難問の入り口(6月14日)

 英国の作家コナン・ドイルの作品で活躍するシャーロック・ホームズは、世界で最も有名な架空の探偵だろう。数々の事件を解決して引退した後は養蜂に励んだ。小説「最後のあいさつ」で相棒のワトソンが明かしている▼蜂を養育する歴史は古い。紀元前2500年ごろ、エジプトでは既に取り組んでいたようだ。技術を絵に描き残している。得られた蜂蜜は食料や薬に使われ、神への捧[ささ]げ物となった。ミツバチは世界の神話や物語にも登場する(クレア・プレストン著「ミツバチと文明」)▼農作物に授粉し、人類に恵みを与える身近な生き物が苦難の時代を迎えている。農林水産省によると、ミツバチが蜜を採る蜜源植物の面積が全国で減っている。人間による山野の開発も一因らしい。県養蜂推進協議会は、いわき市でトチやビワなどを植え始めた。植栽できる土地を探し、手間を惜しまず手入れを続ける。関係者は「ミツバチを守り、その大切さを多くの人に知ってもらいたい」と願う▼今年度は会津地方で予定し、いずれは県内全域で蜜源を増やす構想だ。かの名探偵が聞けば、「ワトソン君、福島の努力が難問を解く入り口になる」と膝を打って喜ぶだろう。<2024.6・14>

© 株式会社福島民報社