【6月12日付社説】尾瀬の行動計画/訪ねることが保全への一歩

 本州最大の高層湿原が広がる尾瀬は、希少な動植物に富み、美しい風景で来訪者を楽しませてくれるかけがえのない場所だ。次の世代に引き継ぐために、利用促進を環境保全につなげる好循環を生み出す必要がある。

 本県など4県にまたがる尾瀬国立公園の入山者数の低迷が続いている。尾瀬ブームを担ってきた団塊の世代の高齢化やレジャーの多様化などが要因だ。昨年は約16万3千人で、新型コロナウイルス禍前の6割ほどにとどまった。

 入山者数の低迷は、救護活動や登山道の整備など公益性の高い役割を担う山小屋の経営に影響を及ぼす。木道や登山道の整備、ニホンジカによる植物の食害対策などに必要な人手が不足すれば、尾瀬の魅力が低下し、入山者数の減少に拍車がかかる恐れがある。

 環境省や県などでつくる検討組織は、新たに策定した行動計画で「このままでは近い将来、尾瀬全体の管理水準が著しく低下する」としている。入山者数の回復で、雄大な自然に親しめる環境の維持向上を図ることが急務だ。

 行動計画では2026年の入山者数の目標を、ピーク時の65万人の3分の1に当たる20万人に設定した。訪問回数に応じて、利用1回目の「ビギナー」、2回以上の「リピーター」、保全活動の担い手となり得る「ファン」の3層に整理した。尾瀬との関わりを段階的に深める仕組みをつくり、来訪者の裾野の拡大を目指す。

 尾瀬は2千メートル級の山々を登れる場所でありながら、国立公園の中心部ではゆったりとハイキングができる。料理を通じてシカの食害を考えてもらおうと取り組む山小屋や、戊辰戦争の際に会津軍が築いた土塁跡がある大江湿原など、登山に限らない誘客材料がある。

 現地に足を運んでもらうことは経済的な貢献になるだけでなく、入山者が保全活動への参加に関心を持つ契機となる。行政や民間団体には、ビギナー層などを獲得するために、自然や食、歴史などの魅力を結び付けて訴求力を高めることが求められる。

 度重なる開発の波にさらされてきた尾瀬は、日本の自然保護運動の先駆けの地として知られる。近年は深刻さを増す気候変動の影響から、雪が多く寒冷な環境下で成り立つ尾瀬の生態系をどう守るかという課題が浮上している。

 尾瀬保護財団によると、湿原では今、タテヤマリンドウなどの草花がにぎやかに咲いている。あとひと月もすれば、ニッコウキスゲのシーズンとなる。現地を訪ね、尾瀬の将来を考えてほしい。

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