個人資格での選手参加も判然としない中…組織委から突然排除されたロシア人ボランティアの失望と怒り

マクロン仏大統領(C)ロイター

【7.26パリ大会開幕 徹底!実践五輪批判】#7

パリ五輪はどんなオリンピックになるのか? 最大の疑問はロシア人選手の参加が何人になるかだが、いまだに謎である。

参加は個人種目に限られるが、競技力の高い彼らの活躍は五輪が至高の総合競技会であるためには欠かせない。

五輪理念上も、所属国家の政治性を超えて参加するロシアの「中立的選手」は貴重な存在だ。それが国際オリンピック委員会(IOC)やパリ五輪組織委員会の本音だろう。

出場資格のあるロシア選手が最終的にどういう決心をするのか? 資格停止中のロシア五輪委がどう出るか? しかし、現段階でハッキリしていることがある。それはパリ五輪にロシア人ボランティアは今のところ存在しないということだ。

オリンピックボランティアは五輪運営の生命線であり、重要な役割を果たす。彼らの存在がオリンピックを支えてきた。無報酬で五輪運動に関わる名誉だけで献身的に働く人々である。

組織委は4万5000人のボランティアを募集した。

数十人のロシア人も応募し、いったんは採用が決まったにもかかわらず、取り消されたというのだ。

そのロシアのボランティアグループのひとりであるA氏によれば、彼らの中には過去に何回も五輪ボランティアを経験した人も含まれており、純粋にオリンピズム、友情、敬愛の価値観を信じパリのオリンピックとパラリンピックに貢献したいと思っていたが、それを反故にされ、失望と怒りを覚えているという。

彼らは通常どおり組織委の公式サイトから申し込み、昨秋にはボランティア就任への招待が届き、参加を確認した。さらに今春には勤務時間が通知され、オンラインでの研修を始めた。その時点でビザを取得して、航空券も予約したのだそうだ。

ところが4月29日になって「理由はわからないが、セキュリティーを通過できず、パリ五輪ボランティアへの参加が取り消された」という組織委からの書簡が全員に届いた。それ以来、彼らのプロフィルはブロックされ、組織委からの連絡は一切なくなった。

■マクロン大統領へ手紙を書くと…

長年スポーツボランティアを経験し、今回のパリ五輪を最後のお勤めと仏語も学んで備えていた78歳になる女性の思いを知ったA氏は泣いた。そしてマクロン大統領、ダルマナン内務大臣、そしてエスタンゲ組織委会長に手紙を書いた。

5月初めに送った手紙への返事は長らく来なかったが、5月28日になってフランス内務省から公式な返答があり、彼らの努力が大臣の関心を呼び起こし、パリ2024安全担当責任者に再検討を託したということだ。オリンピズムに忠実なロシア人たちがパリのオリンピックとパラリンピックで世界中から集まるボランティアとともに貢献できたら、それはひとつの平和運動の証左になるだろう。その実現はフランス政府にかかっている。

(春日良一/五輪アナリスト)

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