【環境考察/気象の変化】温暖化近づく転換点、化石燃料から脱却急務

えもり・せいた 神奈川県出身。東京大大学院総合文化研究科博士課程修了。国立環境研究所地球システム領域副領域長などを経て2022年4月から現職。

 世界の平均気温が上昇し、猛暑や豪雨など「異常」な気象が続いている。気温の上昇を止めるため、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)で第5、第6次報告書の執筆に関わった東京大未来研究ビジョン研究センター・大学院総合文化研究科広域科学専攻の江守正多(せいた)教授(54)は「化石燃料からの脱却」を強く訴える。

 昨年より暑い年に

 江守氏は記録的な猛暑となった昨年について、南米ペルー沖の海面水温が高い状態が続くエルニーニョ現象によって「気温が上振れした」としながら「長期的な傾向として世界の平均気温が上昇している。その分だけ気温が高くなりやすい状況にある」と指摘。今後も地球温暖化が進む限り「昨年よりさらに暑い年が必ずくる。(暑さに関する)記録を更新していくことは間違いない」と警告する。気温上昇が続き、南極の氷が崩壊するなど、急激で後戻りのできない変化をもたらす「ティッピングポイント」(転換点)も近づいていると述べた。

 世界の平均気温が産業革命前(1850~1900年)と比べて上昇していることについて、第6次報告書では「人間活動の影響であることは疑う余地がない」と初めて断定した。それまでは「可能性が極めて高い」など、自然変動の影響も考慮していただけに、大きな転換点となった。江守氏は「気温の上昇がはっきりし、科学的な理解も進んだからではないか」とした上で「人間の活動が地球環境を変える最大の駆動力になっている。地球の歴史の中でもすごく特別な時代を生きているということを私たちは受け止めなければいけない」と話す。

 常識変える必要性

 温暖化を止めるため、国は「2050年までに温室効果ガス排出量の実質ゼロ」を掲げ、県もさまざまな取り組みを進めている。江守氏は実現に向け「既に猶予がない状態にある」と危機感を示す。それでも「化石燃料に依存しない文明に移行していかなければ」と述べ、再生可能エネルギーの活用など、社会のシステムの見直しや発想の転換、これまでの常識を変えることが必要だと訴える。

 ただ、気候変動に関する問題は「スケールが大きく、関心が持ちにくい」という。江守氏はそのことに理解を示しつつ「例えば暑くて子どもが外で遊べないとか、水害が近くで起きたとか、身近に変化が起きたときにいろいろ考えるきっかけにしてほしい」と語り、こう付け加えた。「温暖化は世界的な問題だが、私たちも世界の中の一人。自分のこととして考えると同時に、他人に共感することも大事。『やらなきゃ』という気持ちではなく、前向きな気持ちで変化に取り組んでほしい」第3部おわり

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC) 国連環境計画と世界気象機関により、1988年に設立された国際組織。科学者と政府関係者で構成し、三つの作業部会が地球温暖化の予測、影響、対策をまとめた報告書を定期的に公表している。報告書は90年に第1次が公表され、直近は第6次。気候変動の知識を広めたとして、2007年にノーベル平和賞を受賞した。

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 この連載は中島和哉が担当しました。

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