御三家の屋敷、ゴルフ場を経て自然の宝庫に 生き物6千種、都心の森「皇居・吹上御苑」

自然観察会で皇居・吹上御苑を散策する参加者=5月4日

 皇居の北西側に広がる吹上御苑は、絶滅危惧種を含む約6千種の動植物が生息する自然の宝庫だ。

 約22万平方メートルの森は昭和天皇の意向で極力手を入れずに育まれてきた。

 天皇、皇后両陛下の住まいの御所がある重要エリアで、壁や柵に囲まれ、普段立ち入りは側近らに限られるが、毎年春に自然観察会が催され、都心に残る貴重な場所を散策できる。(共同通信=志津光宏)

 ▽過去にはゴルフ場

 宮内庁によると、吹上御苑一帯は江戸時代、尾張、紀伊、水戸の御三家や徳川家に近い武家の屋敷が並んでいた。1657年の明暦の大火で焼失し、その後は火よけ地として庭園が整備された。

 昭和天皇はゴルフ好きで、昭和天皇実録によると、1928年、吹上御苑にゴルフコースが完成し、知人や側近を呼んでコンペを開いた。

 だが、国内外の情勢が緊迫化する中、日中戦争の発端となった盧溝橋事件直前の1937年6月を最後に、ゴルフをやめたとされる。

 戦後は、吹上御苑を武蔵野のような自然のままの姿に戻すよう意向を示した。農薬は使わず、樹林の管理は最低限にとどめ、70年以上かけて多様性に富む環境が出来上がった。

 ▽分かち合う

 巨木が茂る林は、ヤツデやシイなどが自生する。イチョウにオオタカが巣を作り、水場では絶滅の恐れがあるベニイトトンボが確認されている。野鳥のほか、タヌキやモグラもいる。

 吹上御苑が国民に開かれるきっかけは、上皇ご夫妻の考えだった。「皇居の自然を国民と分かち合いたい」とし、2007年に初めて自然観察会が開催された。

 毎年春の恒例行事となり、ご夫妻がサプライズで顔を出し、参加者と懇談されたこともあった。

 今年は計約200人の定員に約5500人が応募した。宮内庁の担当者は「非日常の自然を感じられる良い機会。歴史ある皇居の森を歩いてみてほしい」と話している。

皇居・吹上御苑=2006年11月
皇居・吹上御苑で確認されたオオタカの巣(宮内庁提供)
皇居・吹上御苑の自然観察会のコースを歩かれる上皇ご夫妻=2007年4月(宮内庁提供)

© 一般社団法人共同通信社