『虎に翼』花岡に“特別な感情”を抱いていた轟 “男らしさ”にこだわっていた意味を想う

『虎に翼』(NHK総合)第51話では、判事として食糧管理法を担当していた花岡(岩田剛典)が違法である闇市の食べものを一切拒否し、栄養失調で亡くなったことが報じられた。その死は法曹界のみならず、世間にも大きな衝撃を与えた。

寅子(伊藤沙莉)は花岡との思い出が詰まったベンチに座る。左隣を向けば、いつも本心を柔らかく包む微笑みがそこにあった。

花岡は、どこまでも不器用な男だ。法曹界への進出を目指す女子生徒たちを尊敬する一方で、脅威に感じていたり。社会で活躍する寅子を愛しているけれど、自分に尽くしてくれる妻を必要としていたり。彼はいつも、「こうありたい」と願う理想の自分の姿に、現実の自分が追いつかずに苦しんでいる。だからこそ、人が持っている顔は1つじゃなく、どれも本当の自分だとする梅子(平岩紙)に救われたのだろう。

そんな梅子の「“本当の自分”があるなら、大切にしてね。そこに近づくよう頑張ってみなさいよ」という梅子の言葉を胸に、なりたい自分になろうと努力してきた。そして戦後、人としての正しさと、司法としての正しさが乖離していく中で、花岡は葛藤の末に後者を選んだ。

その真面目さをもどかしく感じながらも、慕っていたのが轟(戸塚純貴)だった。第51話では、轟が戦地から無事に帰還。花岡の死を知り、やけ酒を煽っていたところによね(土居志央梨)が声をかける。よねもまた、カフェーのマスター・増野(平山祐介)と空襲に遭い、彼女だけが生き残った。

花岡の選択に理解を示そうとする轟に、よねは「惚れてたんだろ、花岡に」と迫る。それに対して轟は「俺にも、よく分からない」としつつ、花岡とのこれまでを語り、声を上げて泣いた。轟の花岡への思いが、恋なのか、友情なのかは分からない。恋なのだとするならば、今までの彼の行動に納得がいく。やたら轟が“男らしさ”にこだわっていたのも、花岡に芽生えた感情に自分でも戸惑い、無理やり封じ込めようとした結果なのかもしれない。

だけど、それはこちらの勝手な想像だ。よねが言う通り、恋なのか、友情なのか、白黒つける必要はない。というより、きっと「よく分からない」という本人の言葉が答えであって、その感情をラベリングする権利なんて誰にもない。ただ、轟は花岡という一人の人間を大切に思っていたこと。それだけが事実だ。

太平洋戦争により多くの尊い命が失われ、花岡もまたその犠牲者となった。日本国憲法第14条を前にしたよねの「これは自分たちの手で手に入れたかったものだ。戦争なんかのおかげじゃなく」という言葉が胸に迫る。この台詞に、戦争を一切肯定しない制作側の意図が見て取れた。

よねは轟とタッグを組み、法律で人々を救う道を探る。彼らとすれ違う形で公園に現れた寅子はあのベンチで、泣きながらお弁当を食べた。思いっきり泣いて、思いっきり食べて。遺された者たちはそうやって生きていく。「それでいい」と笑う花岡の顔が見えた気がした。
(文=苫とり子)

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