【天風録】認証不正と創意工夫

 生産ラインの傍らで、小さな人形の口から舌のように部品が出てくる。そこから作業者がつまみ取る。部品箱から取り出すより楽で速いという。人形を作ったのは作業者本人。「材料費はたった数百円」と胸を張った▲かつてマツダの工場を訪れた際の光景だ。人形が今も現役か分からないが、わずかな無駄を省くため不断に作業を見直す姿勢は印象に残った。広島最大の会社でも、世界の自動車業界では中小規模。資金力の差を、現場の工夫とやる気で補ってきた▲型式指定の認証不正問題で、マツダはエンジン試験の規定を外れ、制御ソフトを書き換えていた。実際に人が運転する条件に近づけようと工夫したのかもしれないが、ルール違反には違いない。幹部は「認証試験に創意工夫は要らない」と自戒する▲型式指定は大量生産を支える大事な制度だ。その根幹となる認証試験をゆがめる行為は見過ごせない。国を代表する産業でマツダを含む5社が不正に問われて、日本ブランドは傷ついた▲行政処分に誠実に応じ、将来この問題を「法令順守を徹底した節目」と振り返れるようにしてほしい。知恵は使いどころ。技術や作業の改善にこそ、存分に発揮すればいい。

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