亡き夫の夢「農家民宿」開業、飯舘の渡辺さん「喜んでいるかな」

「お父さんも喜んでくれているかな」と看板の前で笑顔を見せる渡辺さん(左)

 亡き夫との約束がまもなく実を結ぶ―。東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故で全村避難を経験した飯舘村に農家民宿「古今呂(こころ)の宿 福とみ」が11日オープンする。代表の渡辺とみ子さん(70)は「夫も喜んでくれているかな」と思いをはせ、第1号の宿泊者を待ち受けている。

 農家民宿の開業は夫の福男さんとの夢だった。とみ子さんは約30年前から村特産のカボチャ「いいたて雪っ娘」の生産、加工業の第一人者として活躍。大工だった福男さんといつしか「心安らぐ田舎の母ちゃんのような味と村の自然豊かなひとときを提供したい」と民宿を開く夢を抱いた。

 「いつも一緒なんですね」と周りが口をそろえ、おしどり夫婦だった2人。だが福男さんは2018年12月、約4年間の闘病生活の末、とみ子さんを残して先立った。それでもとみ子さんは「いつも応援してくれていたのは夫。何度も励ましてくれていたからここまで来られた」と涙をこぼす。福男さんは闘病中、とみ子さんの雪っ娘にかける情熱や不断の努力を自分ごとのように看護師らに誇らしく話していたという。

 今年1月末、ようやく自宅兼民宿のリフォームを終えた。客室は5人部屋と2人部屋の2室。内装は「ぬくもりを感じられる」と福男さんが好きだった板張りに。玄関の看板は「お父さん喜ぶかな」と福男さんが使っていた木材の余りを用いた。店名は夫婦の名前を半分ずつ使って「福とみ」。どこまでも「旦那愛」にあふれている。

 料金は1泊2食付きで7700円から。雪っ娘を使った季節に応じた郷土料理やカボチャ畑での農作業体験を楽しめる。渡辺さんは「オープンを迎えてほっとしている。村に来てもらってもっと飯舘のファンを増やしたい」と意気込む。予約は専用サイトから。問い合わせは渡辺さん(メールアドレスmadei.koubou@gmail.com)へ。

© 福島民友新聞株式会社