瀬戸康史×宮世琉弥の繊細な“切なさ”の対比 『くる恋』究極の選択に心を引き裂かれる

記憶をなくす前に好きだった人と今好きだった人が違ったとしたら、それは心が引き裂かれるような苦しみではないだろうか。過去の自分と今の自分、どちらの感情も嘘ではないからこそ、選択は困難を極めるはずだ。ドラマ『くるり~誰が私と恋をした?~』第10話(TBS系)は、そんな究極の選択を前にしたまこと(生見愛瑠)の葛藤を丁寧に描き出していた。

記憶が蘇るにつれ、公太郎(瀬戸康史)が自分の元カレではないという事実が明らかになっていったのだ。「私たちって前にどれくらい付き合ってたっけ?」という質問に、公太郎ははぐらかすばかり。

去年のクリスマスまでの記憶が全て蘇り、まことは律(宮世琉弥)と付き合っていたことを思い出す。大学時代のインカレで出会っていた二人だったが、まことが記憶を取り戻した今は絶妙なすれ違いが続いているようにも見える。そんな中、律は「おんぶをされた借りがあるから」と朝日(神尾楓珠)を食事に誘っていた。その場で、朝日は偶然にも律の会社が買収の危機に瀕していることを知ってしまう。

まことは、去年までの記憶が戻ったことを朝日や香絵(丸山礼)に打ち明けた。朝日の「記憶のこと、俺は言わないよ。誰にも」という優しい言葉に、観ているこちらも安堵の気持ちを覚える。彼の優しさと思いやりには、毎話のことながら“いい人”すぎて心が温かくなる。

井口夫婦との出会いにより忘れられる側の辛さを知ったまことは、律がどんな気持ちで初対面のフリをしていたのかと考え、罪悪感が募っていく。愛する人に忘れられてしまうという痛みを、今まことは身をもって体験していた。そんなとき、公太郎から衝撃の告白が。「まこと、俺ずっと嘘ついてたんだ」と元カレではないと打ち明けられたのだ。

実は、2人は「花屋と花を買わないお客さん」だったのだ。誰かにつけられていることを不安がって花屋に駆け込んできたまことを、雨の中一人で返してしまった罪悪感を公太郎は持っていた。元カレなら彼女を一番近くで助けられると思ったのだと話す公太郎だが、まさか友達ですらない関係だったのは衝撃だった。しかし今は、切っても切り離せない感情で“面倒なこと”になってしまった2人の関係。嘘から始まった恋の行方は、果たしてどんな結末を迎えるのだろうか。

買収される会社名の話題をきっかけに、記憶を思い出したことを共有した律とまこと。律は、まことの記憶が戻らないことを知って、もう一度出会いから始めて、まことに好きになってもらおうと決意したのだと告白する。「ずっと待ってた、やっと会えた。まことさんに」と涙ながらに語る律の言葉に、まことの胸は熱くなる。公太郎には抱きつき返さなかったまことだが、対照的に律を抱きしめていた。そんな2人の様子を、公太郎が遠くから見つめている。まことの幸せを願う彼の笑顔には、寂しさが滲んでいた。

公太郎の下に、朝日がやってくる。自分が嘘をついたことを朝日にも打ち明けた公太郎。「朝日くんは、どんな形でもまことのそばにいてやって」という彼の言葉には、まことへの深い愛情が込められていた。公太郎の想いの強さに胸を打たれずにはいられない。

まことは律に指輪を渡そうとしていた。「律さんに送ろうとしてたんだね」と尋ねるまことに、律はペアリングにしてから送って欲しいと伝える。難しいリングだが、ペアにするまでずっと待つと言ってくれる律の優しさが今は少し辛い。

しかし、今のまことの心が、律に対して本当の意味では響かないことを勘づいていたのは視聴者だけではなかったようだ。まことにキスをして、今のまことが自分のことを見ていないと悟ってしまったような顔をした律。哀しさをまとった宮世の最後の「おやすみ」の表情に惹きつけられる。公太郎を演じた瀬戸とはまた違う表情で律の苦しさを表現した宮世だが、今回はこの2人の役者の繊細な“切なさ”の対比が印象に残る回となったのではないだろうか。一方で、次週に繋がるであろう、石階段を見下ろす朝日の意味深な表情にも謎は深まるばかりだ。

記憶をなくす前に好きだった人と今好きな人。どちらも自分の大切な人であるからこそ、究極の選択は心を引き裂かれるほど難しい。それでもまことは自分の想いと向き合い、決断を下すのだろう。まことの心の奥底に眠る答えは、果たして誰の隣にあるのだろうか。

(文=すなくじら)

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