撮影するときにカメラの台数が多いですね。お芝居は、ほぼ本番一発でどんどん進んでいってしまうので、撮影が早い組だなと思いました。

――新鮮な感じ?

岩田:新鮮というか、助かるなっていう(笑)。リハのことは噂には聞いていましたけど、立ち稽古をする感じなんです。なので、舞台稽古をやってから当日を迎えて、そこから段取り、テスト、本番という流れで。普通の連ドラよりも1個工程が多いので、すごく丁寧に作られているんだなと思いました。

――最後に、座長である伊藤さんへエールをお願いします。

岩田:本当に立派な座長さんだと思いますし、沙莉ちゃんは心身ともに強いんです。度胸というか、「何なんだよ、この人!」というくらいにパワフルな女優さんなので(笑)、今回共演できてすごく嬉しかったですし、もちろんまた機会があれば別の作品でもご一緒できたら嬉しいなと思います。かつ仕事の魅力だけではなくて、彼女自身のフランクな性格だったりも、“作品の血”として通っている部分が大きいかなと思いますね。彼女がこの作品を作ってくれて、包み込んでくれている。すごく好きな作品でした。

――花岡として、寅子に自身の思いを引き継いでほしい、といった願いはありますか?

岩田:いや、武士なのでないですよ(笑)。それがきっと、花岡の美学なんだと僕は勝手に解釈しています。一緒に学生時代を過ごした思い出がありますから、残されたものの宿命というか、辛さは寅子も含めて同級生のみなさんにあったかなと思います。でも僕は、そこに何かを背負わせる、という思いで演技はしていなかったですね。

(文=石井達也)

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