須藤寿インタビュー「須藤寿 GATALI ACOUSTIC SETってヴァン・ヘイレンみたいなもの」

すべての写真(19)を見る

Text:高橋智樹 Photo:吉田圭子

須藤寿 GATALI ACOUSTIC SETは実に不思議な音楽共同体だ。髭のキーパーソン・須藤寿が2012年に活動をスタートさせたソロプロジェクトではありながら、アルバムを重ねるごとに須藤以外のメンバーの役割が増えていて、それでいてGATALIの音楽世界における須藤の解放度と存在感は高まる一方だ。むしろ、長岡亮介(g/ペトロールズ)、ケイタイモ(b/WUJA BIN BIN)ら百戦錬磨のメンバーが織り成す珠玉のユートピア感こそ、「須藤寿の描きたかった音楽世界」なのだろう――ということを、GATALIにとって3作目のアルバムとなる『離島東京』の楽曲群はリアルに物語っている。卓越した洒脱なプレイが織り成す、サイケデリックな白昼夢感。グルーヴの先に広がる、高揚と開放の地平……。そのすべてが、GATALI唯一無二のバランスで成立しているのである。

前作『For Example, Utopia』から6年半ぶりのアルバムではあるが、実は『離島東京』のレコーディング自体は2019年に行われていたという。GATALIの新作アルバムを2024年にリリースすると決めた経緯について、髭とGATALIの位置関係について、そして7月に神戸・岡山・東京にて開催される『離島東京Tour』について、須藤にじっくり語ってもらった。

――GATALIの新しい作品が聴けるとなると「ああ、本当に日常が戻ってきたんだな」って思いますね。

そうですね(笑)。

――今作に収録されている曲は、2019年にレコーディングが終わっていたそうですね。「アンブレラズ」とか「あうん」「Exit Club」とか、曲によってはそれこそ2019年のライブでも披露されていますし。

そうなんですよ。曲はずっとあったんですよね。2020年から2022年ぐらいまでは、GATALIはほとんど動いてなかったんですけど、「無理してやるものでもないか」みたいな感じだったので。

――世に出すタイミングだけの問題だった?

そうですね。2020年の頃は、「この雰囲気の中でGATALIやる感じじゃないんだよね」と思って。あまり焦ることもないかと思って、寝かせといたっていう感じなんですけど。そろそろ「みんなで会ってライブしようよ」っていう雰囲気になってきたんで、「じゃあ、あれ出そうか」みたいな感じですね。

――コロナ禍の状況って、今にして思うと、僕らにとっても悪夢のような現実だったんですけど、ミュージシャンにとってはよりいっそう悪夢だったなと思っていて。何が悪夢かって、ミュージシャンが音楽をやることに意義と理由を求められるんですよね。「この大変な中で、あなたが音楽をやる理由って何ですか?」みたいな。「いや、やりたいからやってるんですけど」が通用しないというか。

うんうん。そうなんですよね。

――そんな状況の中で、音楽をメッセージのプロパガンダでも研究レポートでもなく「音楽そのもの」としてやっていて、「音楽をやる理由」みたいなものを求められると困るだろうな、というミュージシャンとして、僕の中で真っ先に顔が浮かんだのが須藤くんだったんです。

いや、まさにその通りで(笑)。僕は超ノンポリなので。そういうところで、自分の意志表明を語るのも得意じゃないし、好きでもないし。GATALIのみんなも似たような雰囲気を持っていて、そういう中でも「GATALIなりにやれることをやろうよ」ってメンバーの誰かが言えば、たぶん何かしらの形でやったんでしょうけど、誰も何も言わなかったので(笑)。まさにレコーディングし終わって、ミックスをしているぐらいの2019年の終わりぐらいから、世の中の雰囲気が怪しくなってきて。で、エンジニアさん含めて「一回忘れましょう」っていう感じだったんですよね。だから、レコーディングの後のミックスダウンみたいな作業は、1〜2年ぐらいだらだらやってました。別に、一生懸命やってるわけでもなく。「あれ? そういえばあの曲、誰からも何の連絡も来ないな」と思って。「本当に忘れるのはさすがに違うな」って(笑)。

――それで昨年、髭の20周年アニバーサリーイヤーがあって。アルバムも出して、過去メンバー勢揃いのライブもやり、ツアーもやって、20周年をきっちり祝い終えたタイミングで、GATALIのアルバムが出てくるというのは、とても腑に落ちる展開ですね。

そうですね。確かに、髭の20周年が終わった時に、「あ、GATALIのタイミングだな」って自然に思えたんですよね。髭の中では「髭の21年目はどうしよう?」っていう話もあるんですけど、対外的には髭はしっかりやったから、自分としては「GATALIがあるよね」っていう気持ちはありましたね。

――さっき「ノンポリ」っていう言葉がありましたけど、須藤くんの場合は「結果的になんとなくノンポリ」なわけではなくて、「メッセージとして意味を持ちそうなもの」「カッコよく見えそうなもの」を意識的に避けるという形で意識的に作り上げたノンポリですからね。

そうなんですよね。そういう性分なんでしょうね。でも、SNSとかを見てて、しっかりとした意志を持って発言しているタイプのアーティストを見て「お、カッコいいな」と思うんですよ。「そういうふうにうまく表現できるんならいいね」って。そういう人を見て、羨ましいなと思う側面もあるんですけど……自分は違うなというか。それは歌詞とか曲にも出てきちゃってる気がするんですけど。小学生の時、友達と喧嘩しちゃった時に、まったく関係なかった別の子が、ふと自分の心のオアシスになることがあるみたいな感じですよね(笑)。すごく遠い友達で、たまに帰るのが一緒になる程度の子が、話してるとなんかすごく気がラクになって、心の拠り所になることがあるじゃないですか。そんな人間であれたらいいのかな、っていう気がするんですよね。疲れちゃった時に、「こういうのもいるよ」って。はっきり物事を主張するのも、とても大事なことだと思うんですけど、まったく逆のこともとても大事なことのような気がするんですよ。「何も言わない」っていうのも、同じぐらい主張があるような気がしていて。ある時から、そっちの方が自分の性に合ってるなと思うようになって。もちろん、人間だから、何かを強く思うことはあって、たまに「これSNSで言っちゃおうかな?」とか「言っちゃって明日後悔しないかな?」とか思うんですけど(笑)。僕はどちらかと言うと、言わずにそっとしておいて、時間が経ってから「あ、こいつ実は主張してたな」っていう、ふんわりとしたニュアンスを持ちたいとは思ってます。それはズルさとも違うような気がして。

――意味や主張、メッセージを発信するための音楽も、それはそれでいい作品もたくさんあるけど、須藤くんは髭でもGATALIでも「無意味の意味」的な音楽を追求してきたわけで。意味に囚われると、意味が音楽の主役になってしまう。そうじゃない音楽とは?というのを考えた結果の無意味なわけで――なかなか説明が難しいんですけどね。

そうなんですよね。でもなんか、まさにそういう感じだと思いますね。

――だから今、須藤くんが「GATALIをやるタイミングだと思った」というのは、今の時代感を見ても納得がいくんですよね。

うんうん、そうですよね。なんか、何も終わっちゃいないと言えば終わっちゃいないんでしょうけど、明らかに一旦終わった感じがしますよね、僕としても。だから、GATALIの動き時というか、みんながフラットに、いい雰囲気になってきたんじゃないかなと思いますね。

――ということで、結果的に6年半ぶりの新作になった『離島東京』ですが。「離島」という曲もありますが、このキーワードはどういうところから?

これもフィーリングかなあ? 『離島』の歌詞を書き終わった時に――これはケイタくん(ケイタイモ)の曲で、僕が『離島』の歌詞を書いて。非常に夏らしい、気軽な曲ができていいね、と思ってて。言葉の響きとかが気に入ったんですよね。『じゃあ、これを軸とした雰囲気のアルバムタイトルにしようかな』って」

――「離島」っていうと悲しげなイメージですけど、すごく朗らかでハッピーな曲ですよね。

そうですね。ケイタくんならではの感じで。今回のアルバムはアイゴンさん(會田茂一)も作曲に参加してくれてるんですけど、「ひとり2曲ずつ持ち寄ってやろうか」みたいな感じだったんですよね。「離島」と「Exit Club」がケイタくんで、「オノマトペ」が亮介(長岡亮介)で、「(My Name is)CAMPFIRE 」と「ことづけ」がアイゴンさんで、「あうん」と「アンブレラズ」が俺っていう感じで。そんな感じの曲集を作ろうか、っていう感じだったんですよね。なので、アルバムっていうよりは、自分としてはコンセプトミニアルバムみたいな――ミニアルバムっていうと語弊があるのかな? そういうコンセプトだったんですよね。「みんな曲書けるから持ち寄ってみようよ」っていう感じだったんですよね。

――なんか、どんどん不思議なプロジェクトになってきましたよね。須藤寿という名前を冠に掲げてはいるんですけど、もう普通にバンドだし。

ほんと、バンドになってきたというか。彼らとは実はもう10年ぐらい一緒にいるんですよね。付かず離れずですけど、すごくいい距離感でやってますね。

――バンドをやってた人がソロ活動をするとなると、「自分の楽曲世界をより濃密に展開して云々」みたいなことを考えたりするじゃないですか。もちろん、GATALIも歌詞は須藤くんが書いてるんですけど、楽曲はメンバーが持ち寄ったりしているわけで。

さらに面白いのは、曲を書いてきた人が、その曲のプロデューサーなんですよ。だから、曲を書いた人が完全にイニシアチブを握るっていう感じなんですよね。アイゴンさんは曲だけ渡してくれて「GATALIのみんなに任せるよ」っていうことだったので、メンバー5人でわりと平等に作ったんですけど、あとの曲はみんなプロデューサーみたいなものなんですよね。それぞれ自分のメインのバンドを持ってたりするメンバーばかりで、自分で仕切ろうとすれば仕切れる人が集まっているので。今回はそういうところを楽しみましたね。どんなふうに脚色してくれるのかな?って。髭だったら、9割5分ぐらい自分がメインのソングライティングになっちゃうので。その一方で、GATALIは「自分のイメージ世界を具現化する」というよりは、GATALIのメンバーに会って、「須藤はこういうところの声がいいからさ」みたいな感じでディレクション、プロデュースしてもらう感じがすごく新鮮で。そういう試みはありましたね。完全に他のメンバーの俎板の上に乗っかる、みたいな。そういうのが楽しかったです。

――今の話を聞いてても、普通の人が考える「ソロ」と「バンド」の位置関係が逆なんですよね。大抵の場合、バンドでは他のメンバーと拮抗しながら自分の世界観を展開して、ソロでは自分の思う世界観を構築する、みたいな形になるんですけど。須藤くんの場合、「自分の思う世界観」を展開すると、こうやって自分以外がよりフィーチャーされた形態になるんですよ。

そうそう。こっちの方が何も考えてないというか(笑)。智樹さんのおっしゃった通り、須藤寿 GATALI ACOUSTIC SETってヴァン・ヘイレンみたいなもので、「須藤寿」っていう名前が冠されちゃっただけで、この5人のバンドになっちゃってるので。もう「須藤寿」って取っちゃってもいいのにな?と思うんですよね(笑)。「髭ではできない、これが須藤寿の120%の世界観です!」っていうものでは全然なくて、むしろもう僕の部分は10%か20%ぐらいしかなくて。だから、「彼らが見た僕」っていうものを、僕は見てみたくて。そういう場にはなってきてますよね、GATALIは。お客さんも本当にリラックスしてるし、みんなで笑ってますよね。

――逆に言うと、百戦錬磨の強者たちが集まって、ひとつのユートピアを作るっていうのが、須藤寿のソロの形なんだろうなっていう。だから、自分がイニシアチブを握って「俺の言うことを聞け」っていうのは違うっていうことなんだろうと思うんですよね。

うんうん。GATALIはまさにそういう感じですね。だって、スタジオのリハーサルの時も、ライブのリハーサルの時も、音を出し始めたら、意外と自分が一番発言してないかもしれない(笑)。それが結構楽しいんですよね。余裕が欲しいっていうか。それがGATALIの、僕らの中でのスペースになってる気がしますね。

――1枚のアルバムの中でも、「離島」から「オノマトペ」に移る瞬間、ガラッと色彩が変わりますよね。

ね? 全然色が変わりますよね。あと、GATALIのみんなでやると、結構「曲が濡れる」んですよね。「離島」はカラッとしてるけど、意外とあとはジトッとしてるというか(笑)。そういうものなんだなって。

――今の音楽って、サイケデリックっていう空気感が成立しづらいと思うんですけど。このアルバムは音楽だけの力で成立している、2024年なりのサイケデリック、解放の音楽だと思いますね。

ライブへ来てくれるみなさんは、もちろんチケットを買ってきてくれると思うんですけど、この『離島東京』もライブチケットだと思って――ぐらいの気分で聴いてもらえたらいいと思うんですよね。次に7月でみんなで会うための、ひとつのライブチケットだと思って、気軽な感じで聴いてもらって。僕たちが集まってる雰囲気とか、生の演奏を聴いて、純粋にリラックスしてもらえればって思うんですよね。

――7月には『離島東京』のリリースツアーも開催されます。ツアー3公演の会場が神戸・岡山・東京というのも不思議ですよね。3公演だったら、東名阪を回るのが常識みたいになってますけど――。

GATALIって謎の動き方をしてるんですよね。2022年からフェスにも呼ばれ始めて――その年は呼ばれたフェスしか出なかったんですけど、その2本とも会場が岡山で。なんか妙に岡山に縁があるんですよね。岡山出身のメンバーは誰もいないんですけど(笑)。本当は名古屋あたりもやりたかったんですけど、メンバーのスケジュールが合わせられなくて。メンバーみんないろんな活動をしてるので。スケジュールが合ったところでみんなでやろうよ、みたいな感じですね。

――岡山の会場はお寺ですからね。

そうなんですよ。ライブハウスとか、いつもやってるところは、もちろん自分たちの中でも知ってるんだけど、「どっか面白いところ知らないかな?」って訊いてみたら、みんな百戦錬磨で、いろんなところでやってるから。大地(伊藤大地))とケイタくんが「岡山の蔭凉寺って知ってる?」って言ってくれて。「何それ、お寺? やってみようよ」っていう話になって。

――蔭凉寺は、住職の方が独学で音響を学んで、ライブ会場として提供しているらしいですね。

そうらしいですね。いろいろ話を聞くと、お寺にしては、こちらが持ち込まなくてもいいような、ある程度のシステムができてるっていうね。普通は、PA機材とか持ち込みになっちゃうじゃないですか。そこにコストがかかっちゃったりするんだけど、ここはそういうものが揃ってるらしいので。ライブをやるのもすごく楽しみにしてるんですよね。今はなんか、『離島東京』のツアーだって言ってるのに――ここに入ってるのは2020年より前の楽曲たちなんで、リハーサルとかやってたら盛り上がっちゃって。この前、GATALIの新曲書いたんだよね。謎のやる気をみせてて(笑)。

――すごいですね(笑)。

今年の初めに「今年はGATALIでこういう動きをするから」っていうことで、ファンファーレ的に1月にライブを渋谷duoでやったんですよ。その時に、やっぱり楽しいなと思って。この気分で、GATALIの新曲を書きたくなっちゃって、そこから1週間以内ぐらいで書いたんですよね。「7月にライブやるんだから、新曲とかもないとね」みたいなことを言ってるんだけど、そもそもこのアルバムの曲が「新曲」なんですよ(笑)。もう、ちょっと未来を見すぎているぐらいの感じがあるので。『離島東京』プラス、2024年の僕たちも見せられたらいいな、っていう感じですね。

ぴあアプリ限定!

アプリで応募プレゼント

★サイン入り色紙を3名様にプレゼント

【応募方法】

1. 「ぴあアプリ」をダウンロードする。

こちらからもダウンロードできます

2. 「ぴあアプリ」をインストールしたら早速応募!

<リリース情報>
3rdアルバム『離島東京』

2024年6月12日(水) リリース
価格:2,300円(税込)

【収録曲】
01. 離島
02. オノマトペ
03. (My Name is) CAMPFIRE
04. Exit Club
05. あうん
06. ことづけ
07. アンブレラズ

※配信あり

<ライブ情報>
『離島東京 Tour』

2024年7月24日(水) 18:15開場、19:00開演
会場:神戸 クラブ月世界

2024年7月25日(木) 18:15開場、19:00開演
会場:岡山 蔭凉寺(いんりょうじ)

2024年7月31日(水)18:15開場、19:00開演
会場:渋谷 duo MUSIC EXCHANGE

出演:須藤寿 GATALI ACOUSTIC SET
▼メンバー
須藤寿(GATALI / 髭)
長岡亮介(g. / ペトロールズ)
伊藤大地(ds. / グッドラックヘイワ)
ケイタイモ(b / WUJA BIN BIN)
中込陽大(Key.)

【チケット情報】
席種:全自由
前売:5,000円(ドリンク代別)

6月15日(土)10:00より一般発売開始
対象公演:7月24日(水) 神戸公演&7月31日(水) 渋谷公演
申込URL:
https://w.pia.jp/t/sutohisashi-gatali-acoustic/

※7月25日(木) 岡山公演の受付については公式サイトにてご確認ください

公式サイト:
https://www.higerock.com/

すべての写真(19)を見る

© ぴあ株式会社