「嵐」「キンプリ」「松潤」… 旧ジャニーズタレントが続々と新会社を設立するワケ【登記簿から読み解く】

個人事業主が株式会社を設立するメリットとは(beauty-box / PIXTA)

「SMILE-UP.」社(旧ジャニーズ事務所)から業務を引き継いだ「STARTO ENTERTAINMENT」社(以下、スタート社)が、4月から本格始動。時を同じくして、所属タレントが新会社を設立する動きが顕著になっている。

嵐、TOKIOも「グループエージェント契約」

先人を切ったのは嵐。

嵐は、すでに二宮和也(40)が、昨年10月24日にSMILE-UP.を退所し、グループとしての活動は継続しながら、個人での活動を開始していたが、3月25日に、改めてメンバー全員で「株式会社嵐」を設立した。

グループとしての活動は続ける方針。会社設立の意図については「これまで以上に主体性をもち、これまで以上に主体的に判断をし、これまで以上に主体的に行動したい。そして何よりも、日々応援して下さるファンの皆さまに、より近くに感じてもらいたい。より積極的でありたい。そんな想いから5人で何度も何度も話し合い、会社を設立致しました」と説明した。

嵐は、スタート社のサイトでは、「グループエージェント契約」と明記されており、先に旧ジャニーズ事務所で会社を設立していたTOKIOと似たような立場となった。ちなみに、TOKIOもスタート社のサイトでは、「グループエージェント契約」と記載されている。

株式会社嵐の登記簿を見てみると、代表取締役は、弁護士で映画製作会社「スターサンズ」の四宮隆史氏。取締役はひとりで、メンバーなどの他の取締役は置いていない。以前から嵐との仕事での関係もあり、スタート社移籍時もメンバーとの間にたってスタート社との調整役にあたり、その関係も良好な四宮氏に〝一任〟している格好だ。

代表取締役は永瀬、高橋メンバー自らが就任

それに続いて、4月8日には、King&Princeの永瀬廉(25)と高橋海人(25)が「King&Prince株式会社」を設立。

キンプリは、2023年5月に平野紫耀(27)、神宮寺勇太(26)、岸優太(28)の3人が脱退し、滝沢秀明(42)率いるTOBEに移籍していたが、残る永瀬、高橋のふたりも、会社設立を機にスタート社とは「グループエージェント契約」に切り替わり、嵐と同じくにスタート社のサイトにも明記されている。

登記によれば、こちらは、代表取締役は永瀬、高橋自らが就任しており、他の取締役はゼロ。スポーツ紙芸能担当記者が解説する。

「スタート社の福田淳社長は、新会社を設立するにあたり、旧ジャニーズ事務所との経営の分離を明確に示唆していた。所属していたタレントに対しても、独立、マネジメント契約、エージェント契約など、タレントに自由に選んでもらって構わないと〝タレントの意思〟を尊重する方針を打ち出していました。それで昨年の秋以降、まずは、特にソロで俳優としてすでに実績があるタレント、すなわち二宮和也、生田斗真、岡田准一、風間俊介などの退所が続きました」

登記の『目的』欄には多数の業務が…

しかしここへ来て、すでに株式会社嵐を設立し、スタート社とは「グループエージェント契約」を結んでいる嵐メンバーの松本潤(40)が、6月1日、さらに個人の新会社「MJC Inc.」を立ち上げたことが発表された。

登記簿によれば、登記日は5月16日、代表取締役は松本一人であり、完全な個人会社である。

「登記の『目的』欄を見ると、嵐のほうは、芸能プロダクションの経営にはじまり、タレントのマネジメント業務、肖像権や楽曲の版権管理、ファンクラブの管理などが明記されています。一方、キンプリの会社も、タレントのマネジメントや肖像権、著作権等の知的財産権の管理業務なとど、一般的な芸能事務所の登記でよく記載されている内容です。しかし、松本の会社は、一般的な芸能事務所の業務を含む、全部で26項目にわたる細かい業務が記載されており、異彩を放っています」(前出の記者)

具体的には、芸能やエンターテインメント事業に関係する業務以外に、「12.金融商品の取得、保有、運用及び売買等」、「13.仮想通貨の企画、開発、発行、売買、仲介、斡旋、管理及び投資運用」「14.電子マネーその他の電子的価値情報及び前払式支払手段の発行、販売及び管理」といった〝マネー業務〟から、「17.有料職業紹介及び労働者派遣事業 」「18.飲食店の経営、企画及び管理」「19.美容サロンの経営、企画及び管理」「21.美術品類の購入、輸入、販売及び輸出 」、さらには、「22.古物の仕入れ及び販売、古物の売買の媒介、取次ぎ及び代理、並びに古物の保管業務」「23.倉庫業務」「24.農業及び農地の賃貸借 」「25.不動産の売買、賃貸借及び管理」に至るまで、非常に多岐にわたっている。

「松潤は、舞台演出やマネジメントなど、芸能の〝裏方〟への興味も強いと報じられていますが、登記の『目的』欄のラインアップを見ると、嵐のグループ活動に固執することなく、個人としても、あらゆる業界に進出するチャンスを想定していることが見て取れます」(前同)

株式会社を設立するメリット

しかし、こうして所属タレントが、古巣の芸能事務所と関係を持ちながら、株式会社を設立することには何のメリットがあるのか。法曹関係者が解説する。

「一般的に、個人事業主が株式会社を設立するメリットには以下の3つがあると言われています。

(1)個人で活動するより社会的信用度がアップする。
(2)株式を発行することで資金を集めやすくなる。
(3)事業がうまくいかなくなった場合でも出資額を超えた損失は負わない。

株式会社は登記さえすれば、資本金1円でも設立できますが、今回の3つの会社はともに資本金を数百万円で設定しており、今後、事業の拡大とともに増額していくことが予想されます。それぞれスタート社とは細かな話し合いが行われた末での決断だと思いますが、嵐が決意表明したように、〝エージェント契約〟として、スタート社との関係は保ちながら、より自立的で、主体的な活動をしていくことが目的だと思います」

新会社設立は双方にとって都合が良い!?

さらに、旧ジャニーズ事務所のタレントにとって、新会社を設立しスタート社と距離をおくことには、また違ったメリットがあるという。夕刊紙芸能担当記者の話。

「いまだ故・ジャニー喜多川前ジャニーズ事務所社長による性加害問題は終結にはいたっていない。先月5月には、国連の人権作業部会は、SMILE-UP.社が被害者への補償金の支払いを進めている点について『努力は認める』としつつも『救済を求めている被害者のニーズを満たすにはまだ遠い』と厳しい見解を示しています。国際的な世論においては、まだ旧ジャニーズ事務所の性加害問題は終結していないのです」

こうした中、NHKの稲葉延雄会長は5月22日の定例会見で、現在、ストップしているスタート社の所属タレントの今後の起用について、「被害者への補償や再発防止策が確実に実施されていることが確認されるまでは当面、新規の出演依頼は行わないという方針に変わりはない」と厳しい姿勢を示している。

「海外進出を果たしている企業のCM出演や、NHKなどへの番組出演において、旧ジャニーズのタレントは、現時点では、スタート社とは距離を置いておいたほうが今後の活動のためには都合がいいという判断が働くのでしょう。〝自分はスタート社に所属しているのではなく、あくまで対等な関係のエージェント契約である〟ということを内外にアピールするためには、新会社を設立することは非常に都合がいいんです。ということで今後もこの流れは続くと思いますね」(前出=夕刊紙記者)

スタート社と袂(たもと)を分かつという極端な選択には至らずとも、タレント、スタート社双方にとって都合のいい新会社設立の流れは今後も続きそうだ。

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