【日本語の常識】目上の人にメニューを確認するときの言い回し、正しいのは→「どちらにいたしますか?」or「どちらになさいますか?」

(※写真はイメージです/PIXTA)

会社の上司と食事に行ってメニューの確認をする際、「どちらにいたしますか?」と「どちらになさいますか?」、あなたはどちらの言葉で伝えるでしょうか。同じことだろうと思うかもしれませんが、実は片方は適切な日本語ではありません。今回は、多くの人が日常的に迷いなく使っている日本語の間違いをご紹介します。ぜひこの機会にチェックしてみてください。

尊敬語は、原則「人」が対象

花に水をあげる…×

花に水をやる…〇

江戸時代、第五代将軍・綱吉は「生類(しょうるい)憐(あわれ)みの令」という多数のお触れを出したことでよく知られています。捨て子、病人、高齢者はもちろんなのですが、犬、猫、鳥、魚、貝や虫まで保護して、大事にしなさいというのです。

当時を題材にした時代劇には、よく「お犬様」という言葉が出てきます。「犬」に尊敬丁寧を表す「お」や「様」を付けるなんて、馬鹿げたことだと当時の人は思っていたようです。

そういう点から言えば「花に水をあげる」「犬に餌をあげる」という言い方は間違いです。「あげる」は、「与える」「やる」の謙譲語で、本来は目上の人に使う敬語だからです。花や犬に自分がへりくだるというのは何だかおかしいことですね。

自然界に、「対等」に存在する人、花、犬、猫という観点からすれば「上下」の関係はありません。そうであれば、「花に水をやる」「犬に餌をやる」でいいのではないでしょうか。

しかし、目上の人に「おみやげをあげる」と言うのは間違った言い方です。こんなときには「おみやげを差し上げる」と言わなければなりません。

結婚式などのスピーチで、つい誤用してしまう日本語

僭越ですが…×

僭越ではございますが…〇

「僭越(せんえつ)ではございますが」は、ビジネスシーン、あるいはさまざまな挨拶のシーンで使われる言葉なので、使えるようにしておくと便利ですし、大人としての格調の高さを演出することができます。

さて、「僭越」は、漢文訓読式に読むと「僭(おか)し、越えて」となります。また「僭」は、「身分を越えて、上の人の真似をする」「身分不相応に驕(おご)り高ぶる」という意味の漢字です。それに「越」という漢字がつく「僭越」とは、「自分の身分を考えずに、身分以上の真似や振る舞いをすること」という意味になるのです。

部長の言葉に間違いがあることに気がついて、「誠に僭越ではございますが」と前置きをして、自分の言葉を差し挟む。あるいは、結婚式などで挨拶をするときには、きっと会場には偉い方もいらっしゃるでしょうから「僭越ながら、ご挨拶をさせていただきます」などと使います。

そこで、少し注意が必要です。「僭越」は自分からへりくだって使う言葉なので、「僭越ですが」と略した言い回しではなく、「僭越ではございますが」と言うようにしましょう。あるいは、「僭越ながら」という使い方をすることもできます。

会食で目上の人のメニューを確認するとき

どちらにいたしますか?…×

どちらになさいますか?…〇

たとえば、会社の上司と食事に行ってメニュー表を渡しながら、「どれを選びますか?」と上司に聞く場合、なんと言うのがいいのでしょうか? 友だち同士であれば「どれにする?」と言うところでしょうが、上司に対しては、そのように言うわけにはいきません。

こんなときに「どちらにいたしますか?」という人がいます。しかし、この言い方は誤りです。「いたす」は、「する」の謙譲語です。つまり、自分がへりくだって言うときに使う言葉です。なので、「私はこちらにいたします」「こちらを選ぶことにいたします」など、自分の行為に対して使うのが適切です。

そのため、上司に「どれにする?」という意味で、質問をしたいときには、「どちらになさいますか?」と聞くのがいいでしょう。「なさる」は、「する」の尊敬語です。さらに、「どれをお選びになりますか?」というのがもっとも丁寧な言い方でしょう。

山口 謠司
大東文化大学文学部中国文学科教授

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