名門・トーレンスが帰ってきた!新CEOのもと、“ゼロベース”で銘機の復刻を実現

老舗ブランド、THORENS(トーレンス)がいま再び日本上陸を果たした。ここ近年のトーレンスの製品には往年の姿を知るファンにとっては満足のいくものではなかったはず。だが、そんな危機的状況下で救世主が現れた。2018年からトーレンスのオーナー兼CEOになったグンター・キュルテン氏である。

右がトーレンスのオーナー兼CEOのGunter Kürten (グンター・キュルテン)氏。2018年の就任直前はELAC ElectroacusticのCEOとしてMiracord 90ターンテーブルの復活を担当した

トーレンスをこよなく愛する同氏は自らの経験と有能なブレーンを携えて、トーレンスの製品をプレーヤーからトーンアームまで再度ゼロベースから設計、製造。古くて新しいトーレンスの復権を完全プロデュースした。

日本では、この春より(株)PDNが取り扱いを開始。まずはサブシャーシ構造のベルトドライブ式「TD1500」を皮切りに、ナイフエッジ式アームを搭載した「TD1600」、そしてあの124も「TD124DD」として発売を予定している。ここでは、小原由夫氏がグンター・キュルテン氏と対面、復活までのいきさつをグンター氏に語っていただいた。

日本で最初に発売を予定しているフローティング構造のベルトドライブ式プレーヤー「TD1500」。本体リア部にはバランス出力も備えており、新開発のユニバーサル型トーンアーム「TP150」とオルトフォンのMMカートリッジ「2M Bronze」を標準装備する

求められたのは銘機の復刻と名門のリバイバル

かつてトーレンスのレコードプレーヤー群には、マニア垂涎のモデルが多数ラインナップされていた。しかしそうした隆盛が数年前に一時途絶えていたといってよい。安価でチープなモデルばかりが並べられ、以前の栄光は見る影もなかったのである。そのことを憂いていたのは、グンター・キュルテン氏も同じであった。

1883年創業の同社がターンテーブル事業を展開したのは1940年代で、以降、ReferenceやPrestigeといった超弩級ターンテーブルを始め、フローティングサスペンション方式プレーヤーの銘機をいくつも輩出してきた。グンター氏は知っていた。トーレンスを知る往年のファンがトーレンスに何を期待しているのか。それは銘機の復刻であり、名門のリバイバルだったのだ。

ドイツのオーディオメーカー・エラックのCEOを務めていたグンター氏は、2018年にトーレンスのオーナー兼CEOに新たに就任。前オーナーからトーレンスの全ての権利と資産を買い取り、名門の再生を図ったのである。

オリジンを今に蘇らせるプレーヤーを新たに設計

最初に着手したのは、トーレンスのアイデンティティを引き継いでくれる生産パートナーを探すこと。かねてより親交のあったドイツ人技術者2人を従えて台湾のメーカーに行着き、グンター氏の考えるトーレンスのオリジンを今に蘇らせる方式/機構のプレーヤーを新たに設計・開発。10機種あまりのラインナップを擁したロードマップを完成させた。

私が今回グンター氏と直接会って伺った内容は、たいへん興味深いものであった。往時のデザインを踏襲した新設計のユニバーサル型トーンアームを全面的に採用すると共に、ベルトドライブ方式のみならず、独自の12極ACモーターを搭載したダイレクトドライブ方式ターンテーブルも開発。

全盛期の同社製品を彷彿させるフローティング方式プレーヤーに、フルオート式プレーヤーもラインナップ。あらゆるアナログファンのニーズに応える製品群を整えてきたのである。

伝統のサブシャーシ構造やトーンアームも新規で開発

新たな船出を迎えたトーレンスのターンテーブルは、日本市場に順次投入される予定で、今回その主だったモデルを聴く機会を得たので紹介したい。

「TD1500」は、バネ3点で懸架されるフローティング方式ベルトドライブ型プレーヤー。ターンテーブルとトーンアームをモーターとフレームから切り離すサブシャーシを備えている。他社も含め、これは今日一般的な構造ではあるのだが、1966年にこうした吊り下げ式の仕組みを実用化したのは、実はトーレンスが世界初(TD150)。

サブシャーシにはサンドイッチ構造のアルコボンドを採用。プラッターは22mm厚のアルミダイキャスト製で、本機用に設計された「TP150」トーンアームには、カートリッジとしてオルトフォン「2M Bronze」があらかじめセットアップされている。

「TD1600」「TD1601」もサブシャーシ構造のベルトドライブ型だが、トーンアームにオートシャットオフ/電動リフター機能を備えたナイフエッジ型ベアリングの「TP160」を搭載しているのが特徴だ(TD1601)。アンチスケーティング機構はスプリング式を内蔵する。また、軸受けとトーンアーム間の均衡と共振分散を図るためのアルミ/MDF複合のサブシャーシに工夫が施されている点も見逃せない。電源ユニットは別筐体となる。

「TD1500」に続き、ナイフエッジ式アームを標準装備した「TD1600」と、ここにさらにオートリフター機能を搭載した「TD1601」も秋頃の発売を予定

おそらくTP160トーンアームのガタのなさが寄与しているであろうTD1600のサウンドは、俊敏にして高精細。克明な音像定位と立体的なステレオイメージがリアルに提示された。

外観はヴィンテージでもサウンドは現代最先端

ダイレクトドライブ方式メカニズムを搭載した「TD124DD」は、往時のプロ用ターンテーブルの意匠を踏襲しながら、DELRINベアリングを擁した12極モーターを搭載。プラッターはアルミニウム製で、組み合わされるトーンアームTP124も新規設計。ルビー製ベアリングを備えたアンチスケーティング機構をアーム本体に格納しているのも特徴だ。

そして第3弾は「TD124DD」の発売へと続く。デザインと基本構造はオリジナルを踏襲しつつ新開発のダイレクトドライブモーターを採用。完全新開発のダイナミック・バランス型トーンアーム「TP124」も搭載される

その重心の低いどっしりとしたエネルギーバランスとリッチな情報量は、見てくれはヴィンテージでも、サウンドは現代最先端をいく堂々たるソノリティであった。

一通りの取材を終えた私の率直な感想は、「名門が遂に帰ってきた」というもの。トーレンスに対するグンター氏の熱い思いにも触れることができ、世界的なレコード復権のフィナーレに巡ってきた老舗復活を素直に喜びたい。


本記事は『季刊・Audio Accessory vol.193』からの転載です

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