「年金だけでは赤字」白タク行為で逮捕された70歳男性が裁判で語った“犯行”の背景

「手っ取り早くお金を稼ぐには白タクをするしかない」(Luce / PIXTA)

白タクはいわゆる許認可を得ることなく、客を有償で運ぶ行為をいう。道路運送法では、客の安全などを図る目的で許認可を受けなければならない(4条)としており、違反すれば3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金に処される(96条)可能性がある。

今回、紹介する裁判では、白タク行為をしたとして運送業法違反の容疑に問われている70歳の男について取り上げる。

男の妻「収入が減るから黙認していた」

昨年8月、男は白タクをして、女性を札幌市白石区で下ろしたとされている。利用した女性は「普段からお世話になっていた」などと話している。

「タクシーより安く、使っている。いつもは大体700円で利用している」(利用者の女性)

被告人の妻は「白タクの仕事をやっていたことは知らなかったが、帰ってくる時間などを考えると白タクらしきことをやっていたのは想像できた。仕事のことは聞かないことにしており、収入も減ることになるから黙認していた」と話した。

被告は2014年にも白タクをした容疑で逮捕され、罰金70万円を科されている。被告人はその際「反省しているが余裕ある生活をするため、手っ取り早くお金を稼ぐには白タクをするしかないと思っている。家族のためにも白タクをする。今後も白タクを続けると思う」と引き続き白タクをすると話していた。

被告人は白タクをしている午前0時から6時までの間、主に女性をできるだけ目立たない場所から乗せていた。携帯には1000~3000人の連絡先が登録されており、乗客を相乗りさせて割引料金を適用することもあったという。

被告人「毎日10人から15人の乗客を乗せ、1人約800円、毎月15~25、30万円の売り上げの時もあった。今後は妻と話し合ってから決めたい」

「稼げるからライドシェアする」

弁護側からの被告人質問。
「昨年8月に白タクをした。無許可でやることがだめだったことは知っていたか」

被告人「知っていた。捕まったらまずいな、懲役刑になるかもなと思っていた」

弁護側「白タクはいつから始めたか」

被告人「約20年前から捕まるまでやっていた。きっかけはパチンコ屋で出会った知り合いが白タクをやっており、『手伝わないか』と誘われたから。2年くらいは断っていたが、それでも誘われるので1回やってみたところハマった。白タクは生活費のためだった。辞めようと思ったが、生活のためにやった」

被告人は内縁の妻とその姉とともに生活。生活費は被告人と姉の年金で賄われ、月に約22~23万円だった。

「赤字状態だったから白タクをやった。今もぎりぎりで生活している」(被告人)

前述の通り、「(2014年逮捕時に)今後も白タクをする」と話していた被告人。しかし、今回の裁判では「今後は白タクをしない」と話した。この約10年で心変わりがあったのか。

弁護側「なぜ白タクをしないことにしたのか」

被告人「妻と話して、白タクをやらないことにした。アルバイトとして働こうと思い、求人を探しているが、年齢制限もあってなかなか見つからない。そのため、警備会社かライドシェアの仕事をしたいと思っている」

検察側も質問する。

検察側「妻からは『運転』をやめるように」と言われているはず。どうしてライドシェアが選択肢にあるのか」

被告人「収入がある程度稼げるからですね」

検察側「生活費を切り詰めるとか、やるならできるでしょう?どうしてやらないの」

被告人「...」

裁判長「なぜ正職員としてタクシー運転手にならなかったの?」

被告人「(二種)免許を持っていないから無理。免許の取得は考えていない」

裁判長「ルールを守れない人は信用されませんよ」

裁判は結審し、検察側は「前科から白タクをするなど犯行態様は悪質で、反省の気持ちもない」として懲役1年を求刑。弁護側は「非難されるのは当然」としながらも、「反省している。更生へ向けた努力もしている」として情状酌量を求めた。

今年4月から「日本版ライドシェア」解禁もタクシー業界は慎重な姿勢、インバウンド対応と人手不足の間で

今年4月、自家用車を用いて一般ドライバーが有償で客を運ぶ「日本版ライドシェア」が解禁された。ただ、解禁といっても「時間帯・期間限定」などある程度の条件がつく。また運送の主体となるのはタクシー事業者で、東京都や神奈川県などの一部地域のみが対象だ。

日本政府観光局(JNTO)が発表した訪日外客数(今年4月推計値)は304万2900人で、前年同月比で56.1%と5割以上増加しており、新型コロナウイルス感染拡大前の19年同月比でも4%の増加。日本を訪れる外国人の数が増えている。また道内での昨年4~9月までの観光入込客数は3198万人で、前年同期比で18.8%増えており、このうち96万人が外国人だったという。

2024年4月国別訪日外国人客数(対2023年比「日本政府観光局(JNTO)」より)

それと同時に深刻なのが、ドライバーを中心とした人手不足だ。帝国データバンクが今年2月に発表した人手不足に対する企業の動向調査によれば、正社員の人手が不足している企業は52.6%と半数以上あった。特に物流業では全体で72%が人手不足に陥っている結果が浮き彫りになった。調査の中で同社は、今年4月から時間外労働の上限規制が適用されたこともあり、労働力不足の深刻化と機能の行き詰まりを指摘していた。

ライドシェアをめぐっては、川鍋一朗全国ハイヤー・タクシー連合会会長が毎日新聞のインタビューの中で、ライドシェアを全面解禁すれば「血みどろの戦い」になるなどとして慎重な構えを見せている。ライドシェアを全面解禁すべきか、一部の地域のみにすべきか。それとも過疎地のみの導入など別の方法を考えるか。わが国は大きな選択を迫られているのではないだろうか。

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