自然はアーティスト 自然音を使った楽曲を配信し、ロイヤリティを自然保護へ

Image credit :Sounds Right

国連ミュージアム「UNライブ」は、自然が奏でる音から自然保護資金を生み出す世界的なイニシアチブ「サウンズ・ライト(Sounds Right)」を立ち上げた。この取り組みは、自然の価値について世界が意見を交わすきっかけをつくり、数百万人の音楽ファンが地球を保護するために意義ある行動を取ることを支援するのが目的だ。(翻訳・編集=小松はるか)

Sounds Rightは、ミュージシャンやクリエイター、自然音の録音家、環境保護団体、キャンペーン団体、世界的なアドボカシー団体との緊密な連携により開発され、提供されるものだ。波や風、暴風雨、鳥のさえずりなどの時代を超越した“クラシック”な音をはじめとして、自然には音楽に貢献してきた長い歴史がある。自然はこれから、大手音楽配信サービスでプロフィールが紹介される公式アーティストとなるのだ。UNライブによると、音楽ファンは自然界の音を特集した音楽を聞くだけで、自然の保護・回復事業への資金の提供に貢献できるという。

UNライブのカーチャ・アイヴァーセンCEOは、「音楽のような大衆文化には、数百万人以上を巻き込み、前向きな変化を大きな規模で起こし、全ての人をより持続可能な方向へと導く力があります。共感力が低下し、多くの人が自らの行動はあまり重要ではないとしばしば感じている世界において、Sounds RightやUNライブは、人がすでに集まっている場所、つまりスクリーンやイヤホンを通じて、そして聞き手が共感できるストーリーや形式、聞き手が価値を感じられる活動によって、 人々とつながるのです。自然を真に価値のあるアーティストとして認識することが“ゲームチェンジャー”になります」と話す。

今回の取り組みには、コロンビアからノルウェー、ベネズエラ、ケニア、デンマーク、英国、米国、インドネシアを経由してインドに至るまで、さまざまな地域からアーティストが参加している。世界の生態系が生み出すサウンドを取り入れ、“Feat. Nature”として新しい楽曲やリミックスしたヒット曲を公開している。さらに、Listening Planetや VozTerraが自然生態系の音を録音した臨場感ある自然音はファンをリラックスさせる。

例えば、エリー・ゴールディングの「Brightest Blue — Nature Remix」は、VozTerraが録音したコロンビアの鬱蒼(うっそう)とした熱帯雨林の音を使用する。ブライアン・イーノとデヴィッド・ボウイが共同で書き、イーノが新たにミックスした「Get Real」は、ハイエナやミヤマガラス、野性の豚の鳴き声を取り入れている。アヌヴ・ジェインの「Baarishein」は母国インドの雨音を取り入れており、コスモ・シェルドレイクの「Soil」は地下生態系の生成能力に対するオマージュだ。Louis VIと、音響生態学者でListening PlanetとBiophonicaの創設者マーティン・スチュワートがコラボレーションした「Orange Skies」は、アーティストのミック・ジェンキンスとジェラニ・ブラックマンも参加し、ボルネオの熱帯雨林の音を使い、森林火災による環境破壊に焦点をあてた楽曲だ。

イーノはBBCの取材に、「アーティストに言いたいのは、『私たちは皆、カモメの鳴き声や波、風の音を使っているのに、なぜ自然に印税を払わないのか?』ということです。うまくいけば、印税の川、もしくは激流、洪水になるでしょう。私たちが取り組むのは、未来に対処する手助けとなる事業に取り組む人たちに印税を分配することです」と語っている。

全楽曲はSpotifyのプレイリスト“Feat. Nature”で楽しむことができ、主要な配信プラットフォームでも聞ける。

日本人の母を持つシンガソングライターのUMIとBTSのVも参加する  Image credit:Sounds Right

この新たなイニシアチブが目指すのは、音楽ファンを動かし、資金を集め、自然にどう価値を付けるかについて世界を巻き込んで話し合い、地球を保護するべく協働するために主体感を呼び起こすことだ。音楽ファンには、生き物を観察するために朝の鳥の声を録音したり、持続可能な行動を取るなど、自然保護のために自ら行動を起こすことが推奨される。こうしたこと全てが変化を起こすためのムーブメントを生み出すのに役立つ。Sounds Rightは、最初の4年間にリスナーが6億人を超え、自然保護のために4000万ドル以上(約63億円)を生み出すと予測されている。

Sounds Rightは大事な時期に登場した。世界の野生生物の生息数は過去50年間で平均69%減少し、少なくとも120万の生物種が絶滅の危機に瀕していると推定される。生物多様性は、企業のサステナビリティの取り組みにおける重要な検討事項に加えられている。Sounds Rightは、クリエイティブ産業への自然の貢献を認識すると共に、人間が一方的に自然の恩恵を受ける関係をひっくり返すことに目を向けている。

オトミ・トルテック族のリーダーでSounds Rightの専門諮問委員会のメンバーであるミンダヒ・バスティダ氏は、「生物文化遺産は音楽使用料や寄付から大きな恩恵を得られるでしょう。ある意味、これは音の魔法を通して人間の心を奮い立たせ、元気づけてきた生命システムにお返しをするということです。永続的な相互関係のなかで生きていく時がきたのです」と話す。

UNライブは、Sounds Rightは1回限りのものではなく、定期的な楽曲リリース、世界の自然の価値についての議論など、自然を広範囲から支援する始まりなのだと述べている。さらに、このイニシアチブは、楽曲使用料を得て、それを大きなインパクトをもたらす世界中の自然保護プロジェクトに分配するために、信頼性が高く、より広く展開できる新たな財務の仕組みを作り出している。そして、私たちの社会や経済モデルにおいて自然がどのように評価され、評価されるべきかについて議論を活発化させるだろう。

今回のイニシアチブは、UNライブが特別なパートナーらと緊密に連携して開発したものだ。そのパートナーにはAKQA、Axum、Biophonica、Community Arts Network、Count Us In、Dalberg、EarthPercent、Earthrise、Eleutheria Group、Hempel Foundation、LD Communications、Limbo Music、Listening Planet、Music Declares Emergency、No.29、Rare、VozTerraが含まれている。

Spotifyは、音楽産業の気候基金「EarthPercent」が管理するSounds Right基金に慈善寄付を行い、Sounds Rightを支援する。さらに、自然保護を支援するためにSpotifyのアプリ、OOH(Out of home)メディア、ソーシャル・チャンネル通じてキャンペーンを推進する。

EarthPercentの共同事務局長のキャッシー・ランシマン氏は、「このように多くの才能あふれるアーティストの方々が自然のサウンドにクリエイティブな形で関わることを楽しみに思い、さらにSounds Rightの主目的である、自然の音楽に対する貢献を公平に補償することを支持してくれていることは素晴らしいことです。私たちは、多くのアーティストが自然を保護・回復することについて深く思いを寄せていることを知っています。そして、プレイリスト“Feat. Nature”を通じてこうしたコラボレーションを立ち上げることができ、生物多様性にプラスの影響を与えられることを嬉しく思います」と述べている。

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