WECARSの主役は企業再生ファンド 再建した暁に伊藤忠に引き渡す(有森隆)

再スタートとなったが…(C)日刊ゲンダイ

【企業深層研究】WECARS(上)

伊藤忠商事と子会社でガソリンスタンド事業などの伊藤忠エネクス、企業再生ファンドのジェイ・ウィル・パートナーズ(JWP)の3社は5月1日、保険金不正請求事件で経営危機に陥った中古車販売大手ビッグモーター(BM=東京・多摩市、未上場)を買収し、主要事業を承継する新会社WECARS(ウィーカーズ)を立ち上げた。

新会社が、BMの主要事業を引き継ぐ会社分割方式(新設分割)を採用。全国250店舗や4200人の従業員を引き継ぎ、再建を目指す。

会社分割方式の最大の利点は、過去と決別できる点にある。法令を軽視する企業体質をつくった創業者の兼重宏行前社長と長男の宏一前副社長を排除しなければ、傷ついたブランドイメージを回復できないからだ。

ウィーカーズは特別目的会社(SPC)の2段階方式になっている。伊藤忠が51%、伊藤忠エネクスが49%出資してSPC1を設立。SPC1が49.9%、JWPが50.1%出資してSPC2をつくり、当初はSPC2がウィーカーズの100%株主となる。3社の出資額は計400億円。負債の引き受け分も含めると買収総額は600億円になるとみられている。

議決権ベースの株式保有比率はJWPが95%。伊藤忠側は5%。新会社のオーナーは伊藤忠ではない。主役はJWPだ。

新会社の社長には英タイヤ小売り最大手を立て直した経験などを持つ伊藤忠商事元執行役員の田中慎二郎氏が就任。取締役7人のうち4人がJWPから出た。出資額と取締役はJWPが過半数を占める。新会社はJWPの会社なのだ。

どうして、こんなややこしい仕組みにしたのか。新会社は伊藤忠の住生活カンパニーの持ち分法適用会社となり、伊藤忠は議決権比率に応じた損失を担うことになる。つまり、何が起ころうと伊藤忠の決算への影響は限定的なのだ。

BMは不正発覚後、毎月赤字で資金の流出が続いている。止血したうえで黒字転換させ、金融機関から融資を受けられる環境を整えるのがJWPの役割。伊藤忠は2~3年後をめどに、JWPから新会社の全株式を取得し、完全子会社にする方針だ。

新会社の設立に伴い、BMの社名はBALM(バーム)に変更され、債務処理や損害賠償などの対応に当たる。BMの全株式を持っていた創業家の資産管理会社ビッグアセットはSPCに全株式を譲渡した。譲渡額は実質、無償に近かったと伝えられている。JWPがSPCを買収し、BMの存続会社バームの100%株主となった。

伊藤忠や同社子会社、再生ファンドが出資する400億円の一部がバームに支払われ、負債返済の原資となる。創業家はバームに100億円を拠出する。

伊藤忠なりのやり方で兼重宏行・宏一親子や創業家一族にケジメをつけさせたわけだ。

「1代で富を築いた成功の証しであった東京・目黒の500坪の大豪邸や高級避暑地・軽井沢の豪華別荘は、創業者が100億円を拠出する際の借り入れの担保に取られた」(関係者)と取り沙汰されている。

伊藤忠など3社への売却が決まって、BMは2023年9月期の純損失が708億円だったとの決算公告を公表した。10月以降の758億円の特別損失を前倒しして計上したことが響いた。22年9月期の純損益184億円の黒字から大幅に悪化した。

オートバックスセブン、双日、オリックス。さまざまな企業が再建スポンサーとして浮上しては消える中、伊藤忠が火中の栗を拾った。「JWPが伊藤忠に買収を持ちかけた」と報じられたこともある。

BM買収の仕掛け人JWPとは何者で、伊藤忠の狙いはどこにあるのか。

(有森隆/経済ジャーナリスト)

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