事務職から島のバス運転手に Uターンした女性が決断 「島民を一番に」変革を模索 佐世保

「一人一人に寄り添った運転手になりたい」と話す菅さん=佐世保市宇久町

 長崎県佐世保市の離島、宇久島唯一の公共交通機関、宇久観光バスにこの春、女性の運転手が初めて誕生した。島出身の菅玲央奈さん(34)。3年半前にUターンして事務職で入社したが、運転手のなり手不足に直面し、手を挙げた。「一人一人に寄り添った運転手になりたい」。そう思い、バスのハンドルを握っている。
 高校卒業後、進学で島を離れ、福岡市内の建築事務所に就職した。Uターンしたのは新型コロナウイルス禍の2020年。父の病気が分かり、家族の時間を増やそうと考えた。
 事務職として働きながら運転手のなり手不足を痛感。求人募集を回覧板で回したり、自衛隊退職者に呼びかけたりしたが応募がなかった。
 通学で使う小中学生、病院通いの高齢者-。高齢化率が6割に迫る島で、バスは住民の足として欠かせない。「誰かが運転手にならないとバスがなくなってしまう」。自身が運転席に座る決断をするのに、そう時間はかからなかった。
 今年2月、大型2種の免許を取得。4月1日にデビューした。運転する中型バスは乗用車と比べて目線の高さやカーブの感覚が異なり、死角も多い。人の命を預かる責任感も加わり、ハンドルを持つ手に力が入る。「無事に車庫に戻るとほっとする」と笑う。
 常勤の運転手は菅さんを含め2人だけ。週に5日、主に午後の便に乗車し、事務職も兼務する。人口減が進む島で、島民の利用状況に合った見直しは避けられない。便ごとに各停留所の乗降客の人数を調べ、客が少ない区間で予約制を導入。乗降客がいない時はショートカットする区間を新設した。
 一方、運転手になる前から人口の少なさを逆手にアイデアで差別化を図ってきた。菅さんは「記憶に残ることはできるはず」と中学生以下の子どもたちが描いたバスの絵を車内に展示し、乗客が審査するコンテストを企画。七夕やクリスマスの時期には地元の幼稚園児らに車内を飾り付けてもらうなど島民の触れ合いにも一役買った。
 運転手になり2カ月。大事にするのは乗客とのコミュニケーションだ。小中学生には「いってらっしゃい」「おかえり」と声をかけ、待機時間中に乗車した人とは世間話に花を咲かせる。菅さんにとって、バスに求められていることを知れる貴重な時間だという。
 島の人たちも、運転する菅さんに笑顔を送り、温かく見守る。菅さんは「事務職よりお客さんと近くなった。運転手になってよかった」と充実感に満ちた表情で語る。今後は、運転時間を増やしつつ、ホームページや運行内容の充実にも力を入れたいという。島民を一番に考えた“変革”は続く。

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